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第86話:勝ちですわ!!!

「て、敵襲ッ!! 全軍、陛下たちをお守りしろッ!」

「「「オオオオオオオ!!!!」」」


 ヴェルナーお兄様の号令で、瞬時に場は臨戦態勢になりました。


「ヒ、ヒィィィ!?!?」


 陛下はそんなヴェルナーお兄様の後方に隠れて、ガタガタ震えておりますわ。

 やれやれ、いつもの威勢はどこにいったのです?

 まあ、下手に前に出られるよりは、そうやって大人しくしていただいたほうが、百倍マシですが。


「フフフ、遂にこの日がきたね。やっと今日この世界は、正しい姿に生まれ変わるんだ」


 ブルーノが手に持っている【冥神の鞭ネケク】で、床をピシャリと叩きました。

 ブルーノとイルメラは角と翼が生えており、明らかに【魔神の涙】で悪魔化しておりますわ。

 ジュウベエとコタは【魔神の涙】を飲んでいないようですが、何か理由があるのでしょうか?


「――蝉柳流せみやなぎりゅう忍法――【紙隠かみかくし】」


「「「――!!!」」」


 その時でした。

 コタが掌印を結びながらそう言うと、わたくしたちの周りを無数の白紙が舞い散りました。

 そしてその白紙に、じわじわと水墨画のようなものが浮かび上がったかと思うと、辺りはいつの間にかトウエイの山間部のような場所になっていたのです。

 こ、これは――!?


「ニンニン、ここは私が忍法で作った亜空間です。ここから脱出したいなら、私を殺す以外に方法はありません、ニンニン」


 まさかこんな隠し玉を持っていたとは……。

 この亜空間に閉じ込められた味方は、わたくし、イルザさん、アンネリーゼ隊長、【バニーテン】、エーミール副隊長、そしてマティアス公爵。

 それに対して、敵側はジュウベエとコタの二人。

 つまりブルーノとイルメラは、亜空間の外で陛下たちを狙っているというわけですか。

 クッ、やられましたわね……。

 こうやって戦力を分散させて、各個撃破する作戦なのですわね。

 わたくしはドッペルゲンガーなので戦力にはなりませんし、イルザさんもまだ実戦経験はないのでしょうから、戦えるのは【バニーテン】とエーミール副隊長くらいですわ。

 これは、厳しい戦いになりそうですわね……。


「アッハッハ! 本当は【武神令嬢ヴァルキュリア】の本体と戦いたかったでござるが、魔力のないドッペルゲンガーでは斬り甲斐がないでござるなぁ。ラース殿とレベッカ殿もいないようだし、どこに行ってるのでござろうな?」


 フム、どうやらわたくしの本体たちが根城に攻めようとしているという情報は、漏れていないようですわね。


「……他の【弱者の軍勢アインヘリヤル】のメンバーは、一緒ではないのですか?」


 もしこのタイミングで、【好奇神ロキ】たちも含めて全員一斉に攻められていたら壊滅的でしたから、不幸中の幸いでしたが。


「ああ、【好奇神ロキ】たちはらしいので、拙者たちだけ先に来たんでござる」

「準備……?」


 いったい何の準備を……。

 そこはかとなく嫌な予感がいたしますわ。

 これはその準備とやらが終わる前に、一刻も早くわたくしの本体に【好奇神ロキ】たちを倒してもらわなくては。

 ですがその前に、今のこの状況を何とかしませんとね。


「ジュウベエ、何故あなたは【弱者の軍勢アインヘリヤル】に与しているのです?」


 何となくジュウベエだけは、【弱者の軍勢アインヘリヤル】の中で浮いている気がしていたのです。

 もしかしたら交渉次第で、和解できるかもしれません!


「アッハッハ! それはもちろん、強い者と戦いたいからでござる」

「――!」


 なん……ですって……。


「拙者の生き甲斐は、強い者と戦うことでござる。だが騎士でいる以上は、斬れないでござる。拙者は、悪人以外の強い者も斬ってみたかったんでござる。だから【弱者の軍勢アインヘリヤル】に入った。それだけのことでござる」

「……なるほど」


 どうやらこれは、交渉は不可能のようですわ。

 この男は生粋の狂戦士バーサーカーですわ。

 ある意味、武に取り憑かれている……。

 おそらく死ぬまで刀を振るうことをやめないでしょう。

 そしてそれは、ジュウベエに忠義を尽くしている、コタも同じ――。


「アラアラアラ、心配は無用よ【武神令嬢ヴァルキュリア】。そんな盤外戦術に頼らずとも、私の可愛い【バニーテン】たちが、サクッと倒してくれるから。そうよね、みんな?」

「「「「「「「「「「はい、アンネリーゼ様!」」」」」」」」」」


 む!?

 その自信はどこから……?

 ま、まあ、いずれにせよこうなってしまった以上は、第五部隊のみなさんにお任せする他ありません。

 わたくしは邪魔にならないよう、下がっておきましょう。


「さあみんな! 我々のとっておきを見せてやろう!」

「「「「「「「「「はい、リーダー!」」」」」」」」」


 バニー1号さんの号令で、【バニーテン】たちは全員一斉に剣をのです。

 …………あ。


「我々の【股間剣法はがくれ】で、必ずやアンネリーゼ様をお守りするんだ!!」

「「「「「「「「「オオ!!」」」」」」」」」


 それで本当にお守りできますか????

 絵面は新年会で新入社員がフザけた一発芸を披露してるようにしか見えませんがッ!


「ニンニン、無駄です、ニンニン」

「「「――!!」」」


 その時でした。

 コタの姿が、霧のように消えてしまいました。

 なっ!?


「ぐあっ!?」

「「「――!?」」」

「バ、バニー10号ッ!?」


 そして次の瞬間、バニー10号さんが背中から血しぶきを上げながら倒れてしまいました。


「がはっ!?」

「「「――!!?」」」

「バニー9号ッ!!」


 今後はバニー9号さんも同様に、血しぶきを上げて倒れました。

 い、いったい何が……。


『ニンニン、この亜空間内では、私は完全に姿を消すことができるのです、ニンニン』

「「「――!」」」


 どこからともなくコタの声が聴こえてきます。

 そんな――!?

 そうやって堂々と背後から忍び寄り、バニー10号さんと9号さんを斬り裂いたのですか――!

 ……これはとんでもないチート能力ですわね。

 10号さんも9号さんもまだ息はあるようですが、流石にもう立てないでしょう……。

 ただでさえ戦力的に圧倒的に不利だというのに、早くもピンチですわ!


「――訃舷ふげん一刀流いっとうりゅう奥義――【雁渡かりわたし】」

「ぐあああああ!?!?」

「バ、バニー8号ッ!?」


 と、コタに気を取られているうちに、バニー8号さんがジュウベエに斬られてしまいました。


「アッハッハ! 一刀両断するつもりで斬ったんでござるが、ギリギリ急所は避けたようでござるな。よく鍛錬を積まれてるでござるな」

「う、うぅ……!」


 とはいえこれで、バニー8号さんも脱落ですわ。

 このままでは、全滅は時間の問題ですわ――!


「そ、そこです!」

「「「――!!」」」

『ほう?』


 その時でした。

 両腕にぶっといガントレットを装備したイルザさんが何もない空間を殴ると、そこにクナイでイルザさんのパンチを受けている、コタの姿が現れたのです。

 オオ!?!?


「私、鼻だけはイイんです! 姿は見えなくても、あなたの匂いは追えますよ!」

「ニンニン、お見事です、ニンニン」


 麻薬探知犬並みの嗅覚!!!


「うわああああああ!!!」

「むう!?」


 続いてイルザさんはコタに、拳のラッシュを浴びせます。

 コタは何とかそれらをクナイで防いでいますが、防戦一方ですわ!

 いやイルザさん、何気に身体能力もメッチャ高いですわ!?

 これは副隊長クラスの実力はあるかもしれません……。

 こんな逸材を腐らせていたなんて、やはりローレンツ副団長は罪深い男ですわ!

 よし、これでコタはイルザさんにお任せしておいてよさそうですわね。

 ――後はジュウベエさえ何とかできれば。


「あああああ!?」

「バ、バニー7号ッ!?」


 と言ってるそばから、ジュウベエにバニー7号さんが斬られてしまいました。

 クッ、やはりこちら側の実力差は圧倒的ですわ……。


「ご、5人だ! 5人で一斉に取り囲んで、同時に攻撃しろッ!」

「「「「「ハッ!」」」」」


 バニー2号さんから6号さんまでが、ジュウベエを円形に取り囲みました。


「「「「「フンフンフンフンフンフンフンフン」」」」」


 そして5人同時にフンフン言いながら、ひょこひょこジュウベエに近付いて行ったのです。

 いやだからそれ、本当に強くなってますか????


「――訃舷ふげん一刀流いっとうりゅう奥義――【虎落笛もがりぶえ】」

「「「「「ぐあああああああああ!?!?」」」」」


 ジュウベエはその場で独楽のように回転しながら抜刀し、取り囲んでいた5人を一太刀で斬り伏せてしまいました。

 クッ……!


「フゥ……、これで残る【バニーテン】は私だけになってしまったか。――だがたとえ身体が斬られようとも、我々のバニー魂が斬られることは、決してないッ!」


 何ですその無駄にカッコイイ格言は???


「フンフンフンフンフンフンフンフン」

「――訃舷ふげん一刀流いっとうりゅう奥義――【雁渡かりわたし】」

「あああああああああああああああああああああ」


 嗚呼、これで遂に【バニーテン】は全滅ですわ……。


「さて、これで残るはエーミール殿だけでござるな。一度エーミール殿とは手合わせしてみたいと思っていたでござる。――いざ尋常に勝負でござる」


 ジュウベエは刀を鞘に納め、抜刀の構えを取りながらエーミール副隊長と相対します。

 エーミール副隊長……!


「やれやれ、私はあまり戦闘は得意ではないのですが、こうなった以上は致し方ありませんね。――の尻拭いは、師の務めですし」


 そう言うなりエーミール副隊長は、剣をのです。

 ま、まさか――!?


「【股間剣法はがくれ】は私が開祖の流派です。あなたに【股間剣法はがくれ】の神髄をお見せいたしますよ、ジュウベエさん」


 あなたが開祖元凶でしたか!?!?

 もしこんなフザけた剣法で負けたら、あなたが戦犯ですわよ!?


「アッハッハ! これは面白い! 最高に滾ってきたでござる!」


 ジュウベエから禍々しい魔力が立ち上ります。

 こ、これは、勝負は一瞬でつくかもしれませんわね――。


「――訃舷ふげん一刀流いっとうりゅう奥義――【雁渡かりわたし】」

「――【股間剣法はがくれ】奥義――【月兎つきうさぎ】」


 二人の剣が、目にも止まらぬ速さで交差しました――。

 そして――。


「がはッ――」


 エーミール副隊長が、血しぶきを上げながらくずおれたのです。

 ……嗚呼。


「アッハッハ! ――お見事でござる」

「「「――!!!」」」


 ジュウベエはエーミール副隊長以上の血しぶきを上げながら、その場に崩れ落ちたのでした――。

 うおおおおおおおお!!!

 この勝負、エーミール副隊長の勝ちですわ!!!

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