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第32話 報告書:木馬軍馬


『試作魔術式人造軍馬甲型 試験評価報告書』



 宮中にて行われた開発局研究成果御前披露における各種本兵器の実働を走行耐久試験と位置づけ、その成果をここに報告する。


 まず本兵器は軍馬に模した精巧な模型を魔術により稼働させ、戦場における人員および荷物の運搬、直接的な戦闘への参与を目的とする魔法兵器である。

 かねてより馬は人類の友としてかかる生活のあらゆる場面で重要な役割を果たしてきた。戦場においてもその有用性は言うに及ばず、人類史において戦争というものが発明されて以来欠くべからざる存在として機能したり。


 しかしながら軍馬の生産、調教および訓練、馬装の調達には莫大な時間と予算が必須であり、軍馬とは比較的裕福な層のみが戦場にて用いるものとの認識が一般化している。


 試作魔術式人造軍馬甲型はこのような既成概念を一掃し、戦場の常識をも変え得る画期的な魔法兵器なり。本兵器が量産化に成功した暁には、ヨルアサ王国軍の全兵士を軽騎兵とし、機動力によって敵を圧倒することが可能なり。


 走行耐久試験においても本兵器は諸元を満たす性能を発揮せり。生命を持たぬ木馬でありながら、その走破性、耐久性は、通常の軍馬に勝るとも劣らぬ性能を見せたり。本兵器の一日も早い実装、及び量産化が待たれるところではあるが、当該試験においては当初想定していなかった欠点が発見されたし。


 すなわち騎乗者にかかる身体的負荷が顕著であり、この一点において熟考の余地は大いにあり。素材の見直し等による騎乗者の負担を取り除く抜本的な措置なく本兵器を正式採用とした場合、ヨルアサ軍の精鋭たちが深刻かつ不可逆的な損傷を負うことは必至と愚考する。


 以上の評価をもって、試作魔術式人造軍馬甲型の一次評価試験を終了する。

 本兵器については早期の正式採用を目指し、継続して技術的課題の解決に精神奮励するものなり。



王国歴435年 甕虫かめむしの月22日

魔法兵器開発局

開発局顧問および技術試験隊顧問

クレノ・ユースタス技術中尉


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