夏休み最終日。俺は久しぶりにゆっくり起きた。
「もう11時か…」
むくっと体を起こして寝癖だらけの頭を掻きむしる。昨日までは遊び倒したからこういうのも悪くないなと思う。
リビングに降りると、珍しく桜の方が早く起きていた。
「おはよう、久志。今日はよく寝ていたね。」
「おはよう。桜が早いだけだろ。」
朝食はもうラッブをかけられていた。杏が作ってくれたのだろう。歯を磨いて顔を洗う。寝癖も軽く直してリビングに戻る。トースターのチンという音が聞こえてきた。
「よく分かったな。」
「4ヶ月も一緒にいるもん。久志の行動パターンぐらい覚えてきたよ。」
胸を張って言う桜に思わず拍手を送る。他の人には「分からん」としか言われたことがなかったから、少し嬉しかった。焼き上がったトーストにバターとはちみつを塗って砂糖をかける。ここから上火でもう一度焼いて完成だ。サクッと音を立てて1口目を食べる。丁度いい甘さだ。
「甘すぎないの?」
「いや、そこまで。食べてみるか?」
「うん。」
パンを桜の方に向けると、俺の食べかけのところに食いついた。
「間接キス。」
冗談交じりに言ってみたが、桜は顔を真っ赤にしてショートしてしまった。
「お前
「久志はいいの?」
「慣れたな。この4ヶ月で。」
改めて思い返してみると俺たちは結構間接キスをしている。ペットボトル飲料とか、パンとか、豚まんとか。俺は元々気にしない性格だったけれど、本当に慣れって酷いな。
食べ終わって、テレビを見るより先に、明日の用意をする。宿題のやり忘れがないことを確認して、リュックのチャックを閉めた。机の上に残ったノートは1冊。作詞ノートだけ。夏休みの間、暇な時には曲を書いていた。『モブの魔法』とか『影』とか。ただの自己満足かもしれないが、楽しかった。ラスト1ページだけがまだ白紙。俺はペンを持った。
『くだらないことは全部吐き残していけ
忘れたくないことは全部言葉で紡げ
会っても暇な人の連絡先は消せ
また会いたいって思う人には優しくしとけ
夏の終わりのベルがなった気がして
刻むビートが僕の喉に触れた
膨らんで消えてしまうほどの想い出に
分からんて思ってしまう
ホンモノって思っていたことでさえ
ニセモノになってた
隠し通してた秘密でさえ
露見してしまってた
分からないことの方が多い
初めての毎日が
忘れられない記憶のメモに
書き遺されてく
甘いトーストの匂いにつられて
本当の味も分からなくなって
人間の本質はなんか忘れて
真っ赤に染まった頬を撫でた
秋の始まりのベルが鳴った気がして
甘い想い出は全部忘れた
いつものカッターシャツはシワまみれに
あぁ何で考えてしまう
愛だとか恋だとか純情でさえ
忘れてしまってた
ただ真っ直ぐ君のことを見て
傷つけてしまってた
単純なこの身体の火照りに
身を任せたらよかった
もう戻れない季節が僕の
名前を呼んでる
絶対に忘れることのない
ぼくのサマバケ』
これで絶対に見せられないノートの1冊目が完成した。そして、絶対に忘れないノートの1冊目も完成した。
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第2章これで完結!
次話から第3章に入っていきます!
学校が始まってしまったので、更新ペースは落ちてしまうと思います。すみません。それでも、頑張って3月までに1年の3月までの分は書き上げる予定です。これからもよろしくお願いします!
ここまでの分の久志が作詞した曲(僕のオリジナル曲なんですけど)は、たまにTwitterで公開していこうと思います。小説の方で紹介していないのも公開予定なので、ぜひ、そちらも読んでみてください。