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第38話 前日

 ついにやってきてしまった。テスト前日だ。


「ノリ気になれねぇんだわ。」

「それは分かる。2年には上がれるだろうしな。」

「16単位やっけ?落とせんのは。俺たちは余裕やけど…」

「あぁそうだな…」


俺は隣にいるきいを見やる。おそらく、奏も同じだろう。


「だな…」

「なんで俺たちなんだろうな…」

「俺に訊くな。こいつらが考えていることは分からん。いや、分かりたくない。」

「まぁ、お互い頑張ろうぜ。」

「じゃあ明日、生きて学校で。」


そう言って電話を切る。隣を見ると、きいがまだ目をうるうるさせていた。


「それで、どれを教えて欲しいんだ?」

「これなんだけど。」


きいが指さしたのは、一次不定方程式だった。そこなら俺も日曜日に解いたな。教えれるだろう。


「なんでここに4が出るの?」

「ちょっと待っとけ。」


俺は引き出しからコピー用紙を取り出して、その問題を写す。


「どこまで分かるんだ?」

「式変形までは分かる。」

「なら、計算だな。」


俺はさっき作った解説用の隙間だらけの式をシャーペンで指す。


「ここに4=19-5・3を代入するのは分かるよな。」

「そこまでは分かる。」


あれっ、これ次はくくるだけだからそうよな。こいつ、足し算が分かってないだけだ。


「できた式は?」

「5-(19-5・3)・1=1。合ってる?」

「合ってる。じゃあ、気づくことねぇか?」

「?」

「気づくこと。」

「次、5=で代入したらいいんちゃうん?」

「その前にくくれるところあるよな。」

「?」


きいはしばらく式を見つめる。じっと、じっと、じっと…


「分からん!」

「分からんか。」


俺は5のところに線を引く。


「ここ、くくれるよな。」

「あっ、ほんとだ!でも、これ5・2になるくない?」

「お前、足し算もできないのか?5-(-5・3)=?」

「5・4だ!」

「だいたいどんな時でも1回代入した後はくくれるから覚えとけ!」

「ラジャ!」


本当にこいつは追認(追認定課題)にかからないのだろうか。


〇〇〇〇〇


「それで、何が分からへんの?」


電話を切って、隣にいる楓に訊く。勉強くらい教えてやるが、俺にやれることの方が少ないのに。


「ん?何となく来てみただけ。いいでしょ?」

「ええけど、邪魔すんなよ。」

「分かってるって。」

「おい、言ってることとやってることが違いすぎるぞ。」


楓は俺の右腕に抱きついていた。


「どうせ青シートで隠してるだけでしょ。私も見せてよ。」

「だから、じゃますんなって。」

「そんなこと思ってないくせに。」

「う…」


何も言えない。


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