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第29話 情人③ ~音羽の場合~

 とあるアパートのとあるドアの前。茶色のドアにひねるタイプの取手がついた単純な作り。このドアの向こうに私がお菓子を渡す相手がいる。


「あ〜緊張する〜。」


私が男子に渡すなんて初めてだ。今までは女子と友チョコぐらいだったし、そういう相手がいなかった。まあ、カレンもそういう相手でもないんだけど、ね。仲良くはしてるから、友チョコぐらいは。Q達は明日渡すつもりだけど、カレンは家も隣だし…


「そもそも、今日渡す必要があるのか?」


ふと、そんな疑問が出てきた。どうせ明日も会うんだし、別に今日じゃないといけないとかではない。明日渡したときのことを想像してみる。


『あっ、ありがとう。別に学校ちゃうくて家でもよかったのに。』


言いそ〜。あの天然は言いそう。よし、なら今日渡すしかない。頑張れ!私!


―ピンポーン…


あれっ?


―ピンポーン…


おかしいな。


―ピンポンピンポンピンポーン…


留守か。しょうがない。1度出直そう。


 自分の家の方に足を向け、とぼとぼと歩き出す。その時、カンカンと誰かが階段を登ってくる音がした。少し期待を込めて振り返る。次第に金髪の頭が見え始め、カレンだと分かった。


「あれっ?音羽ちゃん、どうしたん?」

「あのね、えっと〜…」


なんで今ここで言葉が出てこないのよ!ほぼ徹夜でいい感じの言葉考えてきたのに!


「あの、私からバレンタイン貰えたら嬉しい?」

「えっ、あぁそうか。日本ではそうなんやね。」

「日本では?」

「そう。イタリアでは男子から女子やから。俺、今まで親同士の交換しか見たことないし。」


へぇーイタリアではそうなんだ。ってそんなこと思ってる暇は無い。


「じゃあ、バレンタインに何か貰うんって初めてよね。」

「そうだけど…」

「はいこれ!」


私はマカロンの入った紙袋を差し出す。私、今どんな顔してるかな?


「俺に?」

「そう。相手が日本人だから日本のルールでやらせて貰うよ。言っとくけど、私も男子にあげるの初めてなんやからね。」

「おう、あ、ありがとう。」


カレンはゆっくりと手を伸ばし、袋の持ち手に手をかけた。


「中身に意味ってあるん?」

「意味?そんなん知らんけど。それより、家寄ってかん?イタリアのバレンタインのこと知りたいし。」

「おぉ、ええな。でも、荷物だけ置いてくわ。先戻って待っててな。」

「うん!」


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