先輩たちが引退してから、奏は変わった。最初の頃はそれまでと同じように、和気あいあいとって感じでクラブをしていた。でも今は、
「1、2、3、4!」
「5、6、7、8!!!」
体操で誰よりも大きな声を出したり、
「行きま〜す、よ〜い、ゴ〜!!!」
出発の合図を私たちマネージャーより大きな声でしたり。練習はしんどいのに、誰よりもみんなを支えようとしている。
2年生は個々はノリノリの人達だが、全員でまとまると弱くなる学年。やる気はすごくて、でも噛み合わないときがたまにあって。それでも懸命に引っ張ってくれてることは分かってる。だから、盛り上げ役が減ったのは確かだ。
奏は元々、声を出すのが好きだった。小学校の頃には3年連続応援団で、6年生のときには応援団長をしていた。その時の姿は今でも覚えている。青空の下、汗だくになりながらグラウンド中に声を轟かせるあの姿を。私はこのとき初めて、奏がかっこいいと思った。普段はアホやってるのに、やるときはやる姿は、私の目にはそんな風に思わせるほど、輝いていた。
中学校に上がると、急に大人しくなった。たぶん、奏のお母さんの仕事が忙しくなってから。出張もいっぱいだったし、残業も多い。そして転勤も。家から通えないってことはないからって引越しこそしなかったけど、家を出る時間がだいぶ早くなった。
「晩ご飯、うちで食べる?」
少し心配になって、私は奏に提案してみた。このままだと、前までの奏がいなくなってしまう。そう思ったから。
「いいの?」
「いいよ。たまには疲れ取って帰りな。」
この日から、奏は少しずつ明るくなっていったのを覚えている。
そして、今。明るいっていうより、支えるって感じの奏。
「奏、楽しそうだね。」
「声出すとな、自分もノってくるからな。余計に声出してるかも。だから今はこんなにガラガラやけど。」
あんなに頑張ってるもんね。私なんか、声枯れたこともないのに。
「私ももっと…」
「いつもありがとな。タイム取ってくれて、あと、最近はストロークテンポも。」
「いや、私はマネージャーだから…」
しんどくて水泳から逃げたマネージャーだから、せめてそれくらいのことはしないと、ね。
「うちの学年は人数少ないから、おるだけで支えになるっつうか。本当に感謝してる。あと2年よろしくな。」
「2年でいいの?」
「は?」
「幼馴染なんだし、奏のわがままにくらい付き合ってやるよ。バイバーイ!」
私は玄関のドアを開けて、手を振った。
「楓、おかえり。えらく上機嫌ね。」
「そんな訳ないでしょ。」