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第6話 そして文化祭は始まった①

 今日は文化祭1日目。生徒だけで行われる。


『SPEC1人目は2年I組の…』


文化祭実行委員が進行をして、事前に撮っておいた動画を流し、それを見るだけ。同じクラスのやつやクラブの先輩が出たら、クラスは湧くし、そうじゃない人が出たら、ただ見るだけ。お決まりの文化祭ムードは一切感じずに午前中が終わる。


 昼食を摂って作業開始。机を並べて台を作り、後ろに熊野さんが持ってきた幕を垂らす。これを机の裏に受け皿になるように貼っつけたら完成だ。


「楓ちゃん、銃はいつ届くの?」

「3時半ぐらいって聞いてる。」

「じゃあ、それまではどうしようかな?」


琴さんが海南さんに訊く。ちなみに海南さんは文実だ。クラスにあれこれ指示を出しながら頑張っているらしい。知らんけど。


「俺たちは今から暇か?」

「そうだね。暇。」

「違和感しかねぇわ。」

「たしかに。」


基本的に作業は終わってるし、他のパートは人手は足りている。やることと言えば、装飾ぐらいだ。


 うちのクラスは階段を上がったすぐのところにあり、立地がいい。入り口を少し工夫すれば容易にお客さんを呼び込める。と思って入り口の方に行ったが、他の人もそう考えたのだろうか、もう完成していた。


 仕事が無くなった。トイレから戻ってくると、なんだか教室が騒がしい。中ではポイントをどうするかの実験の体で、陽キャどもが遊んでいた。こういうときは離れるに限る。他のクラスも同じようなことをやっているみたいだし、食堂前なら静かそうだ。


 食堂前には見知った顔がいた。


「作詞家くん、逃げてきたんだ。」

「当たり前だろ。あの陽キャの集会みたいなところいたくねぇし。柚さんも?」

「そそ。私、あの空気苦手だから。いつも合わせてるけど、さすがに疲れたみたい。」


手には関西限定の甘い味付けのミルクコーヒーを持っている。よほど疲れたのだろう。


「何時までおる?」

「銃が届くまでかな。作詞家くんは?」

「出来ればずっとここにいたい。」


フフッと柚さんは笑って、コーヒーを飲む。俺はその隣にある自販機で、ブラックコーヒーを買った。


「歌詞は書けたん?」

「えっ?」


柚さんの顔がみるみる赤くなっていく。我ながら俺ってSだなと思った。


「そ、そんな昔のこと蒸し返さないでよ。」

「昔って程でも無いだろ。あれは初回授業だから、4月か。だいたい5ヶ月前。1年経ってねぇぞ。」

「あーもう!恥ずかしい!忘れろ!」

「好きな人に曲は届けられたかな?」


少しからかうようにして訊いてみる。すると、耳まで真っ赤にしてそっぽを向きながら答える。


「ありがと。向こうはたぶん気づいてないけど。」

「よかったな。」


まだ、夏の暑さが少し残る夕方。カラスの声が響く空に、3時20分を知らせるチャイムが響いた。

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