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第4話 そして花火の音は鳴り響いた

 9月5日今日は夏祭りの日。隣にいるのは奏だけ。今は。そう、今は!


 事の発端は1時間前。


「あっ、あっちにベビーカステラある!」


ヒューと消えていく海南さんに


「勝手にうろちょろするな!」


と熊野さんがついて行き、


「2人とも待って!」


と桜がついていき、当たり前のようにきいもついて行った。そして、はぐれた!いくら探しても見つからない。どこに行ったのやら。


 とりあえず、俺たち2人は離れないようにしている。今日の奏は大会帰り。白と紺の派手なTシャツを着ているから目立つしな。


「クソッ、電話出ねぇし。」

「あの3人、遊んでいる最中は基本的にマナーモードとか言ってたな。下手したらはぐれたことに気づいてないかも。」

「マジかよ!」


状況は最悪。どこか目印になりそうな場所があればいいけれど。まずは、あの4人が行きそうなところを考えてみる。花火と橋が被さるから下流の方はない。じゃあ上流か。上流の方は木しかねぇぞ。あそこら辺で木がないところと言えば、あの橋のところ以外考えられない。


「奏、自信ないけど心当たりがある。」

「しょうがねぇな。あと15分ぐらいしかないし、そこに行こう。」


奏と俺は人混みを掻き分けて歩き始めた。


 スタジアムを抜け、屋外ステージの横を進み、有料スペースを通り過ぎる。さすがに奏も気づいたのだろう。


「Q、そっちには木しかないって。」

「分かってる。一部を除いてだろ。」


向こうにはきいがいる。俺と何回も自転車で樟葉まで行ったきいがいる。なら、ここは知っているはずだ。


「見つけた!」


はぁはぁと息が切れる。久しぶりに体が疲れている。目の前にはいつもの4人がいた。藍色の浴衣の熊野さん、淡い桃色の浴衣の海南さん、黄色い浴衣のきい、そして赤い浴衣の桜。


「2人とも遅い!花火始まるよ!」

「おい楓、それはmg6gtvpmw」


俺は咄嗟に奏の口を塞ぐ。何か言っているが、理解は出来ない。


「ごめん、見失ってさ。」


こういうのはこっちの責任にするのが男ってもんだろ、奏。


 俺が桜の横に座ると、きいが俺を挟むように座ってきた。空いたスペースには奏が座る。4人が買っておいてくれた、たこ焼きやお好み焼き、焼きそばを食べながら花火が始まるのを待つ。


―ヒューーーーー、ドーン


 花火の音が夜空に鳴り響いた。穴場ということもあってか、周りに人は誰もいない。左から桜の「おぉ」とか海南さんの「おぉ!」とかが聞こえてくる。きいは完全に見入ってしまっていて、呼吸するのも忘れていた。夜空に咲き誇る大輪を見ながら俺は思った。有料スペースよりもいい風景だな、と。


 帰りは波が収まってから電車で帰る。まだ腹の底で花火の音が響いていて、珍しく興奮しているのが分かる。電車に揺られること2駅。熊野さんを残して電車を降りた。


「凄かったな。」

「そうだな。」


全員、語彙力が消滅している。会話が成り立っていない。


「来年もあるかな?」


きいの問いかけに全員で答える。


『あるよ。きっと。』

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