ついにやってきてしまった。テスト前日だ。
「ノリ気になれねぇんだわ。」
「それは分かる。2年には上がれるだろうしな。」
「16単位やっけ?落とせんのは。俺たちは余裕やけど…」
「あぁそうだな…」
俺は隣にいるきいを見やる。おそらく、奏も同じだろう。
「だな…」
「なんで俺たちなんだろうな…」
「俺に訊くな。こいつらが考えていることは分からん。いや、分かりたくない。」
「まぁ、お互い頑張ろうぜ。」
「じゃあ明日、生きて学校で。」
そう言って電話を切る。隣を見ると、きいがまだ目をうるうるさせていた。
「それで、どれを教えて欲しいんだ?」
「これなんだけど。」
きいが指さしたのは、一次不定方程式だった。そこなら俺も日曜日に解いたな。教えれるだろう。
「なんでここに4が出るの?」
「ちょっと待っとけ。」
俺は引き出しからコピー用紙を取り出して、その問題を写す。
「どこまで分かるんだ?」
「式変形までは分かる。」
「なら、計算だな。」
俺はさっき作った解説用の隙間だらけの式をシャーペンで指す。
「ここに4=19-5・3を代入するのは分かるよな。」
「そこまでは分かる。」
あれっ、これ次はくくるだけだからそうよな。こいつ、足し算が分かってないだけだ。
「できた式は?」
「5-(19-5・3)・1=1。合ってる?」
「合ってる。じゃあ、気づくことねぇか?」
「?」
「気づくこと。」
「次、5=で代入したらいいんちゃうん?」
「その前にくくれるところあるよな。」
「?」
きいはしばらく式を見つめる。じっと、じっと、じっと…
「分からん!」
「分からんか。」
俺は5のところに線を引く。
「ここ、くくれるよな。」
「あっ、ほんとだ!でも、これ5・2になるくない?」
「お前、足し算もできないのか?5-(-5・3)=?」
「5・4だ!」
「だいたいどんな時でも1回代入した後はくくれるから覚えとけ!」
「ラジャ!」
本当にこいつは追認(追認定課題)にかからないのだろうか。
〇〇〇〇〇
「それで、何が分からへんの?」
電話を切って、隣にいる楓に訊く。勉強くらい教えてやるが、俺にやれることの方が少ないのに。
「ん?何となく来てみただけ。いいでしょ?」
「ええけど、邪魔すんなよ。」
「分かってるって。」
「おい、言ってることとやってることが違いすぎるぞ。」
楓は俺の右腕に抱きついていた。
「どうせ青シートで隠してるだけでしょ。私も見せてよ。」
「だから、じゃますんなって。」
「そんなこと思ってないくせに。」
「う…」
何も言えない。