目次
ブックマーク
応援する
11
コメント
シェア
通報

第49話:変人揃いですわぁ。

「やあ【武神令嬢ヴァルキュリア】。今日も君は美しいね」

「――!」


 わたくしたちが中央会議室に入ると、既にそこには第二部隊のブルーノ隊長と、イルメラ副隊長が座られていました。

 ブルーノ隊長は今日もわたくしに、蛇みたいなねっとりとした視線を向けてきます。

 どうもこの方は、昔から苦手ですわ……。

 その法を犯す者は決して許しはしない厳粛な性格と腕前から、【司法神フォルセティ】の二つ名を持つ大変優秀な方ではあるのですが……。


「その名で呼ぶのはやめてくださいまし。わたくしの名前はヴィクトリアですわ」

「フフフ、いいね、やはり君はそうでないと」


 どういうことです???

 何故わたくしに冷たい態度を取られたのに、そんなに嬉しそうなのですか???


「ブルーノ隊長、いつも言っているじゃないですか、私のヴィクにそんないやらしい目を向けるのはやめてくださいッ! どうせあなたのことだ! ヴィクに頭の中で、バニーガールの格好をさせたり、SM嬢の格好をさせたり、布面積極小のドエロシスターにしているのでしょうッ!?」

「ヴェルナーお兄様???」


 ヴェルナーお兄様のキモさがストップ高ですわぁ~~~~。


「フフフ、なるほど、その手がありましたか」


 ヌッ!?

 ブルーノ隊長がポンと手を叩きながら、ニコニコされています。

 その手、とは???


「クッ! あなたという人は……!」

「ガッハッハ! その辺にしておけヴェルナー。さあ座るぞ」

「ぐぅ……!」


 ヴェルナーお兄様はヴェンデルお兄様に首根っこを掴まれて、無理矢理椅子に座らされました。

 うん、やはりヴェンデルお兄様は頼りになりますわ!

 わたくしたちも適当に近くの席に腰を下ろします。


「オレはここに座るじゃん!」

「アタシはここに座るの!」


 ピロス隊長とピピナ副隊長は、定位置である端っこの席に座られました。


「やあみんな。急に呼び出して悪かったね」


 とそこへ、柔和な空気を纏った、一人の中年男性が入って来ました。

 我が王立騎士団の頂点である、リュディガー団長ですわ。

 大変珍しい虹色の髪と、神懸った剣の腕を持つことから、【虹の剣聖ヘイムダル】の二つ名を冠する、騎士団最強の男――。

 騎士団内で唯一、わたくしでは勝てるイメージがまったく湧かない人物ですわ。

 それくらいリュディガー団長の強さは、群を抜いております。

 顔の左半分を覆っている痛々しい火傷の痕も、くぐってきた修羅場の数を物語っておりますわ。


「何だぁ? まだ全員揃ってねーじゃねーかよ。ったく相変わらず使えねぇ連中だな」


 リュディガー団長の後ろから、如何にも高そうな装飾品で全身を着飾った、20代中盤くらいの男性が現れました。

 副団長のローレンツ副団長ですわ。

 ローレンツ副団長は筆頭侯爵家であるオストヴァルト侯爵家の嫡男で、アンネリーゼ隊長同様騎士としての実力は皆無でありながら、その圧倒的な家柄のみで副団長にまで上り詰めた方……。

 典型的な権威主義者で、身分の低い人間のことは奴隷くらいにしか思っていない言動が目立ちます。

 同じ貴族として、甚だ恥ずかしい限りですわ。


「いやあ、遅れてすまんでござる」

「ニンニン」


 第四部隊のジュウベエ隊長とコタ副隊長も現れました。

 ジュウベエ隊長ったら、酒瓶を抱えてますわ!?

 この方、また仕事中に飲酒していたのですか!?


「オセェよクソが! この俺様を待たせるとは、良い度胸だな平民のクセに!」


 いや、あなたも今来たところじゃありませんか、ローレンツ副団長……。


「アッハッハ! これはこれは、面目ないでござる」

「全然反省してねーだろお前! しかも仕事中に酒飲んでんじゃねーよ! 俺の王立騎士団の評判が落ちたら、どうしてくれんだ!? アァ!?」


 王立騎士団ときましたか……。

 確かリュディガー団長はちょうど40歳ですから、まだまだ現役を続けるでしょうが、既にローレンツ副団長は、ご自分が団長になるつもりのようですわね。

 やれやれ、この方が団長になった時を想像すると、今から憂鬱ですわ……。


「アラアラアラ、どうやら私が最後のようね。ごめんなさい、メイクに時間が掛かったものだから」

「「「――!」」」


 その時でした。

 いつもの玉座のような豪奢な椅子に左手で頬杖をついてふんぞり返っている、第五部隊隊長のアンネリーゼ隊長が、【バニーテン】に椅子ごと掲げられながら入って来ました。

 アンネリーゼ隊長の隣には、モノクルを掛けたバニーガール姿のイケメンである、エーミール副隊長が立っております。

 相変わらず、凄い絵面ですわぁ……。


「ヒイイイイイイイ!?!?」


 この光景を見たレベッカさんが、例によって自身の鳥肌をさすりながら悲鳴を上げます。

 うん、何度見ても慣れませんわよね、これは……。

 やっぱり王立騎士団の隊長は、わたくし以外変人揃いですわぁ。


「こ、これはこれはアンネリーゼ様! いえいえいえ! アンネリーゼ様でしたら、もっとごゆっくりしていただいてよかったのですが! アハハハハ」


 ローレンツ副団長が一転、ゴマスリモードに切り替わりましたわ。

 筆頭侯爵家の嫡男であるローレンツ副団長も、筆頭公爵家のご令嬢であるアンネリーゼ隊長には、権力で敵いませんからね。

 こういう貴族の悪いところの権化のようなローレンツ副団長を見ていると、つくづく嫌気が差しますわ……。


「うん、全員揃ったようだね。では今から、緊急隊長会議を始めるよ」


 リュディガー団長が穏やかな声で、そう宣言しました。

 さて、どうなりますことやら。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?