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第98話 ウゴちゃんその後


『前略 フェミニの作った魔法生命体をご覧になってください。少し興味深い方法で作っているようです。俺の予測が正しければ、古代魔法を使っているのではありませんか?』


 魔法珍兵器開発室からそのような手紙が届いたのは、のんびりとした昼下がりのことだった。

 ルイス王子は自分専用の研究室でそれを受け取った。

 ヨルアサ王国軍が使っているシンプルすぎる便箋びんせんと封筒は、ほんの少し前までルイス王子の嫌うもののひとつだったが、ここ最近は魔法珍兵器開発室の名前があるのを見つける度に少しだけ表情が明るくなる王子である。

 手紙を読み、彼はすぐにフェミニを呼び寄せて該当の魔法生命体『ウゴちゃん』について調べてみた。

 フェミニはこれを純粋に魔法のみで生成しており、その過程にはクレノ顧問の指摘どおり古代魔法の技法が組みこまれていた。

 古代魔法というが、これは現在のように体系立った魔法ではなく『原初の祈り』と言うべきものである。たとえば、古代の世界に魔法はないが、貧苦にあえぐ人々が神に救済を求める祈りはあたりまえに存在した。それに対して神々が与えるパンや作物などの『奇跡』が、古代の人々にとっての魔法であったと考えられている。

 フェミニの魔法生命体はヨウ素で変色したことから、その体組織のほとんどの部分が澱粉でんぷんでできていることがわかった。

 手紙には続きがあった。


『もしもフェミニの魔法生命体が古代魔法を応用し、食物でできているとしたら、ですが。神々に「食べ物である」と判定されたら、同じ魔法でなんでも取り出せるようになるのではないでしょうか。たとえば、などすれば「鉄もまた人の食事」ということになり、自由自在に鉄を取り出せるようになりませんか。なにとぞ知見をお借りしたく候。草々』


 ルイス王子は窓辺でその手紙を読んでいた。

 それはほかの王族メンバーであれば噴飯ものの推論であったが、ルイス王子はとくに気に留めたようすもない。


「クレノ君はときどき怖いこと言うよね。シンダーナとかに持っていかれなくてよかったよ」


 ……とか言いながら、ほがらかに笑っている。


「さて、鉄不足はそれなりに深刻なヨルアサの課題なわけだけど、そのへんどうなんですかね、神様」


 そのとき、晴れ渡った空のむこうでガラガラと雷が鳴る音がした。


「う~ん、ダメっぽいな……と」


 ルイス王子はそのように返事をしたため、ウゴちゃんの廃棄手続きを進めることにした。

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