それから私と遥さんは話を続けた。河上君は自分の部屋へと戻ってしまったので、少し前の河上君の話を聞けるチャンスだった。
「それで、河上君ってどんな人だったんですか?」
「心太ねー、まあ最初はさっき言った通りあまり心を開いてはくれなかったわね」
「人見知りということですかね?」
「人見知りとは少し違うかな」
「え?」
「まあ、最初は家族を殺されてそれでいきなり知らない人の家で暮らすとなれば、普通最初は警戒するでしょ?」
それは、当たり前のことだった。
「そうですね」
「でも、心太と出会ってもう二年と少し経つわね、数か月で私たちの間は本当の家族になったの」
「本当の家族?」
「うん、例え血がつながってなくても、それでも心太は私のかけがえのない弟なの。それを思っているのは父も母も兄も皆」
河上君は良い家族に出会えたのかと、少し羨ましく思えた。
「遥さんだけじゃないんですね」
「何が?」
「河上君の事を想っているのは」
「当然!!両親がいきなり引き取りたいって、言い出したときはびっくりしたし、私はもう家を出ていたからどんな人かと思ったけどあの両親が引き取りたいって言い出すくらいだからとても良い子なんだなとは思ったけど」
「遥さんのご両親ってどんな方なんですか?」
「んー、厳格で厳しい人だったけど、私が俳優やりたいって言った時も私の夢を優先させてくれたし、良い人なのは確かなんだけど」
何か言いづらそうで言うのを悩んでいた。
「家の親は心太に対しては、異常に心配性だったの」
「それは、河上君が危険な仕事をしていたからですか?」
「インターポールのこと知っているんだ」
「はい、話してくれました」
「そっか、さくらちゃんは心太から相当信頼されているんだね」
「信頼ですか」
そこまで信頼される程の距離感でもないし、関係性もないと思っていた。
「信頼がないと話されないよ」
「そうですかね、インターポールとかの話はされたけど。遥さんとか家族に関しては初耳だったしどこまで信頼されているか分からないんです」
「そうねー、まあミステリアスってことにしておいてあげて」
「ミステリアスですか」
「うん、まあ会った時からそんな感じの子供だったし」
「そうなんですか?」
「うん、最初に会った時はたしか、あまり話しかけてはくれなかったけど段々仲良くなってきても何か裏に影がある感じがして、私達にも出してない所があるから私達からしてもミステリアスって感じがするのよ」
ミステリアスがって言うのはそう言えば、最初からそんな感じだったかもしれない。
「河上君が最初はどんな人なのかは、分かりました」
「そう?他になにか聞きたいことある?」
「他ですか?」
「うんうん、やっぱり少年少女の恋の仲人は楽しいねー」
仲人って一体私と河上君に何を期待しているのだろうか?
「それじゃあ、インターポールとして働くのを遥さん達はどう思っていたんですか?」
「そりゃあ、心配だったよ。それに学校も殆ど行かずに色んな国を飛び回っていたからね」
「色んな国に」
「うん、でも日本にだけは頑なに行かなかったわね」
「そうなんですか?」
「うん、私が会いたいって行っても会いに来てくれなったし。私が会えたのも数えるほどだったし」
遥さんは話をする中で弟のことを大好きって言うのが、伝わってくるくらいな程だった。
「やっぱり家族を殺されたことが、原因だったんですかね?」
「そうだね~、インターポールに入ったのも他人に自分と同じ気持ちになってほしくないってのが動機だったみたいだったし」
「やっぱり優しいですね」
「そうでしょう?」
「はい」
「それでも、連絡を返すのが遅いのが唯一の悪い点なんだけどね」
「それだけですか?」
「うん」
どうやら遥さんは重度の、ブラコンなようだった。
「心太がインターポールに入るって言い出した時は、もう覚悟を決めていて止めるのは無理だったよ」
「やっぱり動機が動機なので、止めるのは無理だったんですよね」
「うん、インターポールに入ってからは殆ど、会えなくなっちゃって心太がどういった状態だったのかは分からないけどね」
「連絡とかは?」
「殆どなかったよ、何か辛いことがあったみたいなんだけど、力にはなれなかったわね」
「そうなんですね」
なにか重い過去を持ってそうで、たまに辛そうな顔で煙草を吸っていたりそんな顔を見せるから何かはあるんだろうなとは思ってはいたけど。
「お兄さんは河上君のことを、どう思っているんですか?」
「隼人って名前なんだけど、隼人はね会社で人望がとてもあるんだけどね。心太のことを何度も会社に誘っていたんだ」
「何度も?」
「うん、その度に振られているけど」
「じゃあ信頼しているんですね」
「うん、心太は頭がいいし要領もいいから隼人も親も会社で働いてほしいって思っていたんだけど。最終的に好きにさせようって考えみたい。まあ今回、私が来たのは心太の顔を見てこいって言われたからなんだけど、もう心配しなくていいみたいだね」
「まあ、今は元気なので」
「そうだよね、まあ私が知る心太のことはこれくらい。どう?関心持ってくれた?」
「え?」
「え?じゃないよ。こうなったら家にいる時は心太とさくらちゃんをくっつけるように頑張らないと!!」
「それは勘弁してほしいです」
こうして家の中は騒がしくなったが、遥さんは仕事で忙しいのか殆ど家にはいなかった。