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第37話 忘却

 正直言って結構ヤバい。完全に忘れてた。明日から高校入試の追試だからって気を抜いていたら、今日提出分の課題をしていなかった。まずは歴史。始業まであと20分。間に合うかな?


「おはよ!音羽!朝から勉強なんて偉いね!」

「楓、ごめん!今そんなこと言ってる暇はない!」

「ええ〜っ、何で?」

「楓、見たらわかるでしょ。音羽は今、来週の月曜日提出の課題をやっているんだから。」

「じゃあ、喋ってもいいじゃん。」

「Sakura,pardon?」

「だから、来週の月曜日提出の課題を…」

「えええええええええええ!?」


私、今日提出じゃない課題を急いでやってたの?マジで最悪。カレンめ、嵌めやがったな。


「あぁ、カレンに聞いたのか。D組は今日提出だからな。」

「そういや、今日の朝、『見せて』ってRINE来てたわ。」

「はぁ、まさかアイツに騙される日が来るとはね。」


私は、歴史のノートを閉じた。


 その日の放課後。いつも通り部屋にはカレンがいる。


「そういや、C組は月曜日だってな。悪ぃ。」

「みんなが気づいてくれたから気にしてないよ。」


そう言って、テーブルにわさび巻きを置く。


「音羽ちゃん、やっぱ怒ってる?」

「いや、怒ってないよ。」


次にわさび菜のおひたしを置く。


「怒ってるやんな?」

「だから怒ってないって。」


最後に、目の前にわさび丼を置いてやった。


「すみませんでした。」

「だから怒ってないってば!」


そう、怒ってはいない。怒ってないけど、何となく。


 カレンの嫌いな食べ物はわさび。あの鼻に抜ける感覚が嫌みたい。お子ちゃま舌だな。


 だから私は、今日はわさびを沢山使った料理を作ってあげようと、わざわざ買い足したくらいである。おかげで今この顔が見られている訳だが。


「んーーーーー!コホコホ。」


わさび丼を涙目で食べているカレンを見ていると、こっちまで涙が出てきそうだ。


「せっかくだから、動画でも録ってあげようか?『カレンは大人の階段を登りました』って。」

「これ以上、自分を辱めるな。」

「何も辱めるつもりはないよ。ただ、面白いなって。」


ギブとカレンは丼を差し出してくるが、助ける気は更々ない。むしろ、わさびを追加してやりたい。


「わさび美味しいのにな。しょうがないか。」


そう言って、私は自分のわさび丼を食べる。調べながら作ってみたけど、意外といけるな。


「食べるから、今日のことは許してぇ!」

「だから怒ってないって!」


カレンはそのまま、意地で食べきった。本当に怒ってないのに。


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