本体の方は、眠りについたようだ。もうそろそろ来るのかな?
「はぁ…」
多分キツく言いすぎたよね。ちょっと可哀想だけど、甘えてる自分を見るとついつい言っちゃった。
真っ白い服に真っ白い肌。何でこんな姿なのか分からないけど、他の人から見たら『神秘的』とか言うんだろうな。
三角座りしたら、ちょうど目線の先に、何度もカッターナイフを突きつけた左手首がある。何度も突きつけて、そして離して。何度も死にたくなったけど、死ぬ勇気が出なかった。
「だから、みんなと出会えたんだけどね。えっと、名前は…」
トテトテと足音が近づいてくる。本体がこの世界に入ってきたようだ。私は俯いてスタンバイする。
「白兎ちゃん…」
本体は自信なさげな声をしている。私がさっきあんな態度取ったからかな。それなら私もだ。あんな態度取ったから、顔を合わせるのが怖い。話すのも怖い。
背中に温かい感触がするようになる。たぶん本体が私にもたれかかったのだろう。ゆっくりと上下する肩の感触が、背中越しに伝わってくる。ときどき震えたり、止まったり。多分緊張しているのだろう。
「私、決めたよ。」
「…何を?」
「私、白兎ちゃんのことは忘れない。初めて私がここに来た時言ったでしょ『忘れて』って。」
言ったよ。言ったけど、何で忘れてくれないんだ?
「これは私のワガママ。白兎は私だから、忘れたくないだけ。だから、白兎ちゃんは独りじゃないんだよ。私もいる。だって、私と白兎ちゃんで私なんだから。」
「それでも、私は信じられないよ。未来の私のことを。」
「いいの、信じなくたって!」
強引に振り返らされる。未来の私の顔は、涙でぐちゃぐちゃだった。
「信じるとかどうでもいいの。ただ、私もいるよ。」
未来の私は、細い声で言葉を紡いでいく。
「私もいるから、もう、独りじゃないんだよ。」
「でも、いっぱい迷惑かけるよ。」
「いいよ。だって、私だもん。」
未来の私の両腕が、私の体を包み込む。その温かさに、込み上げてくるものがあった。
「今まで酷いこと言ってごめん。今までいっぱい困らせてごめん。今まで信じなくてごめん。」
「うん、いいよ。許してあげる。」
「私は私のことを好きになる!だから、それまで待ってて。」
「待ってるよ、私、私のこと待ってるから。」
そのまま私は、私の腕に包まれて眠りについた。
〇〇〇〇〇
「寝ちゃったか。」
腕の中の私を見て微笑む。だんだんと視界がぼやけてきて、夢の終わりが近づいてきたのが分かる。
「はぁ、また暫く会えなくなるのか。悲しいな。」
さっきまで白かった風景も黒くなってきて、私だけが映えるようになった。
「またね。」
私は私をその場に置いて、立ち去った。
夢から覚める。身体は昨日までよりも楽だ。真っ白いブラウスに袖を通して、着替える。ベッドのほうに振り返って、一呼吸。
「行ってくるね、私。」
リビングに降りると、もう2人がいた。
「おはよ!」
私がそう言うと、2人とも今年が始まって1番の笑顔を見せた。