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第41話 DAY34①

 夏休みもあと4日になって水泳部がOFFになったので、これからは遊び放題になった。OFF初日の今日はQの家でゲーム。これは楓の要望だ。何をやりたいか話していた頃から、もう1ヶ月が経ったと思うと、本当に濃い1ヶ月だったなと思う。


「何感慨深い顔になってるのよ。」

「いや、色々あったなって思ってな。」

「まだ、今日ゲームして、明日からキャンプでしょ。もっと濃くなると思うよ。」


隣で歩く楓は、いつもよりほんの少し嬉しそうだ。Qの家まではもう少し。


 坂を登って住宅街の中のクリーム色した壁。これがQの家。と言っても桜と一緒に住んでいるから、正確にはQと桜の家だ。インターホンを押すと、マイクの向こうから桜の声がした。


「鍵開いてるから、入って。」


夏の太陽で熱くなったドアに手をかけ開く。


「「お邪魔しまーす!」」

「2人とも遅いぞ。もうQとゲーム始めてるからね。」

「音羽こそ早すぎん?そんなに楽しみだったなかなぁ?」

「はぁ?か、楓!そ、そんなんじゃねぇし。お前らより家が遠いだけだから…」


集合時間は2時ぐらい。こっちも楓が楽しみだからって集合時間の30分前に着くように来ているから、音羽の気持ちもわからないことはない。


「まず何する?」

「もちろんこれ!」


そう言って楓が取り出したのは、某レースゲーム。楓も俺もやりこんではいるが、桜とQはそこそこ強いらしい。もちろん、戦ったことはないが。


 1レース目。俺が使うのはあのキノコ頭。カートは比較的軽いため、加速力に長けている。みんなは、Qはこのゲームの原作の主人公キャラ。桜はその相棒。音羽は亀で、楓はお化け。スタート時の順位は上位から、音羽、楓、桜、俺、Q。きいは用事で後から来るみたいだから、ひとまず毎回の1レース目はこの順番だろう。スタートダッシュは全員成功。早くも音羽は1位争いに食い込んでいて、俺たちはそれを見る形で追走。最初のアイテムボックスで赤こうらが当たった俺は、近くのお化けに向かって投げる。しっかりと当て、あたふたしているのを横目に抜き去っていく。本人の方を見れば俺を睨んでいた。右下の順位を見れば、Qが現在1位で独走中のようだ。それを追うのは桜と音羽。俺は現在4位。2人の背中はだいぶ向こうにあるから、落ちてきたおこぼれをもらうとしよう。それでもやはりQはコントロールがうまい。地面は揺れているのに、しっかり飛んで加速をつけて降りてくる。そして、次からの着地点になりそうな場所にバナナを置いたら、後ろの方の誰かが滑っている。Qはそのままゴール。2位が桜で3位が音羽、4位は俺で楓は8位に沈んでいた。


 2レース目は言うまでもなく、暴君楓の企みにより集中砲火に遭った。やりやがる。こちらも本気を出すとしようか。


 3レース目。俺は持ち前の運の悪さで楓の少し後ろをキープ。次のアイテムボックスで花を引いた。


「火拳!火拳!」

「おい、奏。それ別のゲームだぞ。」

「それでも他の例え方ねえだろ。」


俺は怒涛の追い上げで、1位になった。最終成績では音羽に負けて4位。でも、楓には勝ったから良しとしよう。


ピンポーン


『ごめん、遅れた〜!』

「きい、鍵開いてるから入ってこい!」

『はぁーい!』


ガチャっと音がして、トタトタと走る音が近づいてくる。


「ヒーローは遅れてやってくる!」

「遅れすぎだ!」


Qはきいの頭を軽く叩く。きいは頭を押さえながら、周りを見回す。何かに気づいたのだろう。


「みんな、どっか行くん?」

「あぁ、明日の買い出しにな。ゲームはもう終わったぞ。」

「えぇ〜っ!」


きいは残念そうに叫ぶ。もう4時だしな、これ以上遅くなると売り場から肉が消えかねん。


 俺たちは光善寺から電車に乗り、いつも降りている香里園へ。でも、改札を抜けて向かうのはいつもと逆。商店街を抜けて、目の前に見えてくるのはアル・プラサ。入ってすぐのところにあるスーパーに入る。


「野菜は玉ねぎ、しいたけ、あったらさつまいも。」

「玉ねぎは何するの?」

「アルミホイルに包んで火にぶち込むんだと。さつまいもも。Qが簡単だからだって。」

「へぇ、ひい君が。」


きいが少し驚いたような表情を見せて、玉ねぎの入ったネットを手に取る。次は魚売り場へ。


「これ、美味しそう。」


音羽が手に取ったのはイカとコーンのバターソテー。アルミのパックに入っていて、そのまま調理できるらしい。キャンプで使いやすそうだ。それをカゴに入れて、次は肉売り場。


「さぁて、6人だから3kgは食べるよな。」


うーんと悩む。なぜなら、この近くには業務用のスーパーがあるからだ。そっちの方がおそらく安い。


「桜とQは業務用の方見てきてくれ。あったら、連絡くれ。」

「了解。牛豚鶏全部おさえとくね。」

「頼んだ。」


俺たちは笑顔で2人を送り出し、先にパン類を確保する。飲み物は、2人とも好き嫌い無いって言ってたから、テキトーでいいだろう。あとは肉の連絡を待つだけだ。


 俺のスマホが振動する。電話がかかってきていた。応答のボタンを押して耳に当てる。


『あったぞ。牛肩500g、牛ロース500g、牛の小腸350g、鶏もも1kg、豚焼肉用1kg。』

「全部頼む。」

『了解。』


俺たちはレジに並び、支払いをする。香里園の改札前で集合して、電車に乗った。


 夕陽に照らされて、電車は走る。


「明日も朝早いし、今日は俺と楓の家で泊まるのはどうだ?」


これはあくまで俺の願望だ。受け入れられなくて当然だろう。


「いいんじゃない。元々、楓の家に泊まる予定だったし。」

「私もいいよ。みんな揃ったら楽しいもん。」

「私も賛成。2日いるのも3日いるのも、楽しけりゃいいでしょ。」

「俺も、そっちの方が効率いいだろ。」


みんなありがとうと心の中で呟いた。

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