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第五十四話 それが私の推理と答え

「まぁ、娼婦として生きてきたからこそ聖女として覚醒する前の情報は何も出ませんでしたし、聖女とは言えないのかなーとは思ってましたけど。でも、預言も嘘なんですか? 預言された内容、外的要因ではどうしようもないぎっくり腰だったんですよね」

「預言内容が信じさせるにはしょぼすぎる……という理由ではないわよ?」


 不思議そうな顔のオスキャルをじろりと睨むと、どうやら図星だったようでわざとらしく口笛を吹いた。

 まさか、誤魔化す時に本当に口笛を吹く人間が本当にいるだなんて。それも私のすぐそばに。


 そんな彼に苦笑しつつ、私は改めて口を開いた。

「娼婦ってのはお姉様たちが魔力を使って調べたことで、そもそも聖女の経歴が出ないのよ」

「はぁ」

 オスキャルも自分でそう言っていたでしょ、というと一拍間を置いた後ハッとした顔をした。


 王太子妃になるかもしれないのだ。王家でももちろん経歴などを調べる。

 聖女であれば幼いころからその能力の片鱗を見出され教会に引き取られるか、突然覚醒したとしてもそれまでどこで何をしているかはわかるだろう。

 だが、何故か出なかったのだ。


(王太子妃が元娼婦だんてそりゃ表沙汰にはできないから、経歴をあえて抹消した可能性もあるけど)


 なら何故彼女はまだ娼婦を続けているのだろうか。

 その答えは簡単だ。


「きっと別の誰かが糸を引いているんだわ」

「黒幕がいるってことですか?」

「黒幕なのかはわからないけどね。預言のあった三か月後、何かを起こそうとして彼女を王太子妃の場所へ放り込んだ誰かがいるはずよ」

「でもそんなにうまく行きますかね」


 都合よく王太子妃のポジションに就ける可能性は、あまりにも低い賭けであり、門前払い──は預言の件でできないにしても保留にされるのが普通だろう。

 現に彼女は王族の生活する区画に滞在して貰っているが、護衛がピッタリついている。その護衛たちは当然聖女を守ることを第一優先にしているが、同じくらい聖女を警戒し見張るという役割も担っているはずだ。


 預言のあった三か月後に何が起こるのかはわからないが、少なくとも経歴を隠し王太子妃を狙っているなら今も娼館へ通う必要はない。

 きっと娼館こそが、その『誰か』との密会場所になっている。


 そして彼女の経歴を隠したのもその誰かだろう。

(どうやったのかは知らないけど)


 王太子妃になって王族へ入ることを目標にしているなら、成功と言っていいかは微妙なライン。

 けれど魔力を使わなくては見つけられないくらい上手く経歴を隠し、こちら側に聖女を潜り込ませた誰かはきっと強敵だ。


 そしてその誰かなら、きっと三か月後に何が起こるのかを知っているはず。


「三か月後に何が起きるのかを知っているのか、何かを起こすつもりなのかはわからないけどね」

「黒幕が預言の力を持っているのか、それともその黒幕が何かを企てているってことですか」

「えぇ。そうじゃないと色々辻褄が合わないもの」


(今よりももっと、誰もに敬われる立場が欲しくないか、とか言って唆されたんじゃないかしら)


 万が一失敗しても、素性を隠し密会していた場所が娼館のみであれば彼女から情報は漏れないだろう。 


「多分お兄様やお姉様たちも、預言が本物ではないと思っているはずよ」

「やっぱりぎっくり腰程度だからですか?」

「それもあるけど……。ならなんで候補として迎え入れたと思う?」


 私がそう聞くと、オスキャルの顔色が悪くなる。

 流石の彼も、ある可能性に気付いたのだ。


「クーデター、ですか」


 誰にも聞こえないよう極力落とした声色に、私はコクリと頷いた。


「多分ぎっくり腰は聖女の力で知ったんだと思う」

「預言?」

「んー、そこは断言できないけど。例えばお姉様たちのどちらかの能力があれば事前に知って預言することは可能よね」

「確かに、もし聖女様に魔力があるのならその能力で声を聞いてから宣言することもできたってことですか」

「そう」


 ぎっくり腰をした人間が別に父ではなくても良かったのだ。誰かの呻き声や、その会話を能力で聞いてあたかもそれを元から知っていたように振る舞えばいい。それだけで彼女はひとつ預言を成功させたことになる。

 いきなり後ろ盾も身分もわからない『自称・預言の聖女』が現れれば全員が怪しいと思い、門前払いだろう。私たちのところにまで話が通る可能性だって低いが、目の前で何かひとつでも預言をしてみせればどうだ? 

 それがどんな小さな……例えばぎっくり腰であっても、少なくとも門兵たちは〝もしかしたら本物かもしれない〟〝自分たちでは判断できない〟と上へ話を通すはず。その通した相手も別に王族でなくてもいいのだ、その『次』の預言で信じさせればいいのだから。


「きっと、他に仕込みの預言を持って来ていたと思うのよ」

「仕込みの?」

「えぇ。まさかぎっくり腰の預言で王太子妃候補になれるなんて聖女だって思ってなかったはずだもの。だから、確実な仕込みをして預言の聖女であるという証拠をみせるつもりだったと思うのよね」

「まさか、それに気付いてすぐさま候補として王城へ迎えられたってことですか!?」

「お兄様はとっても賢いから、そうだと思うわ。その仕込みが、誰かに危害を加えるものである可能性だってあるからね」


 だって彼女に指示した黒幕がいるのだ。彼女が単独犯でないなら、市街地に爆発物を置き彼女の合図に合わせ爆発を起こさせればいい。

 いきなり市街地の爆発なんてものを門兵に預言しても、結局はぎっくり腰の時と同じで上の人に伝えるしかしてくれないのなら、最も効果的な──彼女の能力を後押しし証人として支持してくれる誰かの前で披露するのが最も効果的なのだから。


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