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第46話文化祭

それから、私達は明日の二日目に仕事をしないでいいように、一日目は働いた。

沢山の人がクラスの縁日に来た。皆、笑顔で色んな屋台を巡りそれにつられて私達も笑顔になった。でも、相変わらず河上君は退屈そうに受付をしていていた。

「はい」

「ラーメン?」

「うん」

私が河上君に渡したのは、三年生が開いていたラーメン屋のラーメンだった。

「良いのか?」

「うん、いつも高坂さんとか霞ちゃんに作って貰ってばかっかりだしたまにはね」

「そうか」

私は河上君の隣の椅子に座った。

「いただきます」

「此処で食うのかよ」

「いいでしょ、いつも食べているし」

「学校で家の話するの禁止じゃなかったのか?」

「今は良いの」

なんで私は河上君と一緒に、お昼を食べたいと思ったのかは分からなかった。

「そう言えばさ、さっきの人ってインターポールの人?」

「さっきの人?」

「えっと、アリシアさんだっけ?」

「アリシアは元々サマエルだ」

「え?サマエルの人なの?」

「ああ、今は組織を抜けて自由気ままに生きているみたいだけどな」

「そうなんだ、でも、あれだけの美貌を持っているなら生活には困らなそう」

「まあな、でもああ見えてもアリシアは俺達十代が相手できる奴じゃない」

「どういう事?」

「まあ、あの見た目でも中身は歳いっているってことだ」

「え?まさかさっきの見た目は変装とか言わないよね?」

「さあな、でも顔だけじゃなくてアリシアはサマエル時代に色んな所に潜入して、相手の弱みを握ったり殺したりしていたからな」

私は驚きで何を言えばいいのか分からず、ラーメンをすすっていたら横から急に声をかけられた。


「今、さっきの美女の話ししていただろ」

「え!!ってびっくりした。颯太君か」

「お前、顔腫れているぞ」

「舞に滅茶苦茶殴られた」

「だろうな」

「でもさ、ここまで殴らなくてもさ」

「いや、あれは颯太君が悪い」

「さくらちゃんまで」

「俺もお前が悪いと思う」

「なんだよ!!皆揃って」

「さっきの人見て鼻の下伸ばしていたのは誰よ」

話に入って来たのは、舞だった。

「うわ、来た」

「うわって何よ」

「もう、往復びんたはこりごりだ」

そう言って颯太君は何処かに行ってしまった。

「河上君、悪いんだけど。買い出し行ってきてくれない?」

「いいけど、受付はどうするの?」

「私が、やるよ」

「さくらありがとう。それじゃあ、取り敢えず、お菓子の補充よろしく」

「はいよ」

河上君は買い出しに出かけて行った。


それから、三十分くらい経って流石に遅すぎないかと舞に聞いてみることにした。

「舞~」

「どうしたの?」

「河上君は?」

「ああ、それなら野暮用があるって連絡きて颯太に買い物を渡していたよ」

「舞って河上君の連絡先知っていたの?」

「うん、颯太に聞いた」

「そっか」

「なになに、河上君が私だけのものじゃなくなったって言いたいの?」

「うるさいな、大体私はそう言う気持ちはないって言ったじゃん」

「はいはい、分かったって」

「河上君どこ行ったんだろう」

「分かんないけど、まあ心配ないんじゃない」

「そうだね」

何か厄介ごとに絡まれても何だかんだ言って、解決しちゃうのが河上君だし。心配要らないか。


一方、河上は安藤が予想の通り面倒ごとに巻き込まれていた。

「ほい、タオル」

「ありがとうございます」

「先生戻って来るまで大人しくしてろよ」

「はい」

河上とこの生徒が出会ったのは、買い出しをしに行って帰りのことだった。


五分前。


ぽつりぽつりと降る雨と湿気を疎ましく思いながら一人歩く。

「取り敢えず、こんだけ買えば明日まで持つだろ」

そう独り言を言って、学校まで帰っていると校舎の前にこの雨の中一人、女子生徒が佇んでいた。

俺は傘を持っていたので、傘の中に女子生徒を入れた。


「大丈夫?」

「え?」

「いや、泣いているし」

「大丈夫です」

そう言って、校舎に戻ろうとする女子生徒は足元が覚束なく倒れてしまった。

俺は慌てて女子生徒を介抱して、保健室に運んだのが五分前だった。


「じゃあ、俺ちょっと此処開けるから寝ていろよ」

「はい」

そのまま、スーパーに行き食材を買い、調理室で料理を始めた。

他の生徒の邪魔をしないように、端で料理を始めた。

他の生徒は自分の仕事で忙しく俺に、構っている様子はなくただ淡々と俺の得意料理を作った。

少し時間が経って出来上がった料理を、保健室に持って行った。

保健室の先生には許可をもらい、料理と保健室を女子生徒と俺の二人にしてもらった。

カーテンを開けると、女子生徒は上半身は起き上がって目の前を向いて、目には涙を浮かべていた。

「ほい」

俺が最初に渡したのは、ハンカチだった。

「どうも」

「それと、これ」

「これはなんですか?」

「カヴァルマって言うブルガリアの伝統料理だ」

「カヴァルマ」

「まあ本格的なものじゃないけどな」

女子生徒は一口食べて、笑顔こそ見せなかったが美味しそうに二口三口と食べ始めた。

「美味しいです」

「本来は煮込んだり工程が色々あってシチューになるんだが、俺が作るのはスープみたいにしてトマトと肉と野菜で後は胡椒とか諸々入れて完成だ。どうだ?美味いか?」

「はい、なんだか優しい味がします」

「そうか、あっちの人達からも好評だったからな」

「私、この何日間かなにも食べてなくて」

そう言ってカヴァルマを平らげて、落ち着いたのか、自分のことを話始めた。

「さっき、彼氏に振られたんです」

「それであそこにいたのか」

「はい、もうどうしたらいいのか分からなくなってしまって。振られた要因は他に好きな人ができたらしくて、どうやらそれが私の親友だったんです」

「そうか」

「あの?」

「なに?」

「さっき会ったばっかりで聞くのは、どうかしていると思うんですけど、私はこれからどうしていけばいいんでしょうか?それに親友にも、もう話す気も湧かないし」

「まあ、許せないのは分かるよ。俺も十八年生きてきて、俺自身、集団行動できない人間だし仲良くできるなんて思ってなかったから、でもたった一人だけ居たんだ。親友が」

俺は話ながら少し自分の過去を振り返った。

「まあ、結局そいつには裏切られたんだけどね」

「その人とはどうなったんですか?」

「死に別れたよ」

「え?」

「まあ、色々あっていな。親友とはお互いの思いの丈は言い合えずに亡くなったよ」

「そうなんですね」

「ああ、だから俺には解決方法なんてものは教えられないよ」

「そうですか」

「ああ、俺はそいつのことは許せないけど、許さないといけない理由があるし。それにもう死んで大分経つ、今は墓に花を手向けるくらいはしているよ」

女子生徒は暗い顔をして元気を無くしてしまった。

「そんな顔すんなって、折角料理食って元気だした所だろ?」

「元気出せるような話じゃないじゃなかったですか」

「まあ、そうだな、でも他に好きな奴がいるって言って離れる奴は大体いつも大切な物を失っていくもんだ、だから諦めろとは言わないけど許せないなら、そいつの不幸を神様に祈ることくらいは許されるだろ」

「不幸を祈る?」

「ああ、そのくらいしても罰が当たることはないだろ」

「そうですね、なんだか少し楽になりました」

女子生徒は少し吹っ切れた感じがしたのと、顔色も良くなった。

「おう、じゃあ俺は戻るわ」

「はい」

俺は保健室をでて教室まで行った。


「おかえり河上君」

「ああ」

「受付ありがとうな」

「それはいいけど、何かあった?」

「いや、ただ相談に乗っていただけ」

「誰の?」

「さあ?分からない」

「河上君に相談するような人いるの?」

「お前は俺をなんだと思っているんだ?」

「分からない」

「は?」

「だから分かんないの!!」

「そんな大声出さないでもいいだろ」

安藤は教室の中に逃げてしまった。

「あいつなんで急に大声だしたんだ?」

「自分で考えなさい」

「ん?」

いつの間にか高倉さんがいた。


「心太!!」

「ん?」

後ろを見ると懐かしい顔がいた。

「エレナ!!」

「久しぶり、心太」

「久しぶりだな」

「来ちゃった」

「それはいいけど、一人で来たのか?」

「いいや、SPとかいるけど校舎には一人」

「相変わらず、破天荒だな」

「大丈夫でしょ」

「その自信はどこからくるんだ?」

「だって、貴方なら私がどこにいても助けてくれるんでしょ?」

「覚えていたのか」

「まあね」


「あのー?」

「ん?」

高倉さんやクラスの皆が、教室のドアから顔を出して見ていた。

「そちらはどなた?」

「こいつか?」

「おい、河上!!」

「なんだよ」

「お前は朝の美女だけでなく、そんな可愛い女の子ともお知り合いとはな!!」

「こちらは心太のお友達?」

「ああ」

「初めまして、私ブルガリア共和国の王女エレオノーラ・アレクサンドロヴァとお申します」

「え?」

皆、一斉に固まってしまった。

その中には担任の先生もいた。


「河上、ちょっと」

「はい?」

俺は教室に入った。

「さっきの人が、ブルガリア共和国の王女って言うのは本当か?」

「はい、正真正銘のブルガリア共和国の国王の血を継いでいる人ですね」

「そう言う人が来るなら最初から言えよ」

「俺も来ること知らなかったので」

「だからってそんな、高貴な人が来るならこちらも相応の準備って言うものがな」

「準備なんていりませんよ」

「え?」

エレナは教室に入って来ていた。

「今回、私が此処に来たのは自然な異文化交流と考えて頂いて構いませんので」

「異文化交流ですか」

「はい、あくまでも普段通りで大丈夫ですよ」

「分かりました」

「それで、なんで急に日本に?」

「ブルガリア王室が日本で行われる「国際文化・芸術交流イベント(政府・民間共催)」に招待され、王族として来日したんです」

「そうだったのか、でも来るなら連絡くらいしろよ」

「そうね、でも今回はサプライズと言うことで」

「河上君?」

「ん?」

「此処は良いから二人で楽しんで来て」

「いえ、私は心太の顔を見に来ただけですので」

「それだけ?」

「はい」


「心太―!!」

この子供特有の高い声は何度も聞いたことがあった。

教室を出ると少女が走って来た。

「ミラ!!」

「お久しぶり」

「おお、久しぶりだな」

「ミラね、日本語いっぱい勉強したの」

「そうか、上手くなっているな」

「凄いでしょ?褒めて」

俺は褒めながらミラの頭を撫でた、ミラは嬉しそうにころころ笑っていた。

「河上?」

「ん?」

クラスメイトに話しかけられた。

「その子はお前の子供か?」

「は?」

「いやだって、今日だけでも色んな人が来たしその可能性もあるだろ」

「こんなに大きい子供がいるなら、俺はいつ子供を産んだことになると思うんだ?」

「それもそうか」


「ミラ、車で待ってなさいって言ったでしょう?」

「だって心太に会いたかったんだもん」

二人はブルガリア語で話すので、周りはチンプンカンプンと言う様子だったが女子はミラに日本語で話しかけていた。

ミラも話せる限りの日本語で話していた。

「それで、エレナ」

「はい?」

「いつまで日本に居られるんだ?」

「実は今日帰らないといけないの」

「そうか、まあ立ち話もなんだし自販機ある所に椅子あるからそこで話すか?」

「いえ、私は顔を見に来たのと確認しに来たので」

「確認?」

「ええ、心太が浮気をしていないか」

「は?」

「え?」

教室にいた生徒、先生が固まった。

「あの?エレナさんでしたっけ?」

「ええ」

頭を整理するが言葉が出てこなく固まっていたら、高倉さんが話しを進めてくれた。

「浮気ってことは、河上君とは付き合っているってことですか?」

「付き合っている訳ではありませんが、婚約をしています」

「婚約?!」

高倉さん始め、女子生徒が歓声を上げた。

「婚約っていつ?」

「そんな、忘れたの心太?酷い」

「そうだぞ、河上!!お前はそう言う奴だったんだな」

「いやいや、本当に覚えてないんだって」

「お父様に許可も頂いたじゃない」

「あー、あれか」

思い出した。

確かに以前、ブルガリア共和国の国王に婚約を認められたことは事実だが、それも羽陽曲折あり冗談だと思っていた。

「それはだな、国王が勝手に」

「でも、お父様は実際に約束をしたと」

「あの時は少しでも、時間が必要だったんだよだからな」

「河上、お前国王に婚約認められたら逃げられないぞ」

先生が追撃を仕掛けてくる。

確かに下手にエレナを傷つけると、最悪国際問題になりかねないし。俺の意見でこれまでブルガリア共和国との良好な関係を築いてきた日本の努力が水の泡となる。

「分かった、返事はまだもう少し考えさせてくれ。ブルガリアを離れる時に国王もそれを納得しただろ?」

「分かりました」

エレナは分かりやすくシュンと気を落とした。

「心太?」

「どうした、ミラ?」

「お姉様と結婚まだしないの?」

「ああ、決めるにはもう少し時間がかかりそうだ」

「そっか~、心太がお姉様と結婚したら、ミラとももっと一緒に居られるんでしょ?」

「そうだな、でも結婚って簡単に決めたらいけないんだ」

「そうなんだ」

そうしてミラは女子生徒がやっていた、屋台の方へと行った。

この会話はブルガリア語だったので、幸い誰にもばれてない。

「それで、いつまで私は待てばよろしいの?」

「いつまでってな、いくら親に許されても俺は簡単に移住できることが出来ないの知っているだろ?」

「それはそうですけど」

「いいじゃん、移住しちゃえば」

「高倉さんは黙っていて」

外野は簡単になんとでも言えるから、良いだろうけど仕事柄一つの国にいることはできない。

「まあ、返事は待ちます、いつまでも。でも今日は時間がありますからここで帰りますね」

「分かった、送って行く」

丁度、一日目終了のチャイムが鳴った。

俺はエレナとミラに付いていき。外で待機していたSPの所まで送っていった。

そこでSPと少し話した。

「心太、元気か?」

「ああ、そっちも元気そうで良かった?」

「ああ、お陰様で」

このSPは以前の事件で顔見知りだった、こいつとは最初はなめられたりしたが一つ大きな事件を一緒に解決したことで親しい関係になった。

「そうか、なら良かった」

「俺達は心太には、返しても返せない程の恩がある。だから何か困ったことがあればいつでも言ってくれ」

「分かりました、エレナとミラのこと頼むぞ」

「分かっている」

エレナとミラは車に乗り、手を振ってくれた。

「心太、またねー」

「じゃあね、心太」

「おう、今度は俺が行くからね」

「うん!!」

そうしてエレナとミラを着送って、教室に戻った。

「河上、お前の交友範囲どうなっているんだよ」

「俺は普通に生活しているだけなんだけどな」

「どう生活していたら、あんな美女や王女のとお近づきになれるんだ?」

「それは、まあ色々あったんだよ」

「おーい、取り敢えず今日は終わりだから、皆話を聞いてくれ」

それから、先生の今日の総括の話になり、今日は解散になった。

教室には俺と安藤、颯太や高倉さんだけになった。

「ねえ、今日は沢山働いたから明日は、存分に遊べるね」

「あの?それについてなんだけど」

「なに?河上君?」

「明日学校行けないわ」

「なんで?!」

「前に話しただろ?それに明日は大切な人に会いに行くんだ」

「大切な人?」

「うん、会いに行かないといけないんだ」

「そっか」

「でも、夕方には帰れるかもしれないから、少しなら大丈夫だよ」

そう言って三人には納得してもらった。

「そっか、まあしょうがないな」

「悪いな」

「いやいや、それよりさ。この人知っている?」

颯太が気を利かせて、話題を変えてくれた。

「この人なら知っているよ、今話題の霊媒師でしょ?」

「美人だよな~」

「あんたはそこしか見てないな」

また、颯太が高倉さんに怒られている。

「流石に心太も知っているだろ、テレビにも出ているし」

「どれ?」

「この人」

俺は一瞬目を疑った。

「なんだ、小鳥遊か」

「え?知っているの?」

「ああ、知り合いだ、小鳥遊澄玲だろ」

「なんで知っているんだよ」

「だから、前に知り合っただけだよ」

「お前どこまで美女に囲まれれば気が済むんだ?」

「うるさいな」

「私、小鳥遊さんに視てもらいたいんだよね」

「俺も」

「私も視てもらいたいかも」

安藤まで、言うとなるとは。

「まあ、三人なら大丈夫だろ」

「何が?」

「実は明後日シルバーウイークに入る時に、会いに行くんだよ」

「まじで?」

「ああ、その時に視てもらえよ」

「良いの?」

「ああ」

「でも、小鳥遊さんって今一番予約が取れないって、言われているけど」

「俺と話をするついでに視てもらえば大丈夫だろ」

「まじか、やったー」

「じゃあ、集合場所とかはまた連絡するよ」

「本当に感謝だわ」

「それじゃあ、帰るか」


そして俺達は家に帰った。

帰りは高倉さんと颯太と別れて、安藤と二人で家まで歩いた。

「只今~」

「お帰りなさいませ」

「文化祭は楽しまれましたか?」

霞が安藤に聞き、安藤は手洗いを済ませながら答えた。

「うん、まあ殆ど仕事だったけど」

俺は自分の部屋で制服などから、部屋着に着替えて直ぐにリビングに戻った。

どうしても聞きたいことがあった。

「なあ、安藤?」

「なに?」

「小鳥遊のことについてなんだが」

「うん」

「あいつがテレビに出ているって本当か?」

「本当だよ、ね、霞ちゃん」

「はい」

「霞も知っていたのか?」

「はい」

「この前、美女霊媒師って特集していたから」

「そうか」

あんなに、テレビに出るのを嫌っていたのにどう言う事はなんだろう。

「ねえ?」

「なんだ?」

「私も一つ聞いていい?」

「なんだ?」

「エレナさんとは何処で出会ったの?」

「ブルガリアだけど」

「そう言うことじゃなくて、詳しい詳細」

「なんで気にしているんだ?」

「だって婚約しているって」

「ああ、あれか」

少し話すには時間がかかるが、まあ飛行機の時間までまだ時間はあるから良いか。

「長くなるぞ」

「はーい」

「あれは、半年と少し前のことだな。ブルガリアに仕事で行った時だな」


それから、俺は過去に遭ったブルガリア共和国での仕事について話をした。



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