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第六十四話 糸口を見つけるために!

「じゃあ、黒幕の目的は何なのかしら」

「流行り病で打撃を与えたいのか、助けたいのかはわかりませんね」

 森から国内の聖女のいた孤児院まで病が流れてきたのなら、放っておいても病は流れてくるだろうが、それがいつかはわからない。本物の薬を渡し聖女を偽装してまで三か月後という日にちを固定ししたのだ、病原菌を王都でバラまくつもりのはず。


 実際にかかった聖女が『どの薬も効かなかった』と言っているのだから、きっとこの薬以外に現状は特効薬がないのだろう。

 ならば対処法がわからず必ず大量の被害を出ることは必須だ。王都にいるのは金持ちや貴族が中心。怨恨による犯行ならば、治療が間に合わず誰が死んでも構わないと思っている可能性だってある。

 むしろ貴族が病に苦しむ様を見ながら、この災厄を預言して見せた聖女を婚約者として囲い、数少ない特効薬を王家が使ったとなれば反感は避けられない。


(それが狙いなのかしら)

 結婚すれば国の危機から助かる。それは『国を救う』ということではなく、預言を受けた王太子だけが助かるというならば、それこそまだ疑心的だったクーデターの説が濃厚になるというものだ。


「まずその男性が何者なのかを調べなくてはなりませんね」

 オスキャルの言葉に聖女も頷く。その様子を見るに、どうやら彼女も男性ということしかわかっていないのだろう。

 だが、そんなふたりを見て私はすぐさま顔を左右に振った。


「いいえ。まずは西の森へ行くわ」

「西の森、ですか?」

「孤児院のある方とは反対の方角みたいだけど」

 私の言葉に首を傾げたふたりへと、私はニッと口角を上げる。


「魔女に会いに行くわよ!」


 ◇◇◇


「……うっ、ま、まさかまたここへ来ることになるとは」

「ちょっと。姫様の騎士が頭を抱えて膝から崩れ落ちたけど、なんなのよ?」

「過去の恋を思い出してるんだと思うわ」

「過去の黒歴史に絶望してるんですッ!」

「はぁ……?」

 西の魔女・ローザに会うために訪れた西の森。

 相変わらず美しい彼女の邸宅を前にオスキャルが崩れ落ちると、その理由がわからず引いた顔をする聖女。


(自分自身にベタ惚れしたの、トラウマになってるのね)

 私としては面白──ではなく、私を守るために薬を飲んだ結果なのだし、そしてそれが惚れ薬だったのだから仕方ないと思うのだが、オスキャルにとっては苦い記憶なのだろう。


「それでも私を優先して守ってくれたのよね」

「? 何か言いましたか」

「万が一オスキャルが倒れたら私を守る人がいなくなるなって思っただけ」

「うっ」

「だから、次は絶対私を命を懸けて庇わないで欲しいところだわ」

「あら。子猫ちゃんってばそれは無茶じゃないかしら」

「きゃ!?」


 私たちの会話を聞いていたのか、くすくすと笑いながら現れたのはローザだった。相変わらずいつの間にか背後から出てくる彼女に、二度目だった私とオスキャルとは違い聖女が悲鳴を上げる。

 その声を聞いて更に笑みを深めたローザは、聖女の頬に指先で触れながらその妖艶な赤い唇を小さく舐めた。


「ふふ、今日は可愛い子も一緒なのね。安心して? 私、同族は好きよ」

「ど、同族?」

「えぇ。貴女も狩る側、でしょ」

「!」

(え。なんか意気投合しそうな雰囲気なんだけど)


 ローザの言葉に、最初は驚いた顔をしていた聖女が目を輝かせる。


「それはそうと、アンタたちまだもだもだやってんの? ヤっちゃえばいいのに」

「やっ?」

 いまだダメージを負ってしゃがみ込んでいたオスキャルがローザの言葉に目を白黒させた。そんなローザに呆れた視線を送った私が口を開くよりも早く、聖女が両手をパチンと叩く。


「あら? もしかして気が合う? いつでも店に来て、特別なもてなしをするわ」

「まぁ。素敵な提案だけど、私は私が一番好きなのよ」

「お客様の一番が誰かなんて関係ないわ、一夜の夢で消えるものだもの。でもそうね、貴女の一番が貴女なら、そんな貴女を私も可愛がらせていただくわ」

「まぁ! それはいいわね。今度お邪魔しようかしら」

「ご指名は私、メイリアンをお願いね」

「……オスキャル?」

「……」

 何故か一気に意気投合したローザと聖女、そのふたりの会話を遮断するようにさっきまで蹲っていじけていたオスキャルが私の耳を即座に塞いだので半眼になった。


「過保護ね」

「姫様一応成人してるんでしょ」

「というか王族なら閨教育くらい受けてると──」

「あー! あー! エヴァ様の教育に悪いんでぇぇえ!」

 私の呆れにも似た文句をそのままスルーしたオスキャルと、そんな彼にちがうベクトルで恋多きふたりも呆れを滲ませる。護衛騎士とはこういったところも警護するものではないと思うのだが、こればかりは本人の性格なので仕方ないだろう。


「ハイハイ。そこの過保護な王子様というよりお父様はもう置いておいて。それよりわざわざここまで来たんだもの、何か目的があったんでしょ?」

「よく話を戻してくれたわ! 流石魔女ね」

「まぁ、魔女ってのは通称でただ魔力と魔力の扱いが上手いってだけなんだけどね」

「というか、アンタたちがじれもだやってなかったらこんな話にならなかったんじゃ……」

「あー! あー! だからエヴァ様の教育に悪いんでぇぇえ!」

「「そういうとこよ」」

(本当に気が合うわね)


 確かに系統の似ているふたりなので気も合うのだろう。そしてこのオスキャルの反応もわかるのだが、今はそれどころではないので華麗にスルーし事前に聖女から受け取っていた小瓶を取り出す。

 若干ふたりが不憫そうな目をオスキャルへ向けたが、そこにも気付かないフリだ。まぁ、当のオスキャルは慣れているので別に構わないだろう。


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