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第34話 寂寥①

 少しずつ暖かくなってきた今日この頃。朝、息を吐いても、うっすら白くなるだけやし。今日かて寝間着が汗で湿っていたくらいだ。まぁ自分が暑がりなのもあるかもしれないが。


 いつものように、制服に着替えてから隣の家に行く。そこで、朝飯を食べる。これが最近のルーティーンとなっている。


『梅の開花情報です。月ヶ瀬梅林では…』


天気予報では梅の開花を取り扱うようになってきた。もうすぐ春なのか。


「音羽ちゃんはさ、冬って好き?」

「冬はどちらかと言うと嫌いやな。寒いし。カレンは?」

「自分は冬が好きやな。」


音羽ちゃんは「何で?」って顔をしている。


「冬ってさ、ちょっと物悲しいやん。」

「うん、まぁ、秋冬はそんな感じやね。でも何で冬だけ?」

「冬の寂しさと春が来てしまう寂しさが合わさってるからかな?」

「ふーん、私には分からないや。」


朝ご飯を平らげて、時分が皿を洗う。後ろでは扉を閉めて音羽ちゃんが着替えているが、自分はあまり気にしていない。布擦れの音とかはたまに聞こえてくるが、別になんとも思わない。自分がいるのに着替えている時点で、音羽ちゃんも気にしていないんだろう。扉の奥を覗けば殺されるんだろうけど。


「おまたせ。今日も時間ピッタリやな。行こ!」


2人でアパートを出て、駅に向かって歩き始めた。


 駅に向かう大通りにはサラリーマンの姿がちらほら。先月よりも服が薄くなった気がする。マフラーをしている人はいるものの、ニット帽を被っている人はいない。


「もうすぐ春か。もう1年なんだよな。入学してから。」

「あんなに大きかった制服も今は何となくピッタリやし。」

「まだ音羽ちゃんに声掛けられなかったあの頃が懐かしい。」

「私は他いるとは気づいてなかったけどね。」


運動会の前までは一人で歩いていた道も、今は隣に音羽ちゃんがいる。正直、なあなあの付き合いだけど、安心できる。


「私が気づいていなかったらどうしてたの?」

「たぶん、めちゃくちゃ頑張って話しかけてた。」

「カレンにそんな勇気あるん?」

「あるし。なめんな。」


少しずつ駅が見えてくる。自分は、音羽ちゃんの手と当たりそうになったが、それを引っ込めながら歩いた。


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