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第98話:動かなくなったのですわ――。

「信念は固く 意志は鋭く」

「お父様!」

「ほう……」


 これは――【次元ヲ穿ツ槍グングニル】――!

 ですが、利き腕である右腕を失って以降は、【次元ヲ穿ツ槍グングニル】は使えなくなっていたはずですが……。


「刻よりも速く 魂よりも熱く

 この槍は穿つ 彼方の空までも」


 お父様の右の義手に纏った膨大な魔力が、槍の形になっていきます。

 やはりこれは、正真正銘【次元ヲ穿ツ槍グングニル】ですわ――。

 ……そういうことですか。

 お父様は義手になってからも、陰でたゆまぬ鍛錬を積まれていたのですわね……!

 そして遂に、義手でも【次元ヲ穿ツ槍グングニル】を撃てるまでになった――。

 わたくしのお父様は、自慢のお父様ですわッ!


「そして舞い戻る 勝利を携えて

 ――絶技【次元ヲ穿ツ槍グングニル】』


 お父様は槍の拳を目にも止まらぬ速さで突き出しながら、リュディガーに突貫しました――。

 お父様――!!


「ふふ、受けて立ちます!」


 リュディガーは【虹の橋ビフレスト】を、【次元ヲ穿ツ槍グングニル】に真正面からぶつけます――。


「オラアアアアアアアアア!!!!」

「ぬうううううううううう!!!!」


 【次元ヲ穿ツ槍グングニル】と【虹の橋ビフレスト】は拮抗しておりますわ――!

 どちらも世界最高峰の絶技だけあって、互いに一歩も譲りません。

 こ、これは、いったいどちらが――。


「グ、ウウウゥゥ……!」

「「「――!」」」


 その時でした。

 【次元ヲ穿ツ槍グングニル】の先端が、徐々に削られてきました。

 嗚呼、やはりあの【次元ヲ穿ツ槍グングニル】は、完全ではなかったのですわ――!

 ――このままでは!


「ガアアアアアア!?!?」

「お、お父様ああッ!!」


 遂には【次元ヲ穿ツ槍グングニル】は破られ、そのままお父様の義手は木端微塵に破壊されてしまったのです――。

 クッ――!!


「この勝負、私の勝ちですね、ヴォルフガング団長」

「……いや、まだだぜリュディガー。――いつも言ってるだろ、この世で一番強いのは、だってなぁッ!!」

「――なっ!?」

「「「――!!!」」」


 その時でした。

 お父様のに、【次元ヲ穿ツ槍グングニル】が――!!

 そんなッ!?

 お父様は、左腕ででも【次元ヲ穿ツ槍グングニル】が撃てるようになっていたのですか――!?


「オラアアアアアアアアア!!!!」

「が――はっ――」

「「「――!!!」」」

 お父様の左腕の【次元ヲ穿ツ槍グングニル】が、リュディガーの心臓を貫きました――。

 お、お父様あああああああああ!!!!


「あ……あぁ……、それでこそ……ヴォルフガング団長……です……」


 リュディガーは仰向けに、力なく崩れ落ちました――。

 決着、ですわね……。


「……なんで今、俺の攻撃を避けなかった、リュディガー? お前なら、避けられたはずだ」


 ああ、それはわたくしも疑問に思いました。

 リュディガーの超人的な身体能力なら、あの状態からでもギリギリ躱せたはずですから。


「ふ……ふふ……、なんででしょうね……。自分でも……よくわかりません……」

「……ケッ、そうかよ」


 もしかしてリュディガーは、心のどこかでは悪の道に進んでしまったことを、ずっと後悔していたのでしょうか……?

 それとも――。


「でも……これでやっと……久しぶりにマーヤの作ったカレーパンが……食べられます……」


 マーヤ……!?

 よもやその女性こそが、リュディガーの――!


「嗚呼……、迎えに来てくれたんだね……マーヤ……」

「「「……!」」」


 リュディガーは虚空を見つめながら、まるで愛しい恋人に向けるような、無邪気な笑顔を浮かべました。


「はは……これは美味しそうな……カレーパン……だ……」


 虚空に伸ばしたリュディガーの右手は、やがてゆっくりと下がり、それきり動かなくなったのですわ――。


「……チッ、どいつもこいつも、バカばっかりだ」


 天井を見上げたお父様の頬は、僅かに震えておりました――。

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