部屋の中に聞こえるのはカリカリというシャーペンの音だけ。たまにコトコトと机が揺れて、サッサッと手で紙を擦る音が聞こえる。あと微かに聞こえるのは呼吸音が2つ。1つはとても落ち着いた呼吸音。もう1つは明らかに焦っている呼吸音。
私、海南楓はまあまあ馬鹿である。平均以下は当たり前。ここがそこそこ頭のいい学校だからと言うかもしれないが、中学はそこまで頭がいい方でもなく、受ければ入る学校だった。
そして私は、そこで底辺争いをしてきた馬鹿だ。自分で言うのもなんだが、なかなかの猛者っぷりである。ギリギリ内部入学ができるレベルの学力だったが、高校に入ると学力の差は歴然。いつも奏のおかげで欠点+1点をキープしている。だが、今回、追認にかかってしまうとそれこそ進級が危ない。
奏と一緒にいるために。
奏と一緒に住むために。
私は欲望に忠実に頑張るだけだ。
ふと、奏の方を見ると、彼も彼で自分のノートを読み込んでいる。奏いわく、「ノート読んでるだけで7割は取れる」らしい。私には分からない感覚だが。
私は奏のブラックコーヒーを一口飲んでまた机に向く。今は彼氏と彼女じゃない。需要と需要だから。私たちは一言も交わさない。
明日の教科は現国と公共。いわゆる問題ない日。
公共はいつもめちゃくちゃな問題を作ってくるからある程度諦めている。そして私の追認の可能性が低い教科。
それに比べて現国は、みんなにとっては取れる教科みたいだが、私は現代文がだいぶ苦手。故に、私が教えてもらおうとしているのは、この現国だ。
授業中にやった問題を中心に復習していく。分からない問題があれば奏を見る。奏は私と同じペースで解いてくれているので、その問題のヒントになる部分に線を引いてくれる。もちろん無言で。
次の日、1時間目が現国のテスト。漢字は完璧に覚えたけど、問題は読解の方。担当の柊吾が結構意地悪な先生なので、プリントと同じ問題は絶対にでない。問題と答えを逆にしたような問題は出るけど。あと、実力問題が1題出るのも分かっている。
漢字は覚えているのでものの数分で解ける。自信が結構あるから見直しも1回くらいでいいだろう。
そして読解に入る。読解の中に組み込まれている漢字の問題もクリア。次の問題は抜き出しか。えっと、ここの周りだから…昨日奏がここを線引いていたような気がする。字数もピッタリ。これだな。
昨日、奏に教えてもらったからか、自分が現国が苦手ってことを忘れるくらいに解ける。でも、実力問題はなんの対策もできていない。しかも説明系ばっかり。部分点だけでも貰えたらいいか。
早速問題に取り掛かる。やっぱり、何を言っているのかさっぱりだ。それっぽいところも分からない。そのとき、昔、奏に言われたことを思い出した。
「情報が多くて困るんなら消せ。」
いわゆる削読法。時間はまだあるし、やってみるしかないか。こことここは被ってるから、こっち消して…ここはいらない…次は…
ようやく見えてきたのは3割くらいに減った文章。私が「ぽいな」って思ってチェックをつけていた部分がいくつか残っている。私はそれを繋いで答えっぽいものを作った。
そして、チャイムが鳴った。解答用紙は全部埋まっていた。