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第50話:学級会ですわぁ~~~~。

「あー、司会進行はいつも通り俺が務める。いいですよね、リュディガー団長?」


 ローレンツ副団長が偉そうな態度で、リュディガー団長に尋ねます。


「ええ、構いませんよ。お願いします、ローレンツ副団長」


 リュディガー団長は平民出身ですから、家柄ではローレンツ副団長には到底敵いません。

 それをいいことに、ローレンツ副団長は何かとリュディガー団長を差し置いて前に出たがるのですわ。

 こういうところも、本当に器がちっちゃいですわ!


「まず最初に俺から【武神令嬢ヴァルキュリア】に説教がある!」

「――!」


 ローレンツ副団長はわたくしをギロリと睨みつけてきました。

 ……説教?


「その名で呼ぶのはやめてくださいまし。わたくしの名前はヴィクトリアですわ」

「そういうのはウザいからいいんだよ! 相変わらずお前は自然破壊に勤しんでるようだな! 報告が多数上がってるぞ!」

「…………あ」


 そ、それは……。


「伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンを討伐した際は、フォレスティア大森林の樹々をズタズタにしたそうだし、イイタ地方の合宿から帰って来た直後は、飛空艇乗り場付近の林の樹を100メートル以上薙ぎ倒し、挙句先日のドッペルフォックス討伐時は、一つの村をほぼ全壊させたそうじゃねーか!? お前は何かを破壊しなきゃ仕事ができねーのかよ! そんなんでよく隊長を務めてるな!」

「それは……その……」


 そう言われると、何も言えねぇですわぁ~~~~。

 でも少なくとも飛空艇乗り場付近の樹を破壊したのは、わたくしのお父様が原因ですので、そこだけはご理解いただきたいですわぁ~~~~。


「お言葉ですがローレンツ副団長!」


 ヴェルナーお兄様!?

 何となくですが、嫌な予感がいたしますわぁ~~~~。


「そんなお茶目なところも、ヴィクのチャームポイントの一つ! ――あれはヴィクが9歳と72日のことです。我がザイフリート家の屋敷の裏の林を、ヴィクが一日で更地にしてしまったことがあったのです。そのあまりのヤンチャっぷりに、私の胸はこれでもかと高鳴りました――。その日は『更地記念日』として、国民の祝日に申請しようか迷ったほどです」


 もうヴェルナーお兄様は、二度と口を開かないでほしいですわぁ~~~~。


「わかりますッ!! ちょっとおドジさんなところも、ギャップ萌えですよねッ!」


 レベッカさん!?


「フフ、見る目がありますねあなた。今度特別に、私の7歳の誕生日にヴィクがプレゼントしてくれた、私の似顔絵を見せてあげますよ」


 ヴェルナーお兄様がメガネをスチャッと上げながら、ドヤ顔でそう言います。

 あれまだ取っているのですかぁ~~~~???

 ドチャクソ恥ずかしいから、いい加減もう捨ててほしいですわぁ~~~~。


「へえ、似顔絵ですか。僕も見てみたいです」


 ラース先生まで???

 ラース先生にだけは、あんな下手クソな絵、絶対見られたくないですわぁ~~~~。


「貴様にだけは誰が見せるものかッッッ!!!!!!」

「――!」


 うるさッ!?

 なんでラース先生にだけは、そんなに当たりが強いのです???


「オイッッ!!! 俺を無視してくだらない話をするんじゃねぇ!! 今は会議中だぞッ!!」


 今だけはローレンツ副団長に同意ですわ。

 『俺を無視して』という辺りに、ローレンツ副団長の人柄が現れてますが。


「チッ、メンドクセェからもういい。次の議題に移るぞ。――【魔神の涙】に関する件だ」

「「「……!」」」


 いよいよ本題ですわね。


「ここ最近、【魔神の涙】服用者による事件が多発している。だが俺は報告書を読んで、一つの法則に気付いた」


 法則……?


「【武神令嬢ヴァルキュリア】と、そこのラース・エンデ、お前たち二人だけは、異様に事件の遭遇率が高いんだよ」

「「「――!」」」


 あ、言われてみれば――。


「初の【魔神の涙】事件と見られている、2年半前の被害者はラースだし、その現場に居合わせたのは【武神令嬢ヴァルキュリア】だ。そして数ヶ月前のラースのサイン会の現場で起きた事件。ドッペルフォックスと取引していたフリッツという男。更に昨日の豚聖社謝恩会での事件。この4件全てに、お前たち二人が関わってるんだ。もちろんこの4件以外にも【魔神の涙】による事件は起きちゃいるが、流石に4回も現場に居合わせたのはお前たち二人だけ。これはとても偶然とは思えねぇ。何か心当たりはあるんじゃねぇか? アァ?」

「……」


 心当たり、ですか……。


「――それは、僕とヴィクトリア隊長が、【魔神の涙】を流している組織から狙われているということでしょうか」


 ラース先生……!?


「その通りだ。そう考えればいろいろと辻褄が合う。特に最初の事件は、お前がアキュターガワ賞を受賞した直後に起きただろう? 一躍有名になったことで、出版関係の知り合いが急増したはずだ。その中に組織の人間が交じっていて、お前が目を付けられたと考えても不自然じゃない。お前のサイン会や豚聖社謝恩会に犯人が侵入したことも、それを裏付けている」

「……」


 そんな……!?

 出版関係者の中に、黒幕が……!?


「どうだラース? 出版関係者の中に、怪しい人間はいないか?」

「……現時点では、何とも申し上げられません」


 ラース先生は苦々しいお顔で、絞り出すようにそう仰いました。

 まさか懇意にしている出版関係者の中に犯人がいるかもしれないと考えるのは、ラース先生としても身が裂かれる思いでしょう……。

 ひょっとして昨日の謝恩会にも犯人は出席していて、ラース先生を陰で嘲笑っていたのでしょうか……。

 だとしたら、絶対に許せませんわ!


「フン、そうか。【武神令嬢ヴァルキュリア】のほうはどうだ? お前はお前で自然破壊の常習犯なんだから、どっかで犯人に目を付けられた可能性は十二分にあるだろう?」

「……!」


 わ、わたくしが、ですか……?


「確かに! どこかでヴィクを見掛けた犯人が、そのあまりの美しさにストーカー化してしまった可能性は十二分にありますねッ!」


 ヴェルナーお兄様がいると、全然話が進みませんわッ!


「あぁ~、それはちょっと、犯人の気持ちわかるかも~」


 レベッカさん!?


「なるほど、その可能性がありましたか」


 ラース先生まで!?


「お前は同意するなッッ!!!」

「……!!」


 だからなんでラース先生にだけは、そんなに当たりが強いのです?????


「だから俺を無視してくだらない話をするなと、何度言わせるんだッッ!!! 次やったらクビにするぞッ!!」


 最早隊長会議というよりは、子どもの学級会ですわぁ~~~~。

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