「オ、オイ、ここが本当に、あの猫の腹の中なのか!?」
ニャッポの体内に入るなり、お父様がアワアワしながら辺りを見回します。
プププ、熊みたいなガタイのオッサンが、人ゴミでお母さんとはぐれた幼児みたいになってる光景は、実に滑稽ですわ!
「ええ、その通りですわ。そしてあれがニャッポの視界です」
「はぁ……」
『ニャッボリート』
わたくしが指差した先には、今まさにニャッポが空に飛び立つ映像が映っています。
さて、これでしばらく移動はニャッポに任せて、わたくしたちは英気を養っておきましょう。
因みにわたくしもいつもの深紅のドレスに着替えておりますわ。
やはりこの格好が、一番動きやすいですわ!
「さあみなさん、今のうちに食事にいたしましょう。腹が減っては、戦はできませんからね」
テーブルの上に並べた50人前はあるお寿司を見ると、わたくしのお腹がキュルリと鳴りました。
昨日から何も食べていなかったので、お腹ペッコリンですわ!
トウエイでの一件以来、お寿司はわたくしの大好物になったので、トウエイから王都に出張している寿司職人さんに頼んで、このお寿司を用意していただいたのです。
さあて、存分に食べますわよぉ!
「で、ですがヴィクトリア隊長、いくら何でもこれは、全部は食べきれないのではないでしょうか……」
「心配はご無用ですわラース先生。お父様とお母様も、わたくし並みの健啖家ですから」
「そ、そうなんですか!?」
「ああ、飯を食うことも、武人の務めの一つだからな」
「あらぁ、こんなオバサンなのに大食いなことがバレて、恥ずかしいですわぁ」
「なるほど……。では、僕も修行だと思って、たくさんいただきます!」
「私もです!」
「ボクもだにゃあ!」
「うん、では、いただきます」
「「「いただきます」」」
わたくしたちは手を合わせて、お寿司に感謝します。
「ニャッポには後で、余ったお寿司をあげますからね」
『ニャッボリート』
さて、と。
王都に残ったメンバーの様子は、どうなっていますかね。
――わたくしは神経を集中し、わたくしのドッペルゲンガーの思考を探ります。
「オイ酒だ。酒をもっと持ってまいれ」
「……陛下、こういった状況ですので、お酒は控えめにしていただけますと」
「うるさいぞ。余が飲みたいと言っておるのだ。さっさと持ってこさせんか」
「……」
赤ら顔でお酒を要求する陛下に、宰相閣下が釘を刺します。
陛下と宰相閣下は貴族学園時代の同期らしく、所謂竹馬の友というやつだそうです。
陛下のことを窘められる、数少ない人物と言えるでしょう。
わたくしの本体が巨大化したニャッポに乗って威力偵察に出掛けましたので、本体たちが戻って来るまでは、陛下たちもこの場に残ってもらうことになったのですが、手持ち無沙汰になった途端、陛下はお酒を飲み始めたのです。
いつ【
これこそ昨日【
「ううむ、本当にこれがドッペルゲンガーなのか……。どこからどう見ても、本物のヴィクだな」
「――!」
ヴェルナーお兄様がメガネをスチャッと上げながら、超至近距離でわたくしの顔をガン見してきます。
ヒッ!?
「ち、近寄らないでくださいまし!」
わたくしはキモ兄を突き飛ばして、隅のほうに逃げます。
「嗚呼! そのリアクション、まさしくヴィクそのもの! 頼むからどうか、猫耳メイドさんになってはくれまいか!?」
絶対にお断りですわッ!
前から思ってましたが、猫耳メイドをさん付けしてる辺りに、絶妙なキモさを感じますわ!
わたくしの本体はアレが実の兄なのですから、ドチャクソ可哀想ですわぁ~~~~。
わたくしはまだドッペルゲンガーで、本当によかったですわぁ~~~~。
「おや?」
壁際でグスタフさんがハインリヒ殿下と二人で、コソコソ何かやっているのが目に入りました。
どうやらグスタフさんがご自分のパケモンカードコレクションを、殿下にお見せしているようですわね。
「で、ですね、『陰キャギツネ』が『サークラギツネ』に進化したターンにアイテムの『童貞を殺す服』を使うと、『オタクザル』に大ダメージを与えられるんですよ」
「へえ! そんなコンボもあるんですね! 今度僕も使ってみます!」
おやおや、いつの間にかすっかり仲良しになってますわね。
殿下が王になってくだされば、ひょっとしたら【
「食事がご用意できました!」
その時でした。
給仕係の方々が、無数のサンドイッチを掲げながら入って来ました。
いつもながら、これだけの人数の食事を用意するのは大変でしょうに、本当に頭が下がりますわ。
さて、わたくしはドッペルゲンガーなので食事の必要はないのですが、せっかくですから少しだけいただきますかね。
あ、そうですわ。
「イルザさん」
「え? あ、はい」
わたくしは昨日第三部隊に入ったばかりの、ロリ巨乳のイルザさんに声を掛けます。
「よかったらわたくしと一緒に食べませんか?」
「いいんですか!? あ、ありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ」
新人隊員と親睦を深めるのも、隊長の務めですからね。
「せっかく第三部隊に入っていただいたのに、こんなにバタバタしてしまって申し訳なかったですわ」
まさかイルザさんも配属初日に、直属の上司であるわたくしが、離反した団長に斬られるとは夢にも思っていなかったことでしょう。
「そんな! 私はヴィクトリア隊長に助けていただいて、本当に嬉しかったです! ……あのままだったら私、どうなってたかわかりませんでしたし」
イルザさんはご自分の肩を抱きながら、ブルブルと震えます。
……確かに昨日のローレンツ副団長のセクハラは、度が過ぎてましたからね。
よもやリュディガーもあのセクハラが許せなくて、ローレンツ副団長を殺したのでしょうか?
うぅん、流石にそれは考えすぎですかね……。
「あ、この匂い、野菜スープも来るみたいですね!」
「え?」
匂い?
そんなのわたくしには感じませんが?
「スープもお持ちしましたー」
「っ!」
次の瞬間、大量のスープを持った給仕係の方々が入って来られました。
マア!?
本当にスープが来ましたわ!?
「あ、あはは、私昔から、鼻だけは良くて……」
「へえ、そうなのですか」
意外な特技ですわね。
でも、サバイバルとかではとても役に立つ特技ですわ!
これはボニャルくんに引き続き、隠れた逸材を拾ったかもしれませんわね!
「アラアラアラ、楽しそうな女子会じゃない。私も交ぜてもらおうかしら」
「「――!」」
いつもの豪奢な椅子に座って頬杖をついたアンネリーゼ隊長が、【バニーテン】に運ばれてわたくしたちの前に現れました。
いや【バニーテン】がいたら、女子会ではないですけどね???
「それでは私もご一緒させていただきます」
「では私も」
「「――!?」」
モノクルを掛けたバニーガールイケメンのエーミール副隊長と、同じくバニーガールイケオジのマティアス公爵も参加しました。
驚異のバニーガール率!!!
これでは女子会というよりは、バニーガール会ですわぁ~~~~。
「スープをどうぞ~」
「あ、ありがとうございますわ」
その時でした。
大きなマスクで口元を隠した給仕係の女性が、スープを運んできてくれました。
――ですが、この女性の大層ご立派なばるんばるんしたお胸を見た瞬間、わたくしは違和感を覚えました。
こ、この胸、まさか――!
「あなた、
「ニンニン、バレてしまいましたか、ニンニン」
「「「――!!!」」」
女性が服をバサリと脱ぎ捨てると、その姿は忍装束を纏ったコタになったのです――。
クッ!
「一人で乗り込んで来るとは、イイ度胸ですわね!」
「ニンニン、一人ではありません、ニンニン」
何ですって!?
コタは懐から楔のようなものを取り出すと、それを床に突き刺しました。
あ、あれは――!?
「アッハッハ! さあ、祭りの始まりでござる!」
「やあ【
「おそらくラースが作り出したドッペルゲンガーだと思われます、ブルーノ様」
「「「――!!!」」」
楔の中からジュウベエとブルーノとイルメラも現れました――。
さてはこの楔が、空間転移魔導具の転移先の座標の役割を果たしているのですわね――!