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Ⅻ兵器の歴史はパクリの歴史

第62話 パクリ疑惑①


 第二王子ことルイス・リンデン・ヨルアサ率いる魔法開発局と、第三王女フィオナ・エーデルワイス・ヨルアサ率いる魔法兵器開発局の二者間で、共同研究開発協定が結ばれた。


 もちろん魔法開発局と手を組みたくないクレノは当日まで散々遅延行為を行った。


 フィオナ姫を適当なオモチャで誘い出したり、前々から「行きたい」と駄々をこねていた王都での遊びに誘ってみたりもした。

 しかし見えすいた手にはさすがのフィオナ姫も乗ってはこず、クレノはやむをえず作戦を魔法兵器開発局内での印象操作作戦に切り替えた。


 つまり、悪口である。


 カレンやハルトを使い、あの手この手で魔法開発局ルイス王子のところの信用を失墜させんとつとめ、一時は成功をおさめかけたのだが――。


 魔法兵器開発局で行われた調印式当日、クレノのしょうもない印象操作は灰燼かいじんに帰した。


 ほんの一瞬のことだった。ルイス王子がさっそうとやって来て、その清らかな紫水晶アメシストのまなざしでにこりと笑いかけただけで、職員たちみんなが王族のオーラと魅力に圧倒されてしまったのだ。男性たちもフェミニがやたら愛想よく振る舞ったせいですっかり「彼女が定期的に来てくれるならなんだっていいんじゃないか」という空気である。


 かくして、調印式が終わるころにはみんなクレノの悪口を言っていた。


 現在のクレノはハルト隊長やカレンというわずかな味方のみを残し、針のむしろに座っているも同然の状態になっていた。


「みんな、フェミニが『模倣もほう』の固有魔法を持っていること、忘れてるんじゃないのか……?」

「ねばるのう、クレノ……。いったいなにが不満なのじゃ」

「全部ですよ全部」

「どのみち、魔法兵器開発において魔法の力は必要不可欠じゃ。そなたひとりでは今後のことが心もとないであろう」

「うっ、そう言われると……」


 あながち否定もできないところである。

 優秀な魔法使いは引く手あまただ。どうみても将来性のなさそうな魔法兵器開発室に、わざわざ来てくれる魔法使いがいるとは思えない。


 それはさておき。


 ここのところ魔法兵器開発局にはダルい空気が流れていた。

 第二王子との模擬試合は敗北に終わった。もともと負けがわかっていた試合とはいえ、その時点でみんな目的を失ってしまったのだろう。


 そこでフィオナ姫は全体朝礼を行い、訓示を行った。


「みんなも知っての通り、三か月後、国王陛下がご照覧しょうらんになる恒例の閲兵式えっぺいしきが開かれることになった。この式典に魔法兵器開発局も参加し、最新の魔法兵器をご覧いただく! これを今後の開発方針とする!」

「はっ!」


 勝負に負けたからといって、そこですべてが終わるわけではない。

 ここがふんばり時だとクレノも思っている。

 その後、魔法兵器開発室に戻ってから、フィオナ姫はクレノたちを呼び出した。


「三か月後の閲兵式でお父様にごらんいただく魔法兵器のことじゃが——わらわは、そなたに作ってもらいたいと思っておる。クレノ顧問!」


 これがほんの少し前なら、クレノは嫌すぎて逃げ出していたところだ。

 でも、フィオナ姫の夢を知った今は違う。


「————はい」


 あまりにも素直に答えたので、同席していたハルトやカレンがたちまち心配顔になる。


「大丈夫なの、クレノ?」

「大丈夫だ。なんとかする。——それよりも、殿下はよいのですか。国王陛下に日々の研究成果を披露ひろうするせっかくの機会ですよ」


 フィオナ姫はうなずいた。


「よいのじゃ。これまでわらわは、わらわなりに精一杯の努力をしてきた。じゃが、模擬試合に負けたことではっきりとわかった。まだ、わらわの魔法兵器は人を感動させるほどの力はない。もちろん魔法兵器開発は継続するが、今回はそなたが適任じゃ、クレノ顧問。必ずや、その兵器づくりの才能を示し、国王陛下からおほめの言葉をちょうだいするのだぞ!」

「はっ!」


 クレノは敬礼する。

 まだ、新しいことに挑戦するのは怖い。

 だがフィオナ姫の夢に協力すると言ったのは、あれは本当の気持ちだ。


「それはそれとして……ルイスお兄さまのところから招待状が届いておる」


 フィオナ姫が一通の招待状を取り出した。


「どうやら、最新の魔法兵器を父王様の御前で披露するらしい。そのお披露目会にわらわたちも招待されておる。どうじゃ、行ってみんか?」

「そうですね。せっかくのおまねきですし、参上してみましょう」


 この先、本当にフィオナ姫が即位を目指すことになるのなら、第二王子ルイス・リンデン・ヨルアサは避けては通れないライバルになるはずだ。


 少し気が早いかもしれないが、これは大事な敵情視察だった。

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