「ヴェルナーお兄様!」
「ニャッポリート」
そこにいたのは我がザイフリート家の次男であり、第一部隊の副隊長でもある、ヴェルナーお兄様でした。
青髪な点はお父様と共通ですが、細身の身体にメガネという理知的な容姿は、お父様とは似ても似つきません。
その誰に対してもクールな性格と、類稀な氷剣魔法の腕前から、【
「お元気そうで何よりですわ、ヴェルナーお兄様」
第一部隊はこの半年ほど、北方で起きていた魔獣の異常発生事件の鎮圧で出張しておりましたからね。
わたくしもヴェルナーお兄様に会うのは半年ぶりですわ。
「お前もな、ヴィク。実に184日と1時間13分25秒ぶりじゃないか。会いたかったぞ」
「むぐ!?」
「「「――!」」」
人前にもかかわらず、ヴェルナーお兄様はわたくしのことを、ニャッポごとギュッと抱きしめてきました。
も、もう!
相変わらずシスコンなのですから!
ラース先生も見ているというのに、恥ずかしいったらないですわ!
ニャッポも苦しそうに「ニャッポリート」と鳴いて抗議しております。
「ヴェ、ヴェルナーお兄様、放してくださいまし! 人前ですわよ!」
「いいや、放さない。私がこの184日と1時間13分32秒、お前に会えなくてどれだけ心を痛めていたと思ってるんだ。184日と1時間13分35秒分のヴィクトリウムを摂取するまでは、このままでいてもらうぞ」
デタ!
謎の成分、ヴィクトリウム!
どうやらわたくしから放出されている栄養素の名前らしいのですが、勝手に変な名前を付けないでいただきたいものですわ!
「……ただ、私がいないこの184日と1時間13分42秒の間に、私のヴィクに悪い虫が寄っているようだな」
「――!」
ヴェルナーお兄様がメガネをスチャッと上げながら、ラース先生を氷のように冷たい瞳で睨みつけます。
ヌッ!?
「あ、お初にお目にかかります、お兄さん! 第三部隊所属、ラース・エンデと申します!」
ラース先生はヴェルナーお兄様に深く頭を下げます。
「貴様にお兄さんと呼ばれる筋合いはないッッ!!!!」
「「「っ!?!?」」」
うるさッ!?
耳元でそんな大声を出さないでくださいましぃ~~~~。
ニャッポも耳をキュッとさせながら、「ニャッポリート」と鳴いて抗議しております。
「こ、これは失礼いたしました、ヴェルナー副隊長……」
この遣り取り、お父様の時も見ましたわね?
どうしてわたくしの家族は、こんなにラース先生に冷たいのですかぁ~~~~???
ヴェルナーお兄様とラース先生は20歳の同い年なのですから、もっと仲良くしてくださいましぃ~~~~。
「……クッ! 貴様のような男に……!! 私のヴィクは絶対に渡さんからなッ!!」
「ヴェルナーお兄様! わたくしとラース先生は、そんな関係ではございませんわ!」
「お前は何もわかっていないぞヴィク!? この男のお前に向けているいやらしい目を見ればわかる! こいつは頭の中で、お前に猫耳メイドさんの格好をさせたり、ミニスカナースの格好をさせたり、裸エプロンにしてるに違いないんだッ! ふざけおってええええええ!!!」
「そ、それは……!?」
ふざけているのはヴェルナーお兄様では???
ラース先生はそんなお方ではございませんわ!
ま、まあ、百歩譲って、ラース先生でしたら、そんな妄想をしていただいても、わたくしとしては別に問題はございませんし?
ア、アラ!?
わたくしったら、淑女なのにはしたないですわ!
「ガッハッハ! その辺にしておけ、ヴェルナー」
「「「――!」」」
この野太い声は!
「ヴェンデルお兄様!」
「ニャッポリート」
そこにいたのはザイフリート家の長男であり、第一部隊の隊長でもある、ヴェンデルお兄様でした。
ヴェルナーお兄様とは対照的に、髭がないところ以外はお父様にそっくりな容姿をしてらっしゃいます。
豪放磊落で、圧倒的な雷鎚魔法で敵を蹂躙する様から【
「よお、久しぶりだな、ヴィク。また背伸びたか?」
「もう! わたくしの背はとっくの昔に止まってますわヴェンデルお兄様!」
「そうですよ兄さん! ヴィクの背は16歳と118日の時に161.2センチになって以降は、1ミリたりとも伸びてませんよ!」
キモッ!?
何故わたくしの成長を、そこまで事細かに暗記しているのですか???
「ガッハッハ! そうかそうか。まあいいや。積もる話もあるだろうが、今は隊長会議が優先だ。行くぞ、みんな」
ヴェンデルお兄様は鼻歌交じりに、のしのしと中央会議室のほうに歩いて行きました。
会議が始まる前から、どっと疲れましたわぁ~~~~。