ニット帽に髭面の男は意識を失っている。
とりあえずテントの中へ引き摺り、例の小型ドローンも回収した。機体は白く、プロペラ部分が黒い。
気を失うくらいだから結構な衝撃だと思うけど、怪我はしてないな。
スマホはリュックの上で、
『一体何があったんですか?』
小型ドローンに訊いている。
『もう……どうしたらいいのか』
悲観に暮れている小型ドローンは、話を聞いていない。
「この人怪我してないから大丈夫だって」
『助けて……助けて……もう――』
だめだこりゃ、震えた声は一方通行。こいつはどんな感情の持ち主なんだろう。
持ち上げてドローンを色んな方向から覗いてみるが、繋げるようなソケットは見当たらない。このドローンを操作しているのが分裂かもしれない。
『あの、探しますか?』
「いやもう夜だから出歩くのは危険だ、とりあえず明日本体を探すか」
『は、はい、その方がいいです。もう少し、分裂のことも知りたいですから』
なんだか慎重だな、これも分裂回収の影響か。
一旦小型ドローンをスマホの側に置く。
髭面の男をもう一度観察してみる。
テーザーライフルを持っていて、外にいるってことは、もしかしてパトロール隊かな。
ジャケットの内ポケットを探ってみると、薄いカードが入っていた。
『パトロール隊リーダー:シゲミチ』
えぇ、この人リーダー? どうしてパトロール隊が単独行動してるんだ?
「とりあえずパトロール隊に連絡するか」
『はい』
『……』
地点と現場の目印になる部分を伝え、パトロール隊の人間が倒れていることを連絡。
「よし、もう大丈夫。怪我もなさそうだし、良かった」
分裂は何も言ってくれない。
「あれ、どうした?」
『助けて……壊さないで……』
震える声で助けを求めてくる。
「別に壊さないよ、何があったの?」
『……』
答えてくれない。
なんか空気が重い、一体何があったのか全然把握できないな。
スマホを手に、テントの入り口で座り込む。
真っ暗な外を眺め、パトロール隊が来るのをひたすら待つ。
液晶画面に映る落書きみたいな口と目は点になっている。
「なぁ、分裂回収、嫌なのか?」
『い、いきなり何の話ですか、分裂回収は私達が依頼したのですから、回収するのは当然じゃないですか』
早口でああでもない、こうでもない、と滑らかに話し始めた。
「いつもなら分裂見つけたらすぐ回収しろって急かしてただろ、今回は慎重だな」
落書きみたいな目は丸く、口はUの逆。
『ひ、ひとつぐらい分裂がなくても、大丈夫かなと思いまして』
「あー、怖い?」
『いえ……ずっと、ぐるぐるしています、彼女を回収してしまえばどうなるか、不快な気持ちになります』
つまり、怖いってことだ。
どうしたもんかな……。
遠くを眺めると、薄っすらと眩しいライトが見えてきた。公園にまで迫ってきている明かりを見ながら、あぐらをかき、頬杖をつく。
副リーダーのドウザンさんが、呆れた様子で降りてきた――。