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第22話 そして冬になった

 もう、これといったイベントがなくなってしまった。最近は学校に行って、寝て、帰るだけの毎日。楽しくないのかって言われるとそれは違う。楽しいから学校に行っているが、変わらなすぎるだけだ。


 おもむろに引き出しを開ける。1番上にあるのは作詞ノート。よく考えてみたら、これのおかげで桜との距離が縮まった。音楽好き同士で語らっているときが本当に楽しすぎて、毎日が濃くなっているのがわかる。このノートに書いているのは1ページ目の1曲だけ。


「書くか。」


元々、何もすることがないときに書いていたのが詞だ。何かを吐き出したくて始めたこの趣味。何となくやめられなくて続いてるけど、俺にとっては大切な生活の1部になっている。だから俺は書くのをやめられなかったんだ。



『恋なんかじゃないと知ってる

 ただの片思いと知ってる

 なのに僕は悪いやつだ

 小指の指輪も外せないで


 ふとしたとき笑うあの顔

 思い出しては笑顔こぼした

 ただの自己満だと 知っててもさ 夢を見てた


 この歌を聴く頃には 君はここにいるのかな

 それともどっか遠い 場所に行っているのかな

 旅立つ君の背中にそっと供花はなが咲いてる



 愛なんかじゃないと知ってる

 ただの友情と知ってる

 なのに僕はチョロいやつだ

 少し君に期待して


 「愛してる」って言ってほしいよ

 思うたびに涙をこぼした

 ただの狂気だと 知っててもさ 夢を見てた


 この歌を聴く頃には 君は大空の上かな

 それとも奥深く 地面の中なのかな

 旅立つ君の背中にそっと ついていきたい


 どんなに冷たくても 君の目は温かかった

 僕に惚れてると 勘違いしそうになるくらい

 こんなに頑張っても 届かないならいっそ

 君を止めて僕がそこに行きたい



 まだまだ書ききれない 雨のように降る思いは

 いつか僕を溺れさせ 君の元へ送るだろう

 この歌を歌っていたら 少し楽になれました

 いっそこのままここで 終止符を打ってしまおう


 肌触りのとてもいい 縄をドアノブにかけて

 首をそこに通して そっと力を抜こう

 旅立つ僕の足元にそっと 供花はなが咲いてる』


久しぶりになんの目的もなく書いた歌詞は、一言で表すと『狂気』だった。


「久志、晩ご飯出来上がったから、降りてきて。」

「了解。」


桜には絶対見せられないな。

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