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第73話:噓だと言ってほしいですわ……。

「ヴィクウウウウウ!!! お兄様が助けに来たぞおおおおおおお!!!!」


 その時でした。

 遂に結界が破壊され、木端微塵に弾け飛びました。

 マ、マズいですわ!?

 これでは【世界を滅ぼす毒ハーラーハラ】が、観客席にも流れ込んでしまいますわ!


「穢れた海で生まれた人魚は

 穢れを飲み干し水を清める

 さりとて人魚の中の穢れは

 いったい誰が清めるのか

 ――浄化魔法【人魚の憂鬱マーメイドメランコリック】」


「「「――!!」」」


 その時でした。

 ユリアーナ班長の浄化魔法が、一瞬で【世界を滅ぼす毒ハーラーハラ】を無害な真水に変えてしまったのです――!

 ユ、ユリアーナ班長オオオオオオ!!!!

 ヨシ!

 これであとは、【好奇神ロキ】を何とかするだけですわ!

 わたくしは床に下り立ち、ラース先生のこともそっと下ろしました。


「おお、可哀想なゲロルトくん。こんな姿になってしまって」


 【好奇神ロキ】はゲロルトの生首を拾い上げ、愛おしそうに抱きしめます。

 フン、ゲロルトをそんな姿に改造したのは、他ならぬ貴様でしょうに。


「オウオウオウ、【好奇神ロキ】! これでお前も終わりだなぁ! それともたった一人でこれだけの人数を相手にしてみるか!? アァ!?」


 ここぞとばかりにローレンツ副団長がイキがって、一歩前に出ます。

 ちょっと!

 【好奇神ロキ】にはまだどんな隠し玉があるかわからないのですから、迂闊な行動は取らないでくださいまし!


「ククク、いや、私はよ」

「アァン……? それはどう――ガハッ」

「「「――!!!」」」


 その時でした。

 ローレンツ副団長の背後に立っていたリュディガー団長が、剣でローレンツ副団長ののです――。

 なっ――!!?


「な…………んで」


 絶望にまみれた表情を浮かべながらローレンツ副団長は倒れ、ピクリとも動かなくなってしまいました……。

 そ、そんな……。

 そんなまさか――!!


「すまないね、私も【弱者の軍勢アインヘリヤル】の一員なんだよ」


 いつもの柔和な笑顔のまま、リュディガー団長は【好奇神ロキ】の隣に立ち、わたくしたちと相対しました。

 あ、あぁ……。


「そ、そうか――! 【好奇神ロキ】を蘇らせたのは、あなただったんですね、リュディガー団長ッ!」


 ラース先生が【創造主ノ万年筆ロマンスィエー・フュラー】の切っ先をリュディガー団長に向けます。

 えっ――!?

 ――あっ。

 その時わたくしの頭の中で、点と点が繋がった気がしました。


「その通りだよラースくん。ヴォルフガング団長が【好奇神ロキ】の心臓を貫いた直後、ヴォルフガング団長が気絶している内に私は【好奇神ロキ】に【魔神の涙】を与えて、傷を修復したんだ。まあ、その際何故かこうして若い女性の姿になってしまったのは、私も少々困惑したけどね」

「ククク、あの時はとても助かったよ、リュディガーくん」


 そうか、確かにお父様の記憶では、お父様が気絶してから目覚めるまでに、多少の時間がございましたわ。

 その隙にリュディガー団長は、あろうことか怨敵である【好奇神ロキ】の命を救っていたというのですか――!

 つまり5年前の時点で既に、リュディガー団長はお父様と王立騎士団を裏切っていたのですわね――!!

 ……どうりでここ数年の【魔神の涙】事件が、一向に解決しなかったはずですわ。

 他でもない王立騎士団のトップが、都度証拠を揉み消していたのですから――。


「何故です、リュディガー団長!? お父様の記憶で見たあなたは、お父様のことを心の底から尊敬しているように見えましたわッ! それなのに、何故……」

「……すまないね、ヴィクトリア。これも、私の正義のためなんだ」

「正義……!?」


 何ですか正義ってッ!

 世紀の大犯罪者に手を貸すことが、どう正義に繋がるというのですかッ!?


「ククク、リュディガーくんの言う通りだよ。我々【弱者の軍勢アインヘリヤル】は、ただのテロ組織ではない。この世界を正しい形に創り直すのが目的の、正義の集団なのさ」

「何を! それこそ、テロ組織の常套句ではありませんか!」


 とはいえ、これは大分マズい状況ですわ。

 【好奇神ロキ】一人だけでも厄介なのに、そこに王立騎士団最強の男である、リュディガー団長まで……。


「ああ、ちなみに、【弱者の軍勢アインヘリヤル】のメンバーは、よ」

「「「――!!」」」


 ――なっ。


「やれやれ、これでやっと、ボクの正義を執行できるね」

「そうですね、ブルーノ隊長」

「アッハッハ! 拙者は演技が苦手なので、バレるんじゃないかと冷や冷やしてたでござる」

「ニンニン」


 第二部隊のブルーノ隊長とイルメラ副隊長、それに第四部隊のジュウベエ隊長とコタ副隊長までが、【好奇神ロキ】の隣に並んだのです――。

 あ、あぁ……、この四人までも、が……。

 特にジュウベエ隊長とコタ副隊長は、トウエイで共に九尾の狐と戦ってくださいましたのに、あれすらもわたくしたちを欺く演技だったというのですか!?


「ガッハッハ! 、ヴィク」

「………………え」


 う、噓だと……。

 噓だと言ってくださいまし、――!!

 ――ヴェンデルお兄様までもが、【好奇神ロキ】の隣に立ってしまいました。


「ククク、これが【弱者の軍勢アインヘリヤル】の頼もしい仲間だ。どうだい? このメンバーなら、世界を変えられるとは思わないかい?」

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