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第37話 赤軍参謀カティンカ=クンツェンドルフ

 四人は貨物室を出る。すでに外は暗く、わずかな非常灯だけが頼りであった。甲板は広い。よく手入れされた木の床がミシミシと音を立てた。

 その時――その床がはじけ飛ぶ。それはいくつも、まるで噴き出す泉のように。

 唯依ゆよりはユーリを、やさかはすざくを守るように背中で二人をかばい床に伏せる。

 銃撃、にしては音が静かである。だとするならばこの攻撃は――

「こちらの読み通り、来てくれたようだねぇ」

 はるか上から響く高い音程の声。そちらの方を向く唯依ゆより

 黒い空の切れ間に浮かぶ、鳥の群れ――のように見える人影。背にはまるで鳥のように羽をはばたかせて空中に舞う、人の群れ。それは当然、『魔法少女』たちの姿であった。

「その子を罠にすれば絶対来てくれると思ったわよ。日本の魔法少女」

 流麗な日本語でそうまくしたてる空中の人物。

 唯依ゆよりは立ち上がると、詠唱を始める。

 体に巻き付く光の渦。そして現れるのは身には鎧をまとう唯依ゆよりの姿であった。

「やさか、すざくたちを頼む」

 そう言うや否や、宙へと飛び立つ唯依ゆより。魔法による弾幕攻撃をかわしつつ、敵へと迫る。

 刀を抜く唯依ゆより。敵の魔法少女は一人だけではない。

 まず最初の魔法少女を一刀のもとに払う。

 そしてまた一人。

「強いねぇ。さすがは日本一の魔法少女だけあること」

 先ほどと同じ声が聞こえる。

 強い衝撃。それを唯依ゆよりは刀で払う。

 突然視界に入る、魔法少女。カーキ色の軍服にも似たそのいでたちは、明らかに魔法少女のそれであった。

 瞬時に反応する唯依ゆよりの一撃も、彼女の拳銃によって受け止められる。無骨なその拳銃は軍用拳銃らしかった。

「はじめまして、日本の魔法少女さん」

葦原九十九守唯依ゆよりだ。貴殿も名乗られよ」

 古式の作法にのっとり、唯依ゆよりは名乗りを上げる。

「これはこれは。ではわたくしめの自己紹介を。カティンカ=クンツェンドルフと申しますわ。カティンとでもおよびいただければ幸いです」

「ドイツ人か」

「ええ、でも敗戦後の今は赤軍でトロツキー様のもと特別政治将校兼東方革命赤軍参謀を拝命しておりますの」

 赤軍か......心の中で唯依ゆよりはつぶやく。カティンの連れている部下たちの魔法少女も多分そうであろう。

「わが赤軍にとって、あなた方日本の魔法少女や白軍の魔法少女は邪魔な存在ですわ。ならば一斉に片付けようと、そう思いました次第でございまして」

 慇懃な物言いに眉を顰める唯依ゆより

 軍用拳銃の弾丸を取り出し、何やら詠唱しながら弾丸をクエリップで込める。自動拳銃にしては珍しい給弾方法であった。

「わがドイツの誇るモーゼルC96、.30モーゼル弾の魔法付きの威力を――どうか、味わい下さいませ」

 その言葉が終わるか否か、まるで機関銃のように弾丸が放たれれた――

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