そのあとも競技が進み、200mと50mの自由形で太地先輩が決勝に進むことが決まった。そして決勝競技が始まる。
まずはピー也の1500m自由形。笛が鳴ると20分近い旅の幕開けだ。本当なら俺もあの舞台に立っていたはずだが、タイムが切れなかった。少しというか、めちゃくちゃ悔しい。でも、今俺に出来るのはピー也の応援だけ。俺はストロークテンポをとりながら、観戦することになった。
最初から最後まで同じようなテンポで泳ぐこの種目は、まるで音ゲーのような感じだ。テンポが変わっても0.08秒ぐらいの世界。それでも速い人はやっぱり速いので、すぐに周回遅れにされる。そこで一瞬テンポが崩れたが、すぐに立て直せるのが経験値の差だろうか。俺なら難しいかもしれないな。
800mの通過もベストより9秒速いタイム。このままいけば15秒くらいベストが出そうだ。ストロークテンポもラップも変わっていないから、体力はまだ余裕がありそうだ。
周りが続々とゴールしていく中、ラスト100mの鐘がなる。ここでもう一度ギアを上げたピー也は、一気にテンポを上げてそのままゴールへ。ベストを13秒更新した。
「マジか〜。」
今日泳げていない俺からすると、1分くらいタイムを上げないと勝てなくなったので、少し厄介だ。でも、同じ練習を耐え抜いた者として褒めてあげたい。
「おめでとう。」
ダウンを泳いできたピー也に、俺はそう声をかけた。
次にあるのは50m自由形の決勝。ほぼ休憩する間もなく200m自由形の決勝があるので、太地先輩は必要なものを全部持って、召集所に向かう。俺たちは待機場所からスタンドに移動した。
「大翔、JO切れるかな?」
「体力ヤバいって言ってたもんな。」
太地先輩は午前で2レース泳いでいる。そして今からも2レース。さすがに疲れが来ているらしい。
小中学生の決勝レースが終わって高校生の決勝が始まる。
―ピッ
笛の音に合わせて一斉に飛び込んだ10人はほぼ一直線のまま25mを通過。少しずつ端のレーンの方の選手から遅れ始め、最終的に太地先輩も少し遅れてフィニッシュ。JOの参加標準記録も、この試合のあとにあるチャレンジレースへの参加標準記録も、ギリギリ突破出来なかった。そのタイム0.03秒。
「惜っしぃ〜!」
「あとちょっとやったな。」
そんなので落胆しているのも束の間、200m自由形の決勝レースが始まる。
中学生女子の部で大会新記録が出て、会場のボルテージが上がったところで高校生のレースが始まる。遠く召集所に見える太地先輩は少し疲れている様子だった。
高校生女子の決勝が終わって、太地先輩がスタート台に上がる。
―ピッ
笛の音で出た太地先輩に違和感を感じたのは浮き上がりすぐだった。
いつもならこの時点で先頭に食らいついていけているのに、今は最下位争い。ラップも予選の時よりは遅く、いつもの軽い泳ぎとは全く違う泳ぎだった。結果は10位。予選のときから7秒遅いタイムだった。
少し暗い雰囲気の中、夜道を歩く。夜富士を左に見ながら、明日のことを考えるだけだった。