照りつける太陽の中、遊び目的ではなく、プールに入る。うちの学校、枚四は外にプールがあって、たまに蝉の抜け殻が落ちていることもあるプール。それでも、公立で水泳部がある近くの学校はここしか無かったので、仕方なく通っている。
「真奈、黒くなったね。」
「杏もね。って、何でそんなに白いの?」
「焼けやすい分、1日経てば戻るんだよ。」
「その特異体質、ちょっと欲しいかも。」
うちの学校は基本的に練習がゆるい。こんなので大阪レベルで戦えるのかって言われたら、戦えるのはほんの数人だけ。あの真っ黄色い集団と比べたらいけないのはわかっているけど、それでも比べると、やっぱり規模が小さい。
今日も練習後は、近くのスイミングに行く人ばっかり。でも、私は行かない。なぜなら、私の志望校はバカ兄と同じ学校。小学校抱いていた、『いつか一緒に泳ぐ』って夢は叶いそうにないけれど、やっぱりバカ兄に追いつきたい。水泳選手としては未熟なのはわかっているけど、それよりもまずは合格すること。そうじゃないと、わたしはバカ兄の足下にも及ばない存在になってしまう。
「はぁ…」
「どうしたの?ため息なんかついて。」
「なんかさ、杏はこのままでもいいのかなって。」
「どうせお兄さん関連でしょ?」
「そうだけど…バカ兄は沢山のものを捨ててきたのに、杏はなんか貰ってばっかで…」
「お兄さんが水泳辞めたのは怪我したからでしょ?事故じゃないだけマシだと思うよ。」
「でも、バカ兄、水泳辞めた日、珍しく泣いてたから。」
「そっか…」
チャリチャリチャリとチェーンの音だけが優しく聞こえる。私はそのまま話を続ける。
「真奈は学校どこにするか決めた?」
「決めたよ。杏と一緒のとこ。」
「へ?」
「うん。国学社大附。」
「何で?」
「何で?って言われてもな。杏から聞くお兄さんの話がとても面白そうだったから。」
「それだけ?」
「それだけ。将来の夢とか決めてないし、まあこんなもんかなって感じ。一応B判定は取れてるし。」
真奈との別れ道になる角に着く。
「でも、私は、自分の進路はちゃんと決めた方がいいと思う。後悔するかもしれないし。」
自分の言葉がチクッチクッと胸に刺さる。
「分かってるって。杏がお兄さんに追いつきたいのと同じように、私は杏と一緒にいたいだけだから。2人で合格しようね。」
真奈はペダルに足をかけ、走り去っていった。
1人になった。そういえば最近、真奈はスイミングに行っている様子がないな。ちょっと勉強始めたのかな?確か真奈は私より少し下の成績だったはずだから、ちょっと頑張らないといけないかも。でも、真奈なら大丈夫だ。信じよう。