ジリリリっとけたたましい音に目を覚まして、時計を見る。
「まだ7時前やん。もうちょい寝よ。」
私は二度寝の態勢に入る。もうちょっとで寝れそうな時。
―ピロン
今度はスマホが鳴った。身体を無理矢理動かして、スマホを取る。ひい君からだ。
『きい、起きてるか?今日から学校だぞ。』
学校?学校、ガッコウ、がっこう…学校!
「まだ用意してなーーい!」
とりあえず宿題と筆記用具とお金と鍵をリュックの中に詰める。ブラウスだけはなぜかアイロンをかけてあった。久しぶりに制服に袖を通す。昨日までの休みが夢みたいだ。まだちょっとぼーっとしている頭を無理矢理働かせて、リビングに降りる。
「おはよ。ママ、パパ。」
「紀乃、おはよ。ご飯できてるよ。」
「紀乃が起きてきたから、俺はもう行かないとな。行ってきます。紀乃も気をつけてな。」
「うん、いってらっしゃい。」
パパは7時ぐらいに家を出るから、入れ違いになることが多い。
「紀乃、今日寝坊しかけたでしょ。」
「バレてたか。」
「あんなけドタバタしてたら誰でも。いつもよりも5分ぐらい遅いし。早く食べないと遅れるよ。」
「本当だ!」
私はご飯を流し込んで、髪を整える。今日は気分を変えてハーフアップ?ポニテもありかな?いや、気合い入りすぎか。やっぱりいつも通り下ろしておこう。
「憂鬱だなぁ。」
冬休み、あんなに楽しんじゃったから余計にそう思う。3学期はイベントもないし、ただ冬を乗り越えるだけ。雪でも降ってくれたらな。
ブレザーを着て、マフラーをする。外はこれでも寒いけど、しょうがないな。
「いってきます!」
「いってらっしゃい。」
軽い足取りで、ひい君との待ち合わせ場所まで歩く。マフラーの裏で吐いた息は白くなって、消えてなくなる。顔はちょっとチクチクしてくるし、やっぱりカラッとした冬の日は嫌いだ。
「まだだよね、そりゃあ。」
待ち合わせの10分前だから、さすがにひい君は来てないか。やっぱり早く来すぎたかな?スマホでも触って2人を待っておこう。
「よう、今日は早いんだな。」
後ろから声がした。振り返るとひい君と桜がいる。嬉しさを抑えながら笑顔を作った。
「おはよ、ひい君。今日も寒いね。」
「きいはどうせ家から出てないんでしょ。」
「バレたか。」
何気ないこの登校も、この2人となら少し楽しい。こんなに寒い空も、暖かい色で色付いていく。桜よりもちょっとだけ、ひい君に近いところで歩く。ひい君の左側だけは誰にも譲れない、私だけの特等席だから。