今日から数日は、私と久志しか家にいない。杏ちゃんは合宿に行ってるし、紀乃はまた旅行に行っている。だからこその…
「ただ今より、うちの家主、Qの断髪式をやりたいと思います!」
『イエェーーイ!』
「いぇーい。」
久志の断髪式をRINEビデオ通話で中継している!見ているメンバーはもちろんKYUKA組。画面に映る数の関係で、奏っちと楓は同じ画面に映っている。
『QもよくOKしたね。』
「OKはしてないぞ。ただ、押し通された感じだ。」
『可哀想に。』
「そう思っているのになぜ見る?」
『興味本位だよ。』
私もまったく良い友達を持ったものだ。同級生の散髪を見たい友達ができるなんて。こいつらが変わってるだけなのかな?
「じゃあ、どこから切ってく?」
『まずはその無駄に長いもみあげのところかな?』
「じゃあ、切ってくね。」
「おい、ちょっ、待てって。心の準備がまだだ。」
「必要?」
「当たり前だろ!」
ハサミを構えた私を手で制止する。一息ついたところで、大胆に切る。
『うお〜!』
「なんの歓声だよ。」
『だって、Qの邪魔そうなもみあげがスッキリしたからね。』
楓が少し興奮した様子で言う。私は反対側に回って、同じ長さに切る。
『うお〜!』
「さっきと同じじゃねぇか。」
『Qは分かってないな。髪型は両側揃って綺麗になるもんだよ。』
奏っちは頷きながら言う。さて、あとはこのこんもりした髪の毛をどうしようか。とりあえずといて、ちゃんと揃えて、やっぱり長さ、決めづらいな。
『Qって、セットしないといけない髪型にしても、どうせ寝癖直すだけでしょ。変にこだわらずに普通に切ったら?』
『俺もそう思うぞ。』
『私も同じ〜!』
画面の向こうのオーダー通りに、さっぱりするように切っていく。長さは、金木研くらいになってきたか。
『前髪、もうちょっと切っちゃったら?』
「いいね、音羽。今のまんまじゃ、目見にくいまんまだもんね。」
ちゃんと長さを揃えてから前髪に移る。パッツンにされるのは嫌だと思うから、ハサミを縦方向にして、すいていく感じで。長さがだいぶ短くなって、目がはっきりと見えるようになった。頬がほのかに赤いのは気のせいだと思う。あとはすきばさみですいていって、完成だ。
『おおおぉぉぉ!すごい!こんなに髪型で印象違うんだ!Qって目見えるようになると、イケメンにだね。』
『男の俺でも惚れ惚れするぜ!』
『ちょっと待っててね、カレン呼んでくる。カレーン!Qが別人になった!』
我ながら申し分ない出来だ。左右のバランスもしっかり取れているし、寝癖直しだけで決まる髪型。久志がくせっ毛だから、金木研みたいな感じの雰囲気がプンプンしている。そしてみんなも満悦そうでなによりだ。
「これで杏ちゃんもビックリするね。」
「あいつは俺の昔の頃も覚えているからな、そこまでじゃないか?」
「絶対ビックリするから。」
そんなことを話しながら道具を片付けて、散らばった髪の毛を掃除機で吸う。
RINE通話を切ってからお風呂を入れて、久志に先に入らせる。しっかり髪の毛を落とさないとね。上がってきて、ドライヤーで乾かして出てきた久志は、もう別人だった。
「隻眼の王だ!」
「やめろ。照れるじゃねぇか。」
久志は後頭部を掻きむしる。それでも髪の毛が落ちてしている感じでは無かった。ベットに髪の毛が散乱することは無さそうだ。
そのあと私たちは、晩御飯を食べて、軽くゲームして、少し早めに寝た。