2月16日。バレンタイン後最初の登校日。いつものように登校して、自分の机にカバンを置く。朝一に海南さんと熊野さんからクッキーを貰って、今年は多めだなって一息つく。
「ねぇ、作詞家くん。これ、作ってきたんだけど。」
久しぶりに柚さんが話しかけてきた。
「柚さんの手作り?ありがとう!」
俺が少し喜んだ表情を見せると、柚さんは少し口角を上げた。透明になっている窓から中身を見ると、マカロンだった。
「由良君よっす!」
「由良君おはよう!」
しばらくすると琴さんと船戸さんも近づいてきて、クッキーを貰った。今回の成績は7個(杏の以外)。自己記録更新だ。明日、大雪かもしれないな。
バレンタインで浮かれているのも束の間、授業はそんなこと知らんと言わんばかりに進んでいく。
そして変わったことがある。
1つ目は休み時間のきいの距離が近いこと。今までは俺の机に来てただ喋るだけだったのに、今日は俺と椅子を半分こして休み時間を過ごしている。別に俺は構わないのだが、やはり周りからの視線が痛い。
そしてこの休み時間もそうなわけだ。
「水泳部は今週末も試合だってな。大変だな。」
「いや、そうでもねぇよ。2年がいないから人数はめっちゃ少なくなるけど、敬語使わなくていいってのはいいよな。」
「奏っていつも敬語使わんやん。」
「ちょ、楓。」
俺の席の周りで集まり、喋る。
「ねぇ、楓ってちょっと前まで『奏っち』ちゃうかったっけ?」
「「あっ。」」
きいの指摘に2人は固まる。そう、2つ目は奏と海南さんの距離が近くなったこと。元々仲が良かった2人だが、この休みの期間でさらに距離が近くなった気がする。
「それは、私たち幼馴染だから、前まではみんなの呼び方に合わせてたけど、昔の頃の呼び方に戻しただけ。」
そんなに顔を赤くして言っても説得力ないからな。
「ふーん本当かな?」
ほら、きいがめちゃくちゃ気になってるし。
「本当やし!奏も何か言ってよ!」
「ん?あぁ、そうだな。」
「奏、ホンマに?」
「Qもかよ。俺たちはそういう関係やないって。」
明らかに2人とも慌ててる。見ていて楽しい。
「2人とも、そのくらいにしといてあげて。」
「楓たちが可哀想やわ。(私も気になるけど。)」
桜と熊野さんが止めに入ると、海南さんがキラキラとした目で見つめている。
「だから、後でじっくりね。」
桜の海南さんの肩を掴む手に少し力が入る。そのまま2人は自分の席に戻って行った。
「奏も後でな。」
俺は奏の肩に手を置いた。