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第11話 白兎⑥

 本体の方は、眠りについたようだ。もうそろそろ来るのかな?


「はぁ…」


多分キツく言いすぎたよね。ちょっと可哀想だけど、甘えてる自分を見るとついつい言っちゃった。


 真っ白い服に真っ白い肌。何でこんな姿なのか分からないけど、他の人から見たら『神秘的』とか言うんだろうな。


 三角座りしたら、ちょうど目線の先に、何度もカッターナイフを突きつけた左手首がある。何度も突きつけて、そして離して。何度も死にたくなったけど、死ぬ勇気が出なかった。


「だから、みんなと出会えたんだけどね。えっと、名前は…」


トテトテと足音が近づいてくる。本体がこの世界に入ってきたようだ。私は俯いてスタンバイする。


「白兎ちゃん…」


本体は自信なさげな声をしている。私がさっきあんな態度取ったからかな。それなら私もだ。あんな態度取ったから、顔を合わせるのが怖い。話すのも怖い。


 背中に温かい感触がするようになる。たぶん本体が私にもたれかかったのだろう。ゆっくりと上下する肩の感触が、背中越しに伝わってくる。ときどき震えたり、止まったり。多分緊張しているのだろう。


「私、決めたよ。」

「…何を?」

「私、白兎ちゃんのことは忘れない。初めて私がここに来た時言ったでしょ『忘れて』って。」


言ったよ。言ったけど、何で忘れてくれないんだ?


「これは私のワガママ。白兎は私だから、忘れたくないだけ。だから、白兎ちゃんは独りじゃないんだよ。私もいる。だって、私と白兎ちゃんで私なんだから。」

「それでも、私は信じられないよ。未来の私のことを。」

「いいの、信じなくたって!」


強引に振り返らされる。未来の私の顔は、涙でぐちゃぐちゃだった。


「信じるとかどうでもいいの。ただ、私もいるよ。」


未来の私は、細い声で言葉を紡いでいく。


「私もいるから、もう、独りじゃないんだよ。」

「でも、いっぱい迷惑かけるよ。」

「いいよ。だって、私だもん。」


未来の私の両腕が、私の体を包み込む。その温かさに、込み上げてくるものがあった。


「今まで酷いこと言ってごめん。今までいっぱい困らせてごめん。今まで信じなくてごめん。」

「うん、いいよ。許してあげる。」

「私は私のことを好きになる!だから、それまで待ってて。」

「待ってるよ、私、私のこと待ってるから。」


そのまま私は、私の腕に包まれて眠りについた。



〇〇〇〇〇


「寝ちゃったか。」


腕の中の私を見て微笑む。だんだんと視界がぼやけてきて、夢の終わりが近づいてきたのが分かる。


「はぁ、また暫く会えなくなるのか。悲しいな。」


さっきまで白かった風景も黒くなってきて、私だけが映えるようになった。


「またね。」


私は私をその場に置いて、立ち去った。






 夢から覚める。身体は昨日までよりも楽だ。真っ白いブラウスに袖を通して、着替える。ベッドのほうに振り返って、一呼吸。


「行ってくるね、私。」


 リビングに降りると、もう2人がいた。


「おはよ!」


私がそう言うと、2人とも今年が始まって1番の笑顔を見せた。

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