「みなさん、おはようございます」
「「「おはようございます!」」」
「ニャッポリート」
ウム、今日もみなさん実に良い返事ですわ。
――昨日の
あんないろんな意味でとんでもない目に遭った翌日も、こうして騎士としての仕事をこなさなくてはいけないのですから、社会人というのは本当に大変ですわ。
『謝恩会に出席する』、『騎士としての任務もこなす』、「両方」やらなくっちゃあならないってのが「隊長」のつらいところですわ。
「し、失礼いたします! ヴィクトリア隊長に伝令です!」
「「「――!」」」
その時でした。
第三部隊の詰所に、伝令係の方が入って来られました。
これは……!
「はい、何でしょうか?」
「は、はい! 只今より、緊急隊長会議を開くとのことですので、中央会議室にご参集くださいとのことです!」
……やはり。
「承知いたしましたわ。伝令ありがとうございます」
「は、はい! 失礼いたします!」
伝令係の方はスタスタと去って行かれました。
おそらく昨日の謝恩会での【魔神の涙】服用者侵入事件をわたくしが
いささか遅すぎる気もいたしますが、まあ大きな組織というのは得てしてこういうものなのでしょうね。
「レベッカさん、ご一緒願いますわ」
基本的に隊長会議は、副隊長も同席するのが決まりですからね。
「はい! もちろんついて行きますとも! 何故なら私はヴィクトリア隊長の右腕ですからねッ!!!」
うるさッ!?
相変わらずレベッカさんは、ドチャクソ声がデカいですわぁ~~~~。
「ラース先生もご一緒願いますわ。おそらく昨日のことも聞かれるでしょうし」
「わかりました」
「あのー、ヴィクトリア隊長、ところでラースさんはまだしも、なんで昨日、ヴィクトリア隊長も豚聖社の謝恩会に出席されてたんですか?」
「――!」
レベッカさんがキョトンとしたお顔で、わたくしにそう尋ねます。
わたくしが昨日豚聖社の謝恩会で事件に巻き込まれたのは先ほどみなさんにもお伝えしたのですが、わたくしが豚聖社で書籍化する件はまだ王立騎士団でも秘密にしているので、レベッカさんが疑問を感じるのもさもありなんといったところですわ。
ああいう事態になってしまった以上、厳密に書籍化を秘匿する必要はないと豚聖社からも言っていただいたのですが、何となく個人的な気持ちとして、正式な情報解禁日がくるまでは誰にも言いたくないのです――。
ですので、ここは何としても誤魔化しませんと!
「あ、そのー、一人までは同行者を呼んでいいことになっていたので、わたくしもラース先生の同行者として参加させていただいたのですわ! ねえ、ラース先生!?」
わたくしは咄嗟に、ラース先生に目配せします。
「ええ、その通りです」
わたくしの意志が通じたのか、ラース先生はニッコリと微笑まれます。
流石ラース先生ですわぁ~~~~。
略してさすラーですわぁ~~~~。
「ふぅん? なぁんか怪しい気がしますけど、まあいいです」
フゥ!
何とか誤魔化せたようですわね!
何故こんなにレベッカさんから、恋人の浮気を疑っているような視線を向けられているのかは謎ですが……。
「ではみなさん、わたくしたちは暫し隊長会議に行ってまいりますので、わたくしたちが戻るまでは、自主練していてくださいまし」
「「「はい!」」」
ウム、良い返事ですわ。
……さて、隊長会議は実に半年ぶりくらいですわね。
隊長は癖が強い方ばかりなので、会うのが若干憂鬱ではありますが……。
「あっ、【
「【
「――!」
中央会議室に向かう途中で、第六部隊の隊長であるピロス隊長と、副隊長であるピピナ副隊長に出会いました。
お二人は双子の兄妹なのですわ。
しかも世にも珍しいエルフという種族で、非常に長命なため、お二人の年齢は実に100歳超え!
王立騎士団内での、一番の古株なのですわ。
王立騎士団の歴史を、誰よりも間近で見守ってきた人物と言えます。
とはいえ、エルフの100歳は人間では10歳相当で、お二人は見た目も精神年齢も10歳くらいなので、あまり先輩という感じはしないのですが。
「その名で呼ぶのはやめてくださいまし。わたくしの名前はヴィクトリアですわ」
「なんでだよ! カッケェじゃん【
「そうなの! 【
「そんなこと言われましても……」
お二人はピンと尖った耳をぴょこぴょこさせながら、サラサラの白髪を振り回して抗議してきます。
こういうところが、子どもっぽいのですわよねぇ。
「ニャッポリート」
「あっ、こりゃ珍しいじゃん! フェザーキャットじゃん!」
「フェザーキャットなの!」
おや?
流石人生経験は長いお二人。
フェザーキャットのこともご存知でしたか。
「この子は第三部隊特別顧問の、ニャッポですわ」
「ニャッポリート」
「わぁ~、メッチャ可愛いじゃん!」
「メッチャ可愛いの!」
お二人はニャッポの頭や顎を撫でながら、嬉々としておりますわ。
フフフ、ニャッポも推定数百年は生きているので、今現在のこの空間の平均年齢は場末のスナックより高くなっておりますが、傍からは子どもと子猫がキャッキャウフフしている光景にしか見えませんわね。
「……おっふ」
可愛いものに目がないレベッカさんは、そんなてぇてぇ空間を恍惚とした表情で眺めながら鼻血をダラダラ流しております……。
この方、いつか
「ヴィク、会いたかったぞ」
「――!」
その時でした。
よく聞き慣れたバリトンボイスが、わたくしの鼓膜を震わせました。
この声は――!