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第84話:不憫ですわぁ~~~~。

『よし、これは好機だ! 【弱者の軍勢アインヘリヤル】の根城が割れた今こそ、王立騎士団全軍で根城に攻め込み、【弱者の軍勢アインヘリヤル】を殲滅する!』

「「「オオオオオオオ!!!!」」」


 ヴェルナーお兄様が高らかにそう宣言します。

 フフ、早速団長らしくなってきたではありませんか(後方妹面)。


『ま、待て!? 全軍で攻めたら、誰が余を守るのだ!?』


 む!?

 陛下……!?

 あー、確かに。

 言われてみれば、それはそうですわね。

 何せ【弱者の軍勢アインヘリヤル】には、例の空間転移魔導具があるのです。

 王立騎士団全軍が根城に向かっている間に、空間転移魔導具で王城に攻められたら、陛下の命諸共、たちまち王都は壊滅してしまうことでしょう……。


『少なくとも団長である貴様はここに残り、命を懸けて余を守るのだ! よいな!?』

『しょ、承知いたしました……』


 ううむ、ヴェルナーお兄様が討伐隊に参加できないのは痛手ですが、致し方ありませんわね。

 それにしても、散々ザイフリート家我々を逆賊扱いしていた陛下も、ご自分の命が危険に晒されるとなった途端、あんなにヴェルナーお兄様に縋るとは。

 とんだダブスタですわね。

 ある意味陛下らしいとも言えますが。

 よし、ここは――。


「ヴェルナーお兄様、いえ、ヴェルナー団長、そういうことでしたら、わたくしがニャッポに乗って、根城を威力偵察してまいりますわ」

「何!?」

「お願いできますか、ニャッポ?」

「ニャッポリート」


 ニャッポが床にふわりと下りると、例によって全身が輝き出し、目を開けていられないほどの光を放ち出しました。


「「「――!!!」」」

「ニャッボリート」


 そして光が収まると、目の前には巨大化したニャッポが鎮座していたのですわ。


「このニャッポの体内は異空間になっていて、人間を体内に入れて運んでくれるのですわ。ニャッポでしたらここからマウンティア山脈まで1時間もあれば着きますし、空を飛んでるので悪魔化した人間たちに邪魔されずに根城を奇襲できますわ」

『な、なるほど……』

「ひいいいいいいいいい!?!?」

「「「っ!?!?」」」


 アラアラ、巨大化したニャッポを見て、お父様が腰を抜かしてしまいましたわ。

 軍神伯爵オーディン】の醜態に、全団員の方々が困惑しております。

 プププ、みなさぁん、これが【軍神伯爵オーディン】の素顔ですわよぉ。


『よ、よし、本当は私もヴィクと一緒に行きたいが、ここはヴィクに任せるとしよう。本当は私もヴィクと一緒に行きたいが……』


 どれだけ行きたいんですか!?

 あなたは団長としての責務を果たしなさい!


「それでは偵察メンバーはわたくしのほうで決めさせていただきますわね。まずはレベッカさん」

「はい!!!! 必ずやお役に立って見せます!!!!」


 うるさっ!?

 ま、まあ、やる気に溢れているのはいいことですが。


「続いてラース先生」

「はい、全力を尽くします」


 ラース先生がメガネをクイと上げながら、静かに闘志をみなぎらせておりますわ。

 遂に因縁の【好奇神ロキ】との決着の時ですものね。

 燃えているラース先生、萌えますわぁ……。


『そ、そいつだけはダメだヴィク!! 猫耳メイドさんにされてしまうぞッ!!!』


 貴様と一緒にするな!!

 ま、まあ、それに相手がラース先生でしたら、猫耳メイドさんになるのもやぶさかではありませんし……?

 アラ、またわたくしったら、はしたないですわ!


「え、えー、次にボニャルくん」

「はいにゃ! 頑張りますにゃ!」


 ウム、良い返事ですわ。

 やはり回復役として、ボニャルくんは欠かせませんからね。


「そして最後に――お父様とお母様、お願いできますか?」

「なっ!? お、俺もか!?」

「あらぁ、ヴィクとお出掛けなんて、久しぶりですわねぇ」


 戦力的な意味では、やはりこの中ではお二人が抜きん出ておりますからね。

 ……ヴェンデルお兄様と戦う可能性も高い以上、お二人の存在は欠かせませんわ。


「……わ、わかった。俺も同行しよう」


 巨大化したニャッポにビビりまくりながらも、何とか覚悟を決めてくださったようですわね。

 うん、文字通り世界の危機なのですから、この機会に猫くらい克服してくださいませ。


「以上のメンバーでこれより、威力偵察に行ってまいりますわ! その間陛下たちの護衛は、この場にいる方々にお任せいたしますわ!」

『……ああ、くれぐれも気を付けてな、ヴィク』

「アラアラアラ、私の可愛い【バニーテン】なら、きっと立派に任務を果たしてくれるわよね?」

「「「「「「「「「「はい、アンネリーゼ様!」」」」」」」」」」

「お土産買って来てほしいじゃん!」

「ほしいのー!」


 ウム、この方々でしたら、大丈夫ですわね。


「あ、ヴィクトリア隊長、その前に一つだけよろしいでしょうか? 試してみたいことがあるのです」


 ラース先生?


「あ、はい、何でしょうか」

「では、失礼して――【夜明モルゲンデメルング】」

「?」


 おもむろにラース先生は【創造主ノ万年筆ロマンスィエー・フュラー】の刃を、床に突きました。

 誰かを召喚するのでしょうか?


「金糸の巻き髪 深紅のドレス

 右手に剣を 左手にペンを

 武神の名を持つ英傑の令嬢

 伝説を作り その伝説を自ら綴る

 ――我が下に来たれ【】」


「「「――!!」」」


 なっ!?

 ラース先生が床に書いたわたくしの名前が、見る見るうちにわたくしの姿になったのですわ。

 えーーー!?!?!?


「ラース先生! ラース先生は九尾の狐と違って、実在する人間のドッペルゲンガーは作れないのではなかったでしたっけ!?」

「ええ、ですからこのヴィクトリア隊長は、あくまでヴィクトリア隊長そのものではありません。魔力も一切持っていませんし、身体能力も一般人並みです。――ですが、五感と思考は共有しているので、ドッペルゲンガーが見聞きしているものはヴィクトリア隊長本人にも伝わるはずです」

「ええ、その通りですわ。ほらね――」

「――!」


 わたくしの頭の中に、ドッペルゲンガーの見ている風景や思考が流れ込んできますわ!

 うわ!?

 何かこれ、不思議な感覚ですわね!?


「このドッペルゲンガーをここに置いていけば、お互い離れていても状況が把握できますので、便利ではないかと」

「なるほど! 流石ラース先生ですわ!」


 略してさすラーですわッ!


「カカカ、それでこそラース先生だぜ。俺の作った【創造主ノ万年筆ロマンスィエー・フュラー】には、ドッペルゲンガーを作る機能まではなかったはずなのによ。これも、愛の力ってやつなのかねぇ」

「あ、あはははは」


 んん???

 ホルガーさん!?

 今のは、どういう……!?


『あああああ、愛の力だとおおおおお!?!? 貴様、やはりヴィクを、いやらしい目で見ていたのかあああああ!!!!』

「オイテメェ!! どういうつもりだオラァ!!」

「い、いえ!? 決して、そんなつもりでは……」


 またラース先生が、ザイフリート家の男から激詰めされておりますわぁ~~~~。

 不憫ですわぁ~~~~。

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