「と、殿ッ!!!」
倒れたジュウベエにコタが駆け寄り、ジュウベエを抱きかかえました。
「ハ……ハハ……、拙者の完敗でござる……。いやはや、世界は広いで……ござるなぁ……」
「殿……」
ジュウベエ……。
「いえ……剣の腕は、あくまであなたのほうが上でしたよ、ジュウベエ様」
エーミール副隊長……!?
「私が勝てたのは、【バニーテン】たちがその身を賭けて、あなたの精神を削ってくれたからです。――最後の私との一撃、僅かにあなたの剣筋が鈍っていました。あなたは無意識のうちに、【
ヘンテコだという自覚はあったのですね???
よもやそんなことまで計算したうえであんな剣法を生み出したのだとしたら、とんだ策士ですわね……。
「ハ……ハハ……、どちらにせよ、拙者の完敗なことには変わりないでござる……。人生最後の相手が……エーミール殿のような強者で……拙者は本当に……幸せ者で……ござる……」
ジュウベエ……バカな男ですわ!
あなたほどの腕があれば、もっと多くの人の命を救えたでしょうに!
「……コタ、こんな拙者に今まで付き合ってくれて……ありがとう……でござる……」
「……いえ、それはこちらの台詞です。さあ殿、お酒です」
「オオ……! これは……かたじけないで……ござる」
コタは懐から、酒瓶を取り出しました。
「くっ……!」
ですが、ジュウベエは既に腕を上げることさえできないのか、酒瓶を持てません。
「お任せください」
「「「――!!」」」
コタが
あ、あの顔は――!?
「――ん」
「「「――!!!」」」
そして口移しで、ジュウベエに酒を飲ませたのでした――。
……嗚呼。
「ハ……ハハ……、この酒は……生涯で一番……美味かったで……ござる……」
ジュウベエはゆっくりと目を閉じました。
実に晴れやかな顔をしていました――。
「……コタ、あなたはもしかして」
「ええ、私は【
「「「――!!」」」
やはり……。
コタの素顔は、今の女体化した【
バルタザールも【
【
「まだやりますか? あなたが忠義を尽くしたジュウベエが死んだ以上、ここから先の戦いは無益かと思いますが」
「その通りですね。実を言うと、私は【
「――!」
何と――!
「確かに私の母は不遇な人生を送っていたそうです。村の因習で人柱にされかけていたところを、父に助けられたと聞いています。母が村の人間に復讐したいと考えたのは、無理もないことでしょう」
「……」
……コタ。
「ですが、それはあくまで母の人生。私には関係ないことです。――私の人生は、私のものなのですから」
「――!」
嗚呼――。
「だから私は、父の抱く強者に対する復讐心には興味がありませんでした。――私が興味があったのは、ただひたすら無邪気に剣を振る、この人の背中だけです」
コタは自らの腕の中で安らかに眠っている、ジュウベエの頬を愛おしそうに撫でます。
……そうですか。
それほどまでに、ジュウベエのことを――。
「だからこの人がいなくなったこの世界には、私は微塵も興味がないんです」
「「「――!!」」」
コタはクナイで自らの頸動脈を斬り裂きました――。
クッ……!
「今私も参ります……殿……」
コタはジュウベエを抱きしめながら、ゆっくりと目を閉じました。
あなたも……本当にバカな女ですわ、コタ……。
ですが、わたくしも同じ女だからでしょうか。
コタの気持ちも、少しだけわかってしまうのは……。
「アラアラアラ、よくやったわよアナタたち。これでこの場は、我々の完全勝利よ! 褒めてあげるわ!」
「「「「「「「「「「ありがとうございます、アンネリーゼ様!」」」」」」」」」」
やれやれ、確かに終わってみれば、こちらは重傷者こそ多いものの、死者は一人もいません。
あんなに絶望的な状況だったにもかかわらず、この結果は上々と言えるでしょう。
「いやはや、流石お前が集めた人材だけあるねアンネリーゼ。実に見事な戦いだったよ。特に服装が素晴らしい」
「ウフフ、恐縮ですわ、お父様」
いや他にも褒めるところはあったと思いますけどね、マティアス公爵!?
もしかしなくても、アンネリーゼ隊長がこんなにバニーガール萌えになったのは、マティアス公爵の影響なのでは……?
「うっ……!」
「っ! イルザさん!?」
その時でした。
イルザさんがその場に倒れてしまいました。
「だ、大丈夫ですか、イルザさん!?」
わたくしは慌てて駆け寄り、イルザさんを抱きます。
「あ、はい……、私は大丈夫です。ちょっと疲れちゃっただけですから……」
「そうですか……」
無理もないですわよね……。
初めての実戦相手が、あんな強敵だったのですから。
イルザさんがいなかったら、きっとこの戦いは勝てなかったことでしょう。
――イルザさんが第三部隊に入ってくれて、本当によかったですわ!
「お疲れ様でしたわ。今は、ごゆっくりお休みくださいませ」
「は、はい……、では、お言葉に甘えて……」
イルザさんは目を閉じて、すうすうと寝息を立てました。
「「「――!!」」」
その時でした。
コタが死んだことで、この亜空間がやっと解除されました。
クッ、ブルーノたちとの戦いは、どうなっているのでしょうか――!
「こ、これは――!?」
――そこには地獄絵図が広がっていました。
夥しい団員のバラバラ死体が、辺り一面を深紅に染めていたのですわ――。