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第四十一話 食べ物の効果は、絶大!

「食べない?」

「い、いりますけど!」

「ほら、あーん」

「で、でも、その、いいんですか?」

「足りなければまた後で追加で作って貰えばいいし、構わないわよ」

「そうじゃなくて」

「ほら。誰かに見られたらどうするの。早く食べちゃいなさいよ。あーん」

「! あ、あーん……」


 オロオロとするオスキャルの口に半ば詰め込むように食べさせる。

 戸惑っていた様子のオスキャルが動揺しながらサンドイッチを食べるのを見て、私はくすりと笑った。


「はい。これで契約成立っ! 一緒に頑張りましょうね」

「うぅ、可愛い笑顔で全て許されると思ってるやつだ」

「ふふふ」

(可愛いのはこの反応してるオスキャルだと思うけど)

 なんて思いつつ、私はこの大型犬のような反応の彼を見ながらなんだか胸の奥をくすぐられるように感じていた。


 流石たまごサンド。イェッタから教えられたというのは少々不満ではあるが、でもそのお陰でオスキャルの機嫌が直ったならまぁいいだろう。

(食べ物の効果は絶大ね)


 そしてオスキャルの機嫌が直ったなら、次はどうやって調べるか、だが──


「王太子との結婚を望んでるのよね。しかもかなり無茶なスケジュールで」

「そうですね。三か月後に本当に災厄が迫っているのかもしれないですが、その災厄が何なのか、そしてどうして結婚すれば防げるのかはいささか疑問が残りますね」

「私もその通りだと思う。聖女自身が何らかの権力を欲しているのかもしれないけれど、突然現れた王太子妃よりも預言者である聖女の方ができることは多いはず。それなのに、王太子妃の立場を望む理由がわからないわ。その立場でしか防げない災厄の心当たりもね」


 だからこその調査。

 そして姉たちにできず私にしかない武器。


「顔がバレてないことが大事ってことは、身辺調査を求めてるのよね」

「姫様たちの魔力で十分な気もしますが」

「でも、姉様たちもずっと魔力を酷使できるわけじゃないもの」


 もって精々十分。ソードマスターであるオスキャルとは違い、いくら王族である姉様たちでも、その能力を行使できるのは一度につきそれくらいの時間が限界だ。

 もちろん休めばまた使えるとはいえ、かなり体力を消耗すると聞いたことがある。

(魔力を持ってない私にはわからないけれど)


 だからこそ何度も使い熱でも出したら大変だ。


「聖女様の近くに張りこむことは許可できません」

 いつもとは違う強い口調のオスキャルに少し驚いて目を見開く。そんな私に再びため息を吐いた彼は、持っていたサンドイッチをお皿に戻し、まっすぐ私に向き直る。


「彼女が善か悪かは関係ありません。俺は何よりもあなたを優先する。もちろんどんな状況でも必ず、それこそ命に代えてもお守りいたしますが」

 そこまで言ったオスキャルは、一度言葉を区切り、そして再び口を開いた。


「聖女様の能力がわからない以上、そんな相手にエヴァ様を近付けさせるわけにはいきません。例え彼女の狙いが王太子殿下であろうとも、俺が大事なのは貴女です」

 射貫くように真剣に見つめられ、そんなことを言われれば流石の私も若干恥ずかしさを感じ頬が熱くなる。

(なによ、どこの王子様を気取っているの)


 まるで物語のヒロインになったかのような錯覚に陥りつつ、彼のこの言葉にはその言葉以上の意味はないと自身に言い聞かせた。

 どんなに情熱的に聞こえても、彼が護衛騎士である以上当たり前のことを言っているだけ。職務を全うしていると考えればそれまでである。


「でも、オスキャルの言い分もわかるわ」

 護衛対象が、突然現れた、しかも不思議な力を有している相手に近付くのを快く思う騎士なんていないだろう。

 しかもその相手がどんな理由であれ権力を欲しているのならば尚更だ。


「だから、その言葉を受け入れ聖女の近くにはいかない」

「エヴァ様……っ」

 ハッキリそう宣言すると、パァッとオスキャルの表情が明るくなる。


「その代わり、私、お兄様の護衛になるわ!」

「……は?」

 そして私が続けた言葉を聞いて、白目を剥いたのだった。


 ◇◇◇


 護衛。

 付き添ってまもること。また、守る人のこと。


「オスキャルがしているのを間近で見ているから、できると思うのよ!」

「そんなに簡単なものではありませんよ……」

「それにお兄様からのオッケーももう出てるし」

「本当に……どうして……」

 がくりと項垂れるオスキャルに苦笑しつつ、向かうのはもちろんお兄様のところである。


 護衛になる、とはいっても当然私に護衛なんてできない。だが、オスキャルを間近に見ていたからこそ真似事くらいならばできるはず。

(三か月という短さで結婚しようというんだもの。もちろんその期間に打ち合わせだっているし、決めなくちゃいけないことだった沢山ある)


 それに彼女が本物の聖女で、そして預言者でもあるのなら、潜入した私たちのことだって当然既に『知っている』だろう。

 その反応を間近で見るためにも、この〝王太子の護衛〟というポジションは悪くない。


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