正直言って結構ヤバい。完全に忘れてた。明日から高校入試の追試だからって気を抜いていたら、今日提出分の課題をしていなかった。まずは歴史。始業まであと20分。間に合うかな?
「おはよ!音羽!朝から勉強なんて偉いね!」
「楓、ごめん!今そんなこと言ってる暇はない!」
「ええ〜っ、何で?」
「楓、見たらわかるでしょ。音羽は今、来週の月曜日提出の課題をやっているんだから。」
「じゃあ、喋ってもいいじゃん。」
「Sakura,pardon?」
「だから、来週の月曜日提出の課題を…」
「えええええええええええ!?」
私、今日提出じゃない課題を急いでやってたの?マジで最悪。カレンめ、嵌めやがったな。
「あぁ、カレンに聞いたのか。D組は今日提出だからな。」
「そういや、今日の朝、『見せて』ってRINE来てたわ。」
「はぁ、まさかアイツに騙される日が来るとはね。」
私は、歴史のノートを閉じた。
その日の放課後。いつも通り部屋にはカレンがいる。
「そういや、C組は月曜日だってな。悪ぃ。」
「みんなが気づいてくれたから気にしてないよ。」
そう言って、テーブルにわさび巻きを置く。
「音羽ちゃん、やっぱ怒ってる?」
「いや、怒ってないよ。」
次にわさび菜のおひたしを置く。
「怒ってるやんな?」
「だから怒ってないって。」
最後に、目の前にわさび丼を置いてやった。
「すみませんでした。」
「だから怒ってないってば!」
そう、怒ってはいない。怒ってないけど、何となく。
カレンの嫌いな食べ物はわさび。あの鼻に抜ける感覚が嫌みたい。お子ちゃま舌だな。
だから私は、今日はわさびを沢山使った料理を作ってあげようと、わざわざ買い足したくらいである。おかげで今この顔が見られている訳だが。
「んーーーーー!コホコホ。」
わさび丼を涙目で食べているカレンを見ていると、こっちまで涙が出てきそうだ。
「せっかくだから、動画でも録ってあげようか?『カレンは大人の階段を登りました』って。」
「これ以上、自分を辱めるな。」
「何も辱めるつもりはないよ。ただ、面白いなって。」
ギブとカレンは丼を差し出してくるが、助ける気は更々ない。むしろ、わさびを追加してやりたい。
「わさび美味しいのにな。しょうがないか。」
そう言って、私は自分のわさび丼を食べる。調べながら作ってみたけど、意外といけるな。
「食べるから、今日のことは許してぇ!」
「だから怒ってないって!」
カレンはそのまま、意地で食べきった。本当に怒ってないのに。