「ねぇ、人のことを信じられなくなってる子を元気づけるには、どうしたらいいかな?」
「ん〜、少なくとも人を信じさせるのは無理だろうな。たとえば、『私だけ信じて』とかはいけるかも。」
きいとの待ち合わせ場所に向かう途中、久志はそう答える。それが最適解かもしれない。今日ちょっと試してみよう。
学校には雪が積もっていた。
「スゴーイ!こんなに積もってる!みんなも早く!」
「おい、待てって、楓!」
相変わらずこの2人は仲良さそうだ。きいは早々に音羽を連れて雪合戦しに行ったし、奏っちはヘッドスライディングして、真っ白になっている。
「白兎ちゃん…」
「ほんとどうしたんだ?桜。」
「何もない。私たちも行こ!」
「お、おう。」
私は久志の手を引いた。
今日は論表がある。何で英語ってこんなに面白くないのか分かんないや。
「ふわあぁ。」
おやすみー!
今朝と同じところに白兎ちゃんはいた。いや、周りが真っ白だから同じかどうか分かんないけど。
「あれから寝た?」
「――――。」
また俯いてるし。もう、何が何だか分かんない。私はいつものように、白兎ちゃんの背中にもたれかかる。
「ねぇ、白兎ちゃん。私は信じてね。私はずっと白兎ちゃんの味方だから。」
「お母さんのことは信じられなかったのに?」
そうだった。人間不信になっていた頃、お母さんから信じてって言われたことがあった。そのとき、私は『ごめん』としか言えなかった。
「お母さんのことは信じないのに、なんで私のことを信じないといけないのよ。なんで、つい最近まで誰も信じてなかった私にそんなこと言われないといけないのよ。なんで、大切な人のことを信じなかったのよ。なんで、なんで…」
白兎ちゃんの口調がどんどん荒ぶっていく。瞳には涙が溢れんばかりに溜まり、身体も小刻みに震えていた。
「なんで、私はこうなったのよ…」
「ごめん、私が甘かった。もう行くね。また来るから。」
私は下唇を噛みながら、ゆっくりと目を覚ました。
その後の授業はまるで頭に入らなかった。
「信じる、か…」
頭もまともに働いていないし、ただぼーっとしてるだけ。冷え込んでいるはずなのに身体は暖かくて、ただ座っているだけなのに呼吸も荒い。
―キーンコーンカーンコーン
6時間目が終わるチャイムが鳴る。私は教材だけが入っているリュックを手に、席を立った。久志ときいと、いつものように並んで歩く。私はこの2人をちゃんと信じられてるのかな?そんなことを考えながら、濡れた道を歩いた。