「みなさんにご紹介いたしますわ。今日から第三部隊の所属になった、イルザさんですわ」
席に戻ったわたくしは、イルザさんを第三部隊のみなさんに紹介します。
「イ、イルザ・トレッチェルです! よろしくお願いしましゅ! ひゃっ!?」
噛んでしまいましたわぁ~~~~。
ロリ巨乳でドジっ子とか、属性テンコ盛りですわぁ~~~~。
萌えですわぁ~~~~。
「よろしく、イルザさん! 私はヴィクトリア隊長のみ・ぎ・う・で、の、レベッカ・アイブリンガーです!」
相変わらずレベッカさんは、わたくしの右腕アピールに余念がないですわぁ~~~~。
「よ、よろしくお願いします!」
「僕はラース・エンデです。よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ!」
「ヴィクトリア隊長、先ほどの右ストレート、お見事でした」
ラース先生がメガネをクイと上げながら、わたくしにサムズアップを向けてくださいました。
「ヴィクトリア隊長のされたことは、何一つ間違っていないと思います。もしも不当な処罰が下されるようでしたら、僕は全力で抗議する所存です」
嗚呼、ラース先生――!
「私もですよ! さっきのヴィクトリア隊長、メッチャ素敵でしたからッッッ!!!!!!」
うるさッ!?
相変わらずレベッカさんは、ドチャクソ声がデカいですわぁ~~~~。
「俺たちもですよ! 俺たちは何があろうと、ヴィクトリア隊長の味方ですから!」
「そうですそうです!」
「安心してください、ヴィクトリア隊長!」
「ニャッポリート」
みなさん……!
フフフ、わたくしは本当にいい部下に恵まれて、幸せ者ですわ――。
『チッ! オイ、ウルセーぞそこのお前らッ! さっさと準決勝始めるからなッ!』
セクハラ野郎がイライラしてますわね。
何か嫌なことでもあったのでしょうか?(キョトン)
セクハラ野郎は例によってクジが入った箱に手を入れ、一枚の紙を取り出しました。
『準決勝第一試合一人目は――ラース・エンデだ』
「――! はい」
またいきなりラース先生ですか!?
どうやらラース先生は、クジ運は悪いようですわぁ~~~~。
さて、ここは誰が相手になるのが理想でしょうか?
もちろん普通に考えたらゲロルトですが、それだとレベッカさんの相手がヴェンデルお兄様になってしまいます……。
かといってラース先生とレベッカさんが潰し合う展開は最悪ですし、ヴェンデルお兄様が相手だと苦戦は必至。
あれ?
これひょっとして、どの組み合わせもろくな結果にならないのでは?
『そんで二人目は――ヴェンデル・ザイフリートだ』
「ガッハッハ! これはイイ! お前の力見せてもらうぞ、ラース」
そんな――!?
準々決勝に続き、準決勝でもザイフリート家の男が相手だなんて……!
ラース先生のクジ運の悪さが、とどまることを知りませんわぁ~~~~。
「……胸をお借りします、ヴェンデル隊長」
「ウム、お互い良い試合にしよう」
まあ、前向きに考えれば、ここでヴェンデルお兄様に勝てさえすれば、実質優勝は第三部隊の隊員で決まったようなものです。
レベッカさんがゲロルトに負けるとは思えませんからね。
つまりこの試合が、今大会の分水嶺ですわ――!
「頑張ってくださいましラース先生! ラース先生なら、きっとヴェンデルお兄様にも勝てますわ!」
「ニャッポリート」
「は、はい! 全力を尽くします!」
「ガッハッハ! すっかりヴィクはラースの味方か。勝利の女神を失った俺は、負ける運命なのかもしれんなぁ」
何を仰いますか。
微塵も負けるとは思っていないクセに。
――ラース先生とヴェンデルお兄様は、舞台の上で相対しました。
『じゃあいくぞ』
セクハラ野郎が結界を展開させます。
『準決勝第一試合、始めェ!』
ラース先生――!
「――【
まずは例によって、【
さて、ここからどう持っていきますか。
「オラァッ!!」
「――!」
が、早速ヴェンデルお兄様は、【
身の丈ほどもある鎚を持っているとは思えない、雷撃の如き勢いですわ――。
ラース先生ッ!
「くっ!?」
間一髪ラース先生は、【
ですが今の一撃で、舞台はベッコリ陥没してしまいました。
相変わらずのバカ力ですわねッ!
やはりあれをまともに喰らって無傷だったリーヌスさんは、ある意味チートなのでは?(名推理)
「ガッハッハ! オラオラオラオラァ!!」
「くぅっ!」
間髪入れずにヴェンデルお兄様は、まるで小枝みたいに軽々しく【
ラース先生はその雷雨のような怒涛の攻めを、ギリッギリで何とか凌いでいますわ!
ああもう!
いったいどんな育て方をすれば、あんな化け物じみた人間になるのでしょうか!?
親の顔が見たいですわッ!
「ハァ……! ハァ……! ハァ……!」
あっという間にラース先生は、舞台端まで追い詰められてしまいました。
「ガッハッハ! なかなかやるじゃないか。――だがお前の力はそんなものではないだろう、ラース? さっきヴェルナーに使った力、俺にも見せてみろ」
「……!」
ヴェンデルお兄様はラース先生から距離を取り、挑発するように【
くっ、その油断が、命取りですわよ!
「ラース先生、チャンスですわ! 今のうちに召喚を!」
「は、はい!」
――ラース先生は【
そして――。
「鋼の肉体 不屈の魂
王国の剣にして薔薇の護り手
真実の愛を貫く剛剣の英雄
――我が下に来たれ【フリード・ベッケラート】」
「「「――!!」」」
召喚の呪文を詠唱しながら、地面に【フリード・ベッケラート】という名前を書いたのですわ!
その名前が見る見るうちに人の形になり、それは大剣を携え、全身を
ウム、相手は今大会最強の男ですから、ラース先生も最強の手駒である、フリードをぶつけるしかありませんわよね!
バケモンにはバケモンをぶつけんだよ、の精神ですわ!
「オイオイ神様、この世界にはこんな化け物がゴロゴロしてんのかよ?」
「はは、そうなんだよ。事実は小説よりも奇なりってやつだね」
フリードは一目見ただけで、ヴェンデルお兄様の化け物っぷりを察知したようですわ。
強者は強者を知るというやつですわね。
まあ、確かにフリードのいる世界より、わたくしたちの世界のほうが化け物揃いですからね。
とはいえ、流石にヴェンデルお兄様クラスの化け物は、数えるほどしかいませんが。
「ガッハッハ! いいぞいいぞ! そいつからは強者の匂いがプンプンするな!」
やはりヴェンデルお兄様もザイフリート家の男だけあって、血の気が多いですわぁ~~~~。
「さあこい! お前の必殺の技を、俺に見せてみろ!」
「……やっこさんあんなこと言ってるけど、本当に見せていいのか、神様?」
フリードがラース先生のほうを見ずに、背中越しに尋ねます。
確かにヴェンデルお兄様を倒せる可能性があるとしたら、フリードの【
もしも防がれてしまった場合はその時点でラース先生の負けが確定してしまう、まさに命懸けのギャンブルですわ!
「ああ、やってくれ。――僕は君のことを信じているよ、フリード」
ラース先生――!
そうですわよね。
ラース先生にとって自分がその手で創り出したフリードは、この世で最も信頼に足る人物ですわ――。
フリードならきっと
「へへ、他ならぬ神様にそこまで言われちゃ、俺も男として応えないわけにはいかねーよな。――そこで見ててくれ神様、俺の本気を」
――フリードは大剣を前方に構え、魔力を込めます。
ドチャクソ熱い展開ですわああああああ!!!!
「この
この
この
この
――【
「「「――!!!」」」
フリードの持つ大剣が巨大化していき、それは天を衝かんばかりになりました。
うおおおおおお、いっけえですわああああああ!!!!!!
「ハアアアアアアアアアアアア!!!!」
「ガッハッハ! 素晴らしい!! 素晴らしいぞ、ラースッ!!」
フリードが振り下ろした【
するとその瞬間ズガアアアンという轟音と共に、砂煙が上がって何も見えなくなってしまいました。
や、やりましたか!?
程なくして砂煙が晴れると、そこには――。
「――見事だ、ラースよ」
「「「――!!」」」
全身がボロボロになりながらも、しっかりと二本の足で立っているヴェンデルお兄様が、ニカッと笑っていたのでした。
あ、あぁ……そんな……。
【
「これなら安心して、ヴィクをお前に任せられる」
んん??
ヴェンデルお兄様??
それはいったい、どういう意味です??
「ヴェ、ヴェンデル隊長――!」
ラース先生はラース先生で、感極まったお顔をされておりますわ??
いや、二人だけで通じ合ってないで、どういうことなのかわたくしにも説明していただきたいですわ!
「――ただし、それは
「――なっ!?」
その時でした。
ヴェンデルお兄様の全身から、
ちょ、ちょっと!?
ヴェンデルお兄様は、魔力は使わない約束ですわよッ!
ヴェンデルお兄様は【
「今宵もうねる雷鳴が
私の胸を掻き乱す
あなたがあけた心の
夜で塞げたら 楽になるのに
――絶技【
「「「――!!!」」」
ヴェンデルお兄様が【
「ラ、ラース先生ッ!!!」
「くっ!」
「神様!」
「なっ!?」
その時でした。
フリードが大剣を盾のように構え、ラース先生を庇って代わりに【
嗚呼、フリード――!
「ぐああああああああああああ」
「フリードオオオオオオ!!!」
ピシャアァンという鼓膜をつんざくような音と、目を開けていられないほどの激しい光が会場を包みます。
そして光が収まると、全身が黒焦げになってしまったフリードがそれでもまだ倒れず、二本の足で仁王立ちしていたのでした――。
フリードオオオオオオ!!!
「ガッハッハ! これは参った! ――俺の負けだ、ラース」
『そこまで! ヴェンデル・ザイフリートの魔力使用により反則負け。勝者はラース・エンデ!』
「ニャッポリート」
「「「うおおおおおおおおおおおおお」」」
ラース先生が決勝進出ですわああああああ!!!!
「ハ、ハハ……、怪我はねえか、神様?」
光の粒になって消えながら、フリードが尋ねます。
「ああ……!! 君のお陰で、僕はこうして無事だ……! 君は僕の誇りだよ、フリード――」
ラース先生が目元に涙を浮かべながら、フリードにサムズアップを向けました。
「そいつぁよかった。決勝ではまた呼んでくれよ。あんたの力になるからよ」
「うん、その時はまた頼むよ」
「フッ」
最後にフリードもラース先生にサムズアップを向けながら、元の世界に帰って行ったのでした――。
わたくしは今のエモいシーンを、心のアルバムにしっかりと仕舞いましたわ!