少しずつ暖かくなってきた今日この頃。朝、息を吐いても、うっすら白くなるだけやし。今日かて寝間着が汗で湿っていたくらいだ。まぁ自分が暑がりなのもあるかもしれないが。
いつものように、制服に着替えてから隣の家に行く。そこで、朝飯を食べる。これが最近のルーティーンとなっている。
『梅の開花情報です。月ヶ瀬梅林では…』
天気予報では梅の開花を取り扱うようになってきた。もうすぐ春なのか。
「音羽ちゃんはさ、冬って好き?」
「冬はどちらかと言うと嫌いやな。寒いし。カレンは?」
「自分は冬が好きやな。」
音羽ちゃんは「何で?」って顔をしている。
「冬ってさ、ちょっと物悲しいやん。」
「うん、まぁ、秋冬はそんな感じやね。でも何で冬だけ?」
「冬の寂しさと春が来てしまう寂しさが合わさってるからかな?」
「ふーん、私には分からないや。」
朝ご飯を平らげて、時分が皿を洗う。後ろでは扉を閉めて音羽ちゃんが着替えているが、自分はあまり気にしていない。布擦れの音とかはたまに聞こえてくるが、別になんとも思わない。自分がいるのに着替えている時点で、音羽ちゃんも気にしていないんだろう。扉の奥を覗けば殺されるんだろうけど。
「おまたせ。今日も時間ピッタリやな。行こ!」
2人でアパートを出て、駅に向かって歩き始めた。
駅に向かう大通りにはサラリーマンの姿がちらほら。先月よりも服が薄くなった気がする。マフラーをしている人はいるものの、ニット帽を被っている人はいない。
「もうすぐ春か。もう1年なんだよな。入学してから。」
「あんなに大きかった制服も今は何となくピッタリやし。」
「まだ音羽ちゃんに声掛けられなかったあの頃が懐かしい。」
「私は他いるとは気づいてなかったけどね。」
運動会の前までは一人で歩いていた道も、今は隣に音羽ちゃんがいる。正直、なあなあの付き合いだけど、安心できる。
「私が気づいていなかったらどうしてたの?」
「たぶん、めちゃくちゃ頑張って話しかけてた。」
「カレンにそんな勇気あるん?」
「あるし。なめんな。」
少しずつ駅が見えてくる。自分は、音羽ちゃんの手と当たりそうになったが、それを引っ込めながら歩いた。