家に帰ってRINEを見ると、射的パートの花胡から通知が来ていた。
『射的で赤か白の布が欲しいんだけど、ある?』
文化祭に必要なものだから、おそらく早めの方がいいだろう。うちの家にはないけど、確か…
「分からん」
そう返して、隣の部屋のドアを叩く。そこの住民はすぐに出てきた。
「あれ?音羽ちゃん珍しいやん。どないしたん?」
「あんたのお父さん、的屋なんだよね。」
「せやけど。」
「赤か白の布余ってるか聞いてくれる?」
カレンは少し悩んで時間を確認する。6時半過ぎ。どこかの店に行くにしても少し遅めだ。
「直接聞いてみるんが1番やな。着いてきて。」
カレンに連れられて着いたのは、歩いて15分程のところにある一軒屋。白っぽい外観で、赤いワンボックスが止まっている。
「Padre!おる?」
「ちょっと待ってな。」
インターホンから聞こえてきたのは低い男性の声。次の瞬間ドアが開き、イタリア人の男性が出てきた。
「カレン、どないしたん?」
「ちょっと相談があってね、この子から。」
私は手を引っ張られ、カレンのお父さんらしき人の前に立つ。近づいてよく分かったが、まず体が大きい。身長は2mあるかないか、肩幅も広くて腕は筋肉の塊みたいだ。正直、怖い。
「初めまして、カレンの隣に住んでいる、同じ学校の熊野音羽です。」
「音羽ちゃん、初めまして。新宮ブルーノです。うちの息子が迷惑かけてます。それで、相談は?」
「あ、あの…」
「あっ、やっぱり、お父さん!こんな可愛い子を怖がらせちゃダメでしょ!中に入って!」
奥からカレンのお母さんだろうか。若い女性が顔を出す。言われるがまま、家の中に入った。
大きなソファにローテーブルを挟んで向かい合う。
「それで、相談は?」
「うちの学校の文化祭で射的をやりたいんですけど、後ろの幕?みたいなのがあった方が嬉しいって連絡があって。」
「それで、欲しいと。」
「はい。前にカレンからお父さんは的屋だって聞いていたので。もちろん無理は承知の上です!それでも、あったらって。」
「ちょっと待っててね。」
ブルーノさんは2階に上がっていく。次にお母さんが横に座った。
「初めまして、新宮紀子です。たぶん、スーパーで見かけことあるけど、気づいていないよね。」
「すみません。」
「いいのよ。カレンが迷惑かけてると思うわ。ありがとう。」
「こちらこそ、迷惑かけっぱなしですよ。」
「カレンはいい友達を持ったのね。よかった。」
そう言って、キッチンに消えていく。入れ替わるようにして、ブルーノさんが戻ってきた。
「丁度置き場所に困っていたのがあったよ。これならサイズ的にもいいし。もちろん切ったり貼ったり好き勝手やってくれていいよ。これ全部あげるから。」
「本当ですか!?ありがとうございます。お代は…」
「要らないよ。余り物だから。」
「ありがとうございます。」
置き場所に困っていたというのは嘘だろう。じゃないと、こんなに綺麗な紅白幕が残っている訳がない。本当に感謝だ。
「他にも、何か欲しいものがあったらいつでも言ってきなさい。うちにあるものだったら貸してあげるから。」
そう言ってスマホを差し出してくるブルーノさんとRINEを交換して、アパートに帰った。
そして現在。
「熊野さん、ありがとう。」
「いいよいいよ。持ち主も置き場所に困ってたみたいだし。」
嘘だろうけど。