はぁ、昨日は散々だった。
明日には分裂を回収してこの町から出ないと、あの作業員がどんな行動をとるのやら……不安だ。
とにかく今は、町を出たあとのことを考えよう。
Sゲートの雑多な地区で、俺は屋台のイスに腰掛けている。目の前には大豆肉の串焼き2本。濃厚な甘辛いタレが塗りたくられ、両面に焼き色がついている。
本物の肉みたいに食感と味が同じって聞いたことがあるけど、本物を食べたことがない。
俺は大豆肉の串焼きを食べながら、次の行先を考える。
「兄ちゃん、ラーメン食べないの? 自家製だぜ?」
店主は腕を組んで不思議そうに訊いてきた。
「あーその、お金、なくて」
「はは、なら旅の思い出として試食してみな」
そう言って、店主は小さな器に、少し濁ったスープと弾力がありそうな黄金色の細麺を少し入れてくれた。
「え、いいんですか?」
「おう! その代わりたっっぷり宣伝してくれよ」
「ありがとうございます!」
宿の店員に物騒だとか言われてたけど、この人は親切でよかった。
あとでサービスセンターに行って宣伝しよう。
『写真撮っていいですか?』
「おぅ、んぅ?」
店主は自分の耳に一瞬首を傾げたが、何事もなかったかのように調理を続ける。
黙ってろと言っても、こいつは聞かない。肩をすくめ、スマホのレンズを器に向けた。シャッター音はなく、静かに写真が保存されていく。
撮り終えたあと、試食のラーメンをいただく。
「う、美味っ!」
普段ゴムみたいな食べ物ばかり摂取していた舌に、温かい塩分が絡んだ麺が乗っかり、一気に啜る。
「おっちゃん自家製ラーメン2つ」
狭い屋台、3人で窮屈な場所がいっぱいになる。作業着、昨日不法侵入してきた金髪男の仲間だろう。
「クソ、監査が入るってよ」
「監査ぁ? そんなの企業だけの話だろ?」
店主が呆れた表情でラーメン2人前を提供。
「違うんだよこれが、企業はペナルティを恐れて全力で回収しに来る。そうなるとジャンク売りが全部尻拭いさせられる。あぁーしばらくムショ生活になっちまう。絶対誰かが密告しやがったんだ、あいつも可哀想にな、仕事が決まってたのに……」
顔色悪く、声のテンションが酷く重い。
居心地悪さに、味を噛みしめる暇もなく喉の奥へと流し込んで、店主に感謝を伝えて屋台から飛び出した。
『先程の方は、昨日の違反者でしたね』
「だと思う」
『金髪の方はいませんでしたが、ご用事でしょうか?』
「多分、あんまり関わりたくないから別の地区に行くぞ。Nゲートってどんな地区?」
『Nゲート地区は、どうやら色んな企業が集まっている場所ですね。作業ロボットたちがたくさん集まっています』
「じゃあ却下、骨組みだらけのところはゴメンだ」
工場ロボットの眩しいヘッドライトが頭に浮かんでくる。テントを壊された悪夢を思い出した。そうだ、テントどうしよう。
昨日買い出しに行ったWゲートにもう1回行ってみるか……――。
――閑静な住宅街とテナントが並んでいる通りの『マーケット』とは別にリサイクルショップがあった。
小さいテナントで、店の入り口にはジャンク品が散らかっている。
『なんだか他とは違う雰囲気がある、ような気がします』
手の中にいる中古スマホにどんどん写真が保存されていく。
「そんなに撮ってどうすんだ?」
『次いつ来られるか分かりませんから、記念です』
記念ねぇ……。
扉を開ければ、最新の電化製品にも適応できる部品や、中古の機械類がぎっしり。
真っ直ぐ進んだところにレジカウンターがあり、店員は小さな箱のような機械を睨んでいる。
俺を少しだけ見て、また機械に集中。
『……サ、ター、で――エラ、こう――かん――はい』
店員が持っている機械から途切れ途切れの音声が聞こえる。ラジオ、だろうか。
「クソっ、肝心なところが聞こえねぇ。なんだこのオンボロ」
客がいてもお構いなしに愚痴を漏らしている。
「あのーすみません」
「あぁなにっ?!」
半ギレ気味に返ってきた。
「テントとか、そういうのって扱ってないですか?」
「はぁ? テント?」
見るからに不機嫌で、しかめっ面。
「は、はい」
「見たら分かるでしょ、ねぇよそんなもん。キャンプとかいつの時代だよ。よそ当たれ、どこにもないだろうけどな」
軽く手をひらひら、と追い払うジェスチャーをされてしまう。塩対応だって分かってたけど、腹立つな。
結局リサイクルショップを出て、他のテナントを見てみたけど、アウトドアとは無関係な店ばかり。
『どこにもテントはありませんね。野宿の時は廃墟の家を借りて寝泊りするのも良いと思います』
「いやいや、ああいうところは変なのが居座ってんだ。巻き込まれたくない」
『親切な方かもしれませんよ』
ポジティブに考えすぎだろ――。