半年と少し前。
「高坂」
「はい?」
「今回の仕事について教えてくれ」
俺と高坂はインターポールのプライベートジェットで、フランス、リオンからブルガリア共和国まで仕事で向かうことになっていた。
「はい、先ずは国王主催のパーティーでの国王や王妃、王女の護衛です」
「最近、護衛の仕事が増えて来たな」
「まあ、それ程平和になったのでしょう」
神鹿狼奈がサマエルからいなくなって、数か月あれから世界では犯罪率はどんどんと、減っていった。最初、俺達は神鹿狼奈がいなくなればマラク達が暴走して世界中が大混乱になると予想していたが、そんなことは起きなかった。
でも、神鹿狼奈の最後の言葉。【私はどこにでもいる】それが俺が神鹿狼奈と交わした最後の言葉だった。確かにそれらしい大事件は一つだけあったので、それがなにより引っかかっていた。そんなことを考えていたら、ブルガリア共和国に着いた。
パーティーは一日だけ、その一日が終われば、俺はリヨンに帰れる。
パーティー会場に着いた。俺と高坂はスーツに着替えてブルガリアの警察とSPの話し合いをしていた。
話は高坂が進めて行く、配置などを話し合っていた。
「おい」
ブルガリアの警察官が一言言った。
「なんで此処に餓鬼が来ているんだ?」
でたよ、人を外見で判断して必要ないと主張する人が。こういうタイプは説得するのが面倒くさいんだ。
「僕のことですか?」
「お前以外いないだろう、ここは国王をお守りする為に集まった集団だ。お前みたいな餓鬼が居て良い場所じゃないんだよ」
「口を慎みなさい」
「ですが、局長」
「彼はれっきとしたインターネットの捜査官です、それに神鹿狼奈を退けた功績がある、彼以外に作戦を考えて私達を動かせる人材はいません」
「子供が神鹿狼奈を退けたって噂は、本当だったのか」
周りがざわついた、正直自慢をする気も言いふらす気もないのであまり話してほしくはないのだが、実際退けたと言うことになっているし、でもこの業界内では噂話が周るのは早いらしい。
「兎に角、彼の指示に従いましょう」
「分かりました」
「僕よりこの場所に詳しい人が、作戦を立てる方が賢明でしょう」
「ですが、我々は上からの貴方に従うように言われています」
「分かりました、ではこの場所について詳しく教えてください」
「はい」
と言う訳で纏まったが実際俺よりも、この場所に詳しい人が作戦を立てるほうがいいのではと、疑問ではあるが俺はその後場所について教えてもらい、配置を考えて俺も現場に行った。
パーティー会場では、色んな国の要人がいた。
それぞれにシャンパンなどを飲んで、交流をしていた。
此処でなにか事件が起きたら、冗談では済まないだろう。
俺が此処に来たのは、サマエルが何かを仕掛けるかもしれないと情報があったからだった。
「貴方は誰?」
急に背後から英語で話しかけられた。
「僕?」
俺も英語で返す。
「そう、貴方」
話しかけて来たのは、この国の王女だった。
髪の色はストレートのダークブラウン、腰まで伸びた艶やかな髪で目の色がグリーンアイでとても品性が良いと第一印象で伝わるほどだった。
「僕は、パーティーに招待された日本人です」
国の王女とは言え、俺がインターポールだと言っても信じないだろうから、適当に返した。
「そう、歳はいくつ?」
「十八です」
「では、同い年ですね」
「そうなんですか?」
「ええ」
同い年で国の王女とは大変なことばかりだろう、素直に尊敬する。
「王女様、お時間です」
「分かりました」
王女は何処かに行ってしまった。
俺の仕事はあくまでも、このパーティーで何事もなく終わるようにする事。だから国王に挨拶する必要もないし、誰かと話すことも必要ない。だから目を使いながら辺りを適当に歩いていればいい。
そのまま時間は流れて、国王がマイクで話して初めてそれが終わると一瞬灯りがなくなり暗くなった。
これは演出なんだろうか?国王は顔色を変えずに話を続けて終わると退出していった。その後パーティー会場では段々と人が居なくなって、パーティーは無事に終わった。
俺は先ほど、作戦を立てた部屋へと向かおうとすると、スーツを着た男性に話しかけられた。
「河上様ですね?」
「はい」
「国王がお呼びですので、ご案内いたします」
「分かりました」
途中で訳も分からずに、なんで俺なんかと会おうとするのか理解できないままスーツの男に付いていく。
歩くこと十分、分かったのはこの会場のでかさ歩いても歩いても、目的地にたどり着かないと思わせる程の道に飽き飽きしていたがスーツの男が、部屋のドアの前で止まった、どうやら着いたようだった。
「こちらです」
「どうも」
スーツの男がノックをしてドアを開けた。
「失礼します」
勿論、英語で話すがブルガリア語はさっぱりなので、会話が成り立つかは不安だった。
「君が河上心太君か?」
国王は英語で話していたので少し、安心した。
「はい、それでなぜ僕が呼ばれたんですか?」
「それがね、娘が誘拐されたんだ」
「さっき演説していた時の暗転の時ですか?」
「流石に話が早いな」
「それで防犯カメラなどは?」
「今、現地の警察が総力をあげて取り組んでいるが、目ぼしい情報はない」
「そうですか」
「そこで君だ、なんといってもあの神鹿狼奈と言う巨悪を潰したそうじゃないか」
「まあ、それについてはノーコメントですが。僕に王女を助けろと?」
「ああ、頼む。助けてくれたらなんでも差し出す。金が欲しいなら幾らでも出すそれに娘が欲しいのなら婚約も認めよう」
婚約?いくらなんでもそれは言い過ぎなのではないか?
「婚約は大丈夫です、ただ報酬だけ受け取ります」
そうして俺は部屋を出ようとしたら、目の前から声をかけられた。でも俺の目の前には誰もいない。
「あの?」
「ん?」
視線を落とすと幼女が立っていた。
幼女はふわふわの明るめブラウンの巻き毛で大きな青い瞳を持っていた。
「ミラ、…」
なにやら、ブルガリア語で話しをしているが俺にはさっぱり分からなかった、でも恐らく自分の部屋に居ろとでも言っているのだろう。
幼女は俺の服を叩きながら何かを言っている。
「あのー、俺、ブルガリア語分かんないんですけど」
後ろには立っているさっきとは違うスーツの男に言った、恐らくこの子の身の回りの世話をしている人だろう。
「ミラ様は自分の宝物の指輪をあげるので、エレナ様を助けてほしいと仰っています」
困ったな、指輪なんて要らないしかと言って受け取らないで泣き出してしまわれても困る。
「あの?」
「はい?」
「今から言うことをブルガリア語で、この子に伝えてあげてください」
「分かりました」
「ミラちゃん」
そう言うとミラちゃんはこちらを、じっと見つめてきた。
「指輪はいらないよ、俺は必ずお姉ちゃんを助けてあげるからミラちゃんはお父さんとお母さんを安心させてあげて」
スーツの男がミラちゃんにブルガリア語で伝えたようで、うんうんと頷いた。
「そうだ、今からミラちゃんに一つ教えてあげるよ。大切な時に指輪は女の子があげるものじゃなくて受け取るものだよ」
そうして俺は部屋を出た。
此処では何もなく終われると思っていたのにとんだ災難だ。
取り敢えず、高坂と合流しないと、思いパーティー会場を出ると目の前に急に車が止まった。
「心太様!!乗ってください」
「おお、急になんだ?」
「良いから乗れ!!」
「分かった」
車の運転をしているのは、先ほど俺に噛みついてきたブルガリアの警察官だった。
「あんた、さっきの」
「お前の作戦が悪かったんだ、責任とれよ」
俺のせいかよって思ったけど、確かにサマエルが関わっているのだとすればどんな状況になるか理解して作戦を立てるべきだったので反論はできなかった。
「そうだな、で何処に行くんだ?」
「何処ってお前なら直ぐに場所が分かるんだろ?」
「なんでそう思う?」
「こいつに聞いた、それにお前はインターポールなんだろ?」
俺は日本語で高坂に話しかける。
「目のこと話したのか?」
「いえ、ただ状況を整理すれば簡単に、居場所が分かると伝えただけです」
「それだけか?」
「はい」
そして俺は英語に切り替えて、話を進める。
「あんたの名前は?」
「スタニスラフ・ゲオルギエフだ、日本人には長いだろうから。ルギエフでいい」
「分かった、それで高坂の話を信じたのか?」
「いや、簡単には信じられない。だが誘拐されたのは王女だ、どんな手でも使うさ」
ルギエフの言葉は、ただの誘拐事件に対するものだけではないような気がした。でも今は王女が優先だ、それに普通の人なら自分の国の王女や位の高い人が誘拐されればどんな手を使ってでもなんとかしたいと思うだろう。警察官なら尚更。
「地図あるか?」
「そこのダッシュボードに」
高坂が渡してくれた。
「それから王女の写真があれば」
「用意している」
用意がいいと思ったが、高坂から事前に聞いたのだろう。
そして、俺は目を使う。
写真と地図を見比べて、王女が何処にいるのか割り出した。
そこには、大分弱った模様があり恐怖の色が見えた。
「場所分かったぞ」
「は?」
「取り敢えず此処に向かってくれ」
俺は地図に印を付けて、ルギエフに渡した。
「本当に此処で合っているのか?」
「いきなり信じろとは、言わないが今王女を助けたいなら此処に向かう方が賢明だ」
「分かった」
そして車で移動すること数十分、辺りは田舎で畑だらけだった。
「こんな田舎に仕事で来たことはないが、本当に大丈夫か?」
「大丈夫だ」
「その自信はどこからく来るんだ?」
「経験だ」
それから、黙って場所まで向かった。
「着いたぞ」
そこは田舎にはそぐわない廃墟だった。
周りが草木で覆われている為、雰囲気は凄かった。
「他の警官は?」
「まだ到着してないみたいだな、俺達が一番って訳だ」
「それじゃあ行くか」
「ちょっと待て」
「なんだ?」
「他の警官が来てからの方がいいだろ」
「王女はもう大分疲弊している、それに大勢で集まると場所を握っていることすらばれる」
「そうだが」
「第一優先は被害者だろ、俺達が怪我をしようが死にようが被害者が安全に逃げられればそれが一番いいだろ」
「お前」
ルギエフは目を丸くして、考えて了承した。
俺と高坂は拳銃を取り出し、セーフティを解除した。
「お前らなんで持っているんだよ」
「何があってもいいように、携帯してんだよ」
「この国では好きなようにはさせないからな」
「はいはい、取り敢えず、行くぞ」
そうして、廃墟の中に入った。
「誰もいないな」
「恐らく二階で陣取っているんだろう」
「なら尚更、応援を待った方がいいじゃないか?」
「そうだな、ルギエフは外で状況を伝える為に応援を待ってくれ」
「お前らはどうするんだ?」
「取り敢えず、様子見だな」
「分かった、くれぐれも無理はするなよ。何かあれば直ぐに無線で連絡しろ」
そうしてルギエフは俺と高坂に無線機を渡した。
「了解」
俺達は二階に繋がる階段の前で立っていた。
「高坂、どう思う?」
「罠ですね」
「おお、成長したな」
「成長ってこの場面では誰でも予想できるでしょう」
「でも、神鹿狼奈の時は一人で突っ走って行ったじゃん」
「あれは、冷静を保てなかっただけです」
「そう、振り返れるなら成長だ」
「なんだか今日は素直で、優しいじゃないですか」
「うるさい、取り敢えず応援を待つしかないか」
「そうですね、このまま入っても身を隠せる物があるか分かりませんし」
「それに、変に刺激して王女に何かあれば最悪、国際問題になりかねん」
「ですね、それに何人いるか分からない状態では危険ですし」
「それなら問題ない。目を使う」
俺は目を使った。
中には興奮状態の人間が三人、冷静な人間が一人、不安な状態が一人。
恐らく不安な状態は王女だろう、それ以外の四人が主犯だ。
ただ一つ懸念点がある、それはサマエルの幹部を見る時は心の色が曇るのだが、それがいない。この事件はマラクが動いていると考えていいだろうが、こんな大それた計画をサマエルが関わらないで成り立っているとは思えない。
「どうでしたか?」
「犯人は四人組だ」
「では、制圧可能ですね」
「ああ、ただサマエルがいないんだ」
「全員がマラクと言うことですかね」
「それは間違いないが、この計画は国の王女を誘拐しているんだ。サマエルが計画して現場で指揮をとってないとなると、何かしらの連絡手段で連絡を取っているとしか思えない」
「ですが、ブルガリアに来る前はサマエルが動くと情報がありましたが」
「何か計算外が起きたのか、どうなのか?」
「心太様が入国したことで、計画を変更したのでしょうか?」
「分からない、でもないかあるぞ」
「そうですね、下手に突入出来なくなりましたね」
『聞こえるか?日本人』
この無線から聞こえる声はルギエフだった。
『どうした?』
『応援が来た、今外からの交渉しながら突入部隊で突入する』
『了解』
これで数ではこっちが有利になった。あとはタイミング次第。
再び目を使うと、王女と思われる人の不安の色が薄くなり始めた。これは意識が無くなり危ない状態になっていることを示している。
「高坂」
「はい?」
「突入だ」
「え?でも」
「もう、王女が持たない」
『おい、ルギエフ』
『どうした?』
『王女が危ないからもう突入するぞ』
『分かった、こちらはお前らに合わせる』
『分かった、十秒数えたら突入だ』
『了解』
十秒を数えてドアを蹴破り、近くにあったドラム缶に隠れて背を向ける。
「誰だ!!」
こいつらは、ブルガリア人なのか。言葉が通じないく王女に銃口を向けた瞬間、外のガラスが破られてスモークグレネードで煙が充満した。
「制圧しました」
英語でそう言われて、煙が消えると犯人は取り押さえられて王女も布をかけられていた。
「俺ら要らなかったな」
「そうですね」
「お前ら大丈夫か?」
「ルギエフ、タイミングバッチリだ」
「おう」
そうして、一件落着かと思われた瞬間、奥にあったテレビが光る。
「お疲れ様、よく此処が分かったね」
画面に写っているのは、顔に布を被った人間なのか人形なのか分からないものだった。
「お前は誰だ?」
「サマエルのトップの側近と思って、もらえば構わないよ」
英語で話しているので、俺にもルギエフも分かる。
「まあ、河上君がいるなら当然か。まあいい、君たちに褒美をあげよう」
「褒美?」
「ああ、王女の花火だ」
そこで、俺は王女の方を見ると、王女を介抱していた警察官が二階の窓から王女を突き落とそうとしていて、後ろには小型の爆弾が付いていた。
「王女!!」
俺は一心不乱に走り出した。
そして、窓から飛び降りる一歩手前で王女の手を掴んだが、王女の重心がもう外側にあり俺と王女は二階から落ちた。
ただ、俺は王女を抱きかかえて上向きにして背後の爆弾を無理やりはがし、反対側に爆弾を投げて地面に落ちた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、少し痛いけどな」
俺は意識はあり、王女も無事だった。
「王女!!」
「早く救急車に」
「はい」
英語で会話して王女を救急車に引き渡した。
「は~、なんとか生き延びた~」
「心太様!!大丈夫ですか?」
「ああ、王女も引き渡したし後は病院でなんとかしてもらおう」
「心太様も早く病院に」
「ああ、俺は車で行くわ」
「河上、乗れ!!」
俺は高坂の肩を借りて、ルギエフの車に乗った。
「全く、お前は無茶をするな」
「言ったろ、俺は被害者が生きてればそれで良いって」
「お前は、長生きしなそうだな」
「まあ、それはその時考えるわ」
「病院まではどれくらいですか?」
「一番近い病院で十五分かかる」
「そんな」
「大丈夫だ、意識はあるし腕が折れているだけだ」
「重症じゃねえか」
「こんなの、怪我の内に入らん。前はもっと酷い怪我をしたからな」
「そうか、でも俺はお前のやり方は気に入らない」
「あれ以外にルギエフは他に方法があるのか?」
「分からない、ただ俺は助ける側も助かる側も無事でいて欲しいだけだ」
「あんた、そんな甘いこと言っていてこの国を守れるのか?」
「まあ、取り敢えず聞け。俺だってこの仕事始めた時はそう言う信念を持っていたさ。でもある時を境に俺はどっちも無事になるように動いているんだ」
「ある時?」
「ああ、昔のことだがな、俺は昔バディを組んでとある誘拐事件を追っていた。それはサマエルが絡んでいて誘拐されたのは俺の妻だった。その中には娘もいた」
ルギエフは淡々と語る。
「それで、遂に場所を突き止めて直ぐに現場に向かった、だが応援が来るのを待っていたら間に合わないと相方が言い出し二人で現場に入ったがそこで俺は、バディと妻、娘を失い俺だけ生き残っちまった」
車の中は重い空気が流れていた。
「助けられなかった、バディも妻も娘も」
「犯人は?」
「居なかった、モニターだけがあって現場の周りに仕掛けられた爆弾が爆発して遅れて入った俺だけが助かった。今でも後悔している」
「そうか、でも俺はこのやり方を変えない、俺は少しでも人を救いたいんだ」
「どうしてそこまで拘る」
「約束しちまったんだよ、もう顔も見えない会話もできない俺のバディと恋人とな」
「そうか、お前も相当なことが遭ったんだな」
「ああ」
「そうか、いつか聞かせろ」
「長くなるぞ」
「良いさ、ヨーグルトでも飲んでゆっくり話したい気分だよ」
「そんな時がくればな」
「お前はインターポールだし機会があれば付き合え」
「はいはい」
そうして、俺は病院で診てもらい幸いにも地面に付いた左腕だけが折れていてそれ以外はなんともなかった。
「心太様、大丈夫ですか?」
「ああ、ただの骨折だ」
「そうですか」
「王女はどうだ?」
「外傷は無く、一日入院すれば大丈夫だそうです」
「そうか、ルギエフは?」
「王女の病室の警備に行かれました」
「そうか」
「今日はもう遅いし帰るのは無理だな」
「はい、ホテルに戻りましょう」
「そうだな」
そうして俺達はホテルに戻り、普段口にしないブルガリア料理を食べてベットで寝た。
翌日
いつものように朝早く起きて、ベランダで煙草を吸う。
「はー、この一本の為に生きているわ」
朝日を見ながら吸う煙草は最高だ。
「そう言えば、相川さんも同じことを言っていたな。ルギエフのおかげで少し思い出した」
「朝から独り言ですか?」
「高坂、起きていたのか?」
「はい、珈琲淹れたのでどうぞ」
「サンキュー」
この珈琲も煙草とよく合う。
「相川様のことを思い出していたのですか?」
「ああ、なんだか昔のような気がしてな」
「確かに、時間はあまり経ってない気がしますね」
「ああ、今でも携帯に連絡が来てないかって思う」
「そうですね」
そこで、チャイムが鳴った。
「誰だ?」
「私が出ます」
「よろしく」
高坂が部屋のドアを開けて何か話している。
「心太様」
「どうした?」
「国王が王宮に招待したいと」
「今から?」
「いえ、昼過ぎに来て欲しいと」
「その報告が今って言うのはどう言うことだ?」
「簡単に言うと、ブルガリアを観光して自分の目でこの国を見てから来て欲しいらしいです」
「また面倒なことになったな」
「いいじゃないですか、観光なんて滅多に出来ないんですから」
「俺はもう家に帰りたい」
「はいはい、引きこもりには良い機会なので、車に行きますよ」
そうして、車で暫くブルガリアを観光した。
どこも自然と建物の調和がとれていて、とても美しい国だった。
それに温泉なども充実していて、とてもリラックスできた。
「そろそろ、王宮に行きましょうか」
「王宮に行くなら、何か持っていった方が良いんじゃないか?」
「それは大丈夫だそうです」
「朝に来た使いの人に聞いたのか?」
「はい、あくまでも招待しているのはあちら側だと仰ってました」
「そうか、なら気兼ねなく行けるな」
「はい」
それから、数十分車で走り王室に到着した。
門の前で車から降ろされて手荷物検査があり、車の中まで見られてようやく中に入れた。
王宮の庭は丁寧にされていているが、中に入るのに時間がかかる程にでかかった。
車を止めて、でかいドアの前に来るとドアが開いてスーツの男が立っていた。
「どうぞ、お入りください」
「どうも」
中に入り、通路を歩いても王室に到着した。
「失礼します」
スーツの男がドアを開けて俺達は中に入った。
「よく来たね、河上心太君と高坂君かな?」
「あ、はい」
「どうぞ、我々の前のソファーに腰掛けてくれ」
会話は英語だったので、可能だった。
俺達は言われるがまま、ソファーに座った。
目の前にいるのは、国王と王妃そして王女の二人。
「初めまして、私はブルガリア共和国の国王をしているヴァン・アレクサンドル・ザハリエフだ。長いので、イヴァンと気軽に呼んでくれ」
「私は王妃のミレナ・ロスコヴァです。私のことはミラーナとお呼び下さい」
「私は、王女のエレオノーラ・エレナ・アレクサンドロヴァです、エレナとお呼び下さい」
「私はミラーナ・ミラ・アレクサンドロヴァです、ミラって呼んでね」
「初めまして、河上心太です、心太で大丈夫です」
「私は心太様の執事をしております、高坂 慶一郎と申します。私は高坂で大丈夫です」
それぞれ、自己紹介が終わり。お茶が配られてお茶を飲みながら今までのお互いの人生を話した。
それで数時間話して、お互い打ち解けた後に衝撃的なことを国王は言い出した。
「うん、心太君。気に入ったよ。これならミラーナも文句ないだろう」
「そうですね、エレナはどう?」
「私も本気です」
「あの、それはどう言う?」
「うん、君とエレナの婚約を認めよう」
「はい?」
話が突飛過ぎてついていけない。そんな俺を置いてきぼりにして話は続いていく。
「言っただろ?娘を助けてくれれば婚約を認めると。それにエレナも本気だそうだし」
「いやいや、俺はブルガリアの国民でもなければ、一般の日本の高校生ですよ」
「結婚に国が何処かなんて関係ないだろう。それに婚約などをこの歳で決めるのは遅いくらいだ」
「そうなんですか?」
「ああ」
こうなると、断ることが難しいがどうするべきか?
「ええっと、そうですね。なんと言えばいいのか」
「勿論、強制はしないがそのかわり心太君には此処で一週間暮らしてもらおう」
「はい?王宮で、ですか?」
「うん、どうかな?」
「いやー、仕事がありますし」
「それは、こちらが何とかするよ。話を聞く限り休みなく働いているのだろう?」
「それはそうですけど」
「なら、有給消化と考えて休みを取りなさい」
「そうですよ、人間は休みなく働くと早死にしますよ」
なんと、王妃までそんなことを言い出してしまった。
「勿論、高坂君も此処にいてもらって構わないから」
「そうですか」
「まあ、断ってもらっても構わないがその場合、日本とブルガリアの外交問題まで発展するかもしれないな」
まじか、この人。
「冗談ですよね~」
「勿論そうだよ」
この人冗談とは言っているけど、目が笑ってない。やばいどうすればいいんだ?
とは言え、俺一人でもしも日本とブルガリアの関係の少しでもひびでも入れば、責任がとれない。まあそんなことをするような人とは思えないが、此処で少し休めるのならそれもいいのかもしれない。
「分かりました、此処で休ませてもらいます」
「よく言った、それで早速だが寝室はエレナと同じいいかな?」
「冗談ですよね?」
「私は構わないですよ」
「勿論、別でお願いします」
エレナさんまでこんなことを言い出した、俺のブルガリア共和国での一週間の暮らしはどうなるのだろうか?
そうして、俺の一週間の休みが決まった。インターポールの事務総長に状況を連絡したら、ブルガリアの国王から話は聞いていると言われたのでそのまま話は終わった。
まだ問題は残っている、それが露呈したのは翌日の朝だった。
「河上君、ちょっといいかな?」
俺は王室の中で、国王と二人きりになった。
「何かありましたか?」
「いや、君のことをインターポールに連絡したら、どうやら上の連中が騒いでいると聞いてね」
「やはりそうですか」
「その様子だと、分かっていたみたいだね」
「はい、恐らく世界政府が俺に仕事をさせたいのでしょう」
「やはりそうか」
「あいつらは自分のことしか考えてない奴らで、人の血が流れているとは思えない人種なので」
「噂は聞いたことがあるが、良い噂は聞かないからね」
「結論、無視してもらって構いません。あいつらが何かし言い出したら俺が対応します」
「対応って具体的には?」
「もう、あいつらの仕事は受けないとか」
「それは強引ではないか?」
「俺が仕事しないで、困るのはあいつらですから」
「分かった」
全く迷惑な奴らだ。これまで厄介な凶悪犯罪者や神鹿狼奈と言う巨悪と対人してきたがこの世界を狂わせて、行き楽しているのはあいつらだと断言できるしそれに、俺が今人を消せることが出来るなら真っ先に消すのは奴らだ。
朝から嫌な気分になったが、朝食を食べて王宮と言う場所で唯一癒されるのがミラだった。
朝からエレナやミラは朝から色んな習い事で、忙しそうにしていた。
そう言う俺は何かしたいと言い出した時に、休む為に此処にいるんだから何もするなと言われてしまった。
やることと言えば庭園を眺めながら、茶をすすることくらい。
そんな俺でも何かできるとしたら休みの時間に、ミラと遊ぶことくらいだった。
高坂はと言うとこちらの執事のやり方などを学びたいと言い、あれよあれよと色んな仕事をしていた。
国王と王妃は普通に仕事をして、王宮にはいないので昼間から茶を飲むのは俺くらいだった。
そんな俺でも、今日は約束があった。カフェで待ち人を待っているとそいつは来た。
「早いな」
「日本人は五分行動が、普通だ」
「そうなのか、全くあれだけのことがあってよく腕一本の骨折で済んだものだ」
「そう言うお前は怪我がなくて良かったな、ルギエフ」
「まあな」
待ち人はルギエフだった。誘拐事件の後にゆっくり話がしたいと言いだしたのを思い出して、こちらから連絡したのだった。
「それで、何から話すか」
「お互いに時間の差はあれど、事の多い人生を送っているからな。いざ話すとなると俺も何を話していいのか分からないものだな」
「そうだな」
俺は仕事柄、簡単に情報を明かすことは出来ない、だからこそ何から話せばいいのか分からなかった。
「そうだ、最近の悩みを聞いてもらうかな」
「最近?」
「ああ、経った一日のことだがな。俺、今王宮住んでいるんだ」
「は!!」
ルギエフは運ばれてきたばかりのお茶を噴出した。
まあ、驚くのも無理はない。経った数日前にブルガリアに来たばかりの男が王宮に住んでいるとなると尚更。
「どういうことだ?」
それから、説明するのとルギエフが理解するのに、三十分かかった。
「それは災難だったな、此処の国王は良くも悪くも一度決めたことは曲げないからな」
「それなんだよ」
「まあ、お前が王女と婚約ね~」
「それが問題だ」
「良いじゃねえか、そんな高貴なお方と婚約出来るなんて人生何回繰り返しても、一度あるかないかだぞ」
「そう言うことじゃないんだよ、一般人が急に、しかも殆ど知らない国の王女と婚約とかおかしいだろ」
「その歳であんな仕事している時点で、一般人じゃないだろう。それにそれなりの功績を残しているんだから」
「神鹿狼奈のことか?」
「ああ、あいつは今何をしているのか、生きているのかも分からないが確かに巨悪は去ったんだ十分誇って良い」
「神鹿狼奈と言う人間が人の記憶に残っている時点で、あいつの意志は残っている」
「それもそうか、まあ、俺達みたいな仕事をしている時点で矛盾だが、平和と言うのも慣れとかないと今度はお前が神鹿狼奈になるぞ」
「分かっている。それは俺が一番」
「そうか、まあ暗い話はここまでにして。それで受けるのか?」
「婚約のことか?」
「ああ」
「それがな、エレナさんは本気だって言っていたけどさ、あんまり二人で話が出来ないんだよ」
「まあ、それは自分でなんとかしないとな」
「どう言うことだよ」
「気づかないのは罪だぞ、じゃあ俺は仕事あるから帰るわ」
こいつ仕事の合間で来やがった、まあ急な話だったからしょうがないが。
「分かった、此処は払っとくから国の安全の為に馬車馬のように働け」
「馬車馬?」
伝わらなかったか。
「まあ、頑張れってことだ」
「分かったよ、ありがとう」
「おう」
ありがとうは日本語だった。
それから王宮に帰り、散歩でもしようかと思っていたら庭園で休んでいるエレナと会った。
「エレナさん」
「あ、心太様」
「様はいりませんよ」
「では、心太も様もいらないしため口でいいよ」
「分かった」
いきなり、距離が近づいた気がした。
「今は休憩時間?」
「うん」
「そっか」
こんな時どんな会話をすれば良いのか分からなかったが、以前女の子と二人で話す時は笑顔で優しく雰囲気を柔らかくと教えてもらったことがあったので、笑顔はキープした。
「なんだか、不思議なものだね」
「何が?」
「いや、出会ったばかりの私達が婚約だなんて」
「エレナは本気なのか?」
「勿論、爆弾から助けてくれた時の、顔は忘れないわ」
「そうか」
「でも、貴方の仕事が大変なのも分かっている。だから此処にずっといて欲しい訳じゃない。私は誰かの笑顔を守ることを頑張る貴方が好きなの」
「そうか、以前同じことを言われたことがある」
「そうなの?」
「うん、俺は色んな人を傷つけてきた。だからその分誰かを助けて欲しいと」
「そうなんだ」
「ああ、だから俺は世界中を飛び回って人を理不尽の殺しから守らないといけない」
「そう、分かったわ」
それかで、エレナは使用人に呼ばれて、何処かに行ってしまったが、それ以降、
ミラだけでなくエレナとも話すようになった。大分打ち解けて、今ではエレナの愚痴を聞きながらお茶を飲むことが出来る間柄にまでなった。
そうして、一週間はあっという間に過ぎ去った。
「それじゃあ、結論を聞く前に、我々親の立場から言いうと河上君」
この場にいるのは、イヴァンさんとミラーナさん、そしてエレナとミラに俺と高坂だった。
俺は今色んな感情が入り混じってドキドキしていて、とてもではないけど平常心ではいられなかった。これで婚約はなしで、この国に居られなくなるのと、エレナとミラの顔を見ることも許さないと言われるのではないかと思った。
「合格だ。おめでとう」
「そうですか」
まあ、それはそれで困るのだが。
「君の意見を聞かせてほしい」
俺は先程のドキドキを抱えながら、答える。
「俺には、これまで以上に世界を飛び回って仕事をしないといけません。神鹿狼奈が居なくなったとは言え、まだまだ犯罪が無くなることもないし市民が安心することも、そして世界が理不尽に埋もれていることもあります。だから、俺は此処にはいれませんしエレナさんのことだけを考えられることは出来ません、なので僕はこれからも今の所結婚をする気はありません」
誰も話さないので沈黙だけが、流れる。
これは、もうブルガリアにも二人の顔もテレビですら見ることは許されないかもしれない。
「河上君…」
「お父様!!」
「ん?!」
急にエレナが大声を出すので、この場にいた皆が驚いた。
「エレナ、どうしたの?」
「私は…」
「エレナ、ちゃんと聞くんだ」
「え?」
「河上君が断るのは最初から、分かっていたんだ」
「え?」
「だって、彼が仕事を休める訳がないと分かっていた。だからこれからは、もしこれから仕事が出来なくなったり困った時は助けになろうと思っていたんだ。だから怒る気もないよ」
「私も同意見です」
ミラーナさんも同意見だとは思わなかった。
「そうだったのですね」
「ああ、まあ婚約したいと河上君が言えばすぐにでも式を挙げよう」
「そうですね」
なんだか、あったかい家庭だと思った。俺は日本以外でここまで優しく、高貴な家庭は他にはないと思わせる程だった。
「心太様、そろそろ飛行機の時間です」
「そうか」
「では、私が送ります」
「もう、心太帰っちゃうの?」
そう寂しそうに言うのはミラだった。
「ミラ、我儘を言うと河上君が困っちゃうでしょ?」
「えー、でも」
ミラとは一番時間を共にして沢山遊んだ、ミラーナさんや、此処で働いている方から「あんなに笑っているミラは久しぶりに見た」と言われえる程にミラは俺に懐いてくれた。エレナと同様に日本語を教えていたがその代わりに俺はブルガリア語を教えてもらった、俺には時間があったので一週間ぎっちり勉強したらある程度は会話出来るようになった。でも、エレナは大分ぎこちなさはなくなったようだったが、ミラはそこまでは行ってなかった。
ミラは今にも泣きそうな顔をしていた。
「ミラ、俺はまた遊びに来るしそれに、電話もできるからそんな顔しないでくれ」
「んー」
泣きそうな顔を見せるが、ぎりぎり泣かないでいる所だった。
「じゃあ、こうしよう。今度、会う時までに日本語で話せるように頑張ろう」
「分かった」
ミラは俺に日本語を教わる時が一番楽しいと、言ってくれたし何より家族の中でもミラが一番日本が好きだそうで、だったのでそれは正直嬉しかった。
「それじゃあ、俺がブルガリア語で話せるのと、ミラが日本語か英語でどれだけ話せるか対決だ」
「おー!!」
「ふふ、やっぱりミラは河上君と居るのが楽しいのね」
「うん!!」
「じゃあ、心太、行こうか」
「おう」
俺は高坂とエレナと王宮の出口まで、談笑しながら通り門まで来た。
「それじゃな、エレナ」
「あの?」
「ん?」
「私は先に車に行っていますね」
高坂が先に行ってしまった。
「なんだエレナ?」
「私は諦めてないから」
「何を?」
「婚約」
「え?だって俺は此処には」
「私が着いていくから」
「いやいや、エレナは王妃にならないとだろ」
「王妃になるのは、ミラで構わないわ」
「そんなことを簡単に言うな」
「簡単には言っていません、考えた末の結論です。ミラに宿題を出したように、私はお父様とお母様に心太に着いて行っても構わないか聞いて了承を得るのを宿題にします」
「ああ、分かった」
なんだか、底知れない恐怖を感じたがここまで、好いてくれるのは嬉しいものだ。
「じゃあ今度こそ」
「うん、じゃあね」
エレナは俺の頬に口付けをして、手を振りながら俺達を見送ってくれた。
正直頬とは言え、口付けをされたのはびっくりしたがそれでも、またこの国に来られるのが嬉しかった。
そうして、俺のブルガリア共和国での一週間が終わった。
そして、現在。
「これが、俺のブルガリアでの生活とエレナとの出会いだ」
「何だかんか、色んなことがあったんだね」
「まあ、大変だったけど楽しい一週間だったよ。それに俺はブルガリアには何回か行っているからな」
「そうなんだ」
「ああ、近くを通るときは必ず行っている」
「へー」
「なんだよ」
「なんか楽しそうだなって、良いね婚約者がいるって」
「いや、だから婚約はしてないって」
「はいはい、分かったよ」
「心太様、そろそろ飛行機の時間です」
「ん?もうそんな時間か」
「どこ行くの?」
「リヨンに行くんだ」
「ああ、大切な人に会いに行くんだっけ?」
「ああ、それじゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃい、文化祭楽しんでおくからお土産ね」
「それは、安藤にしかメリットないだろ」
「幸せアピールした、罰だから」
「はいはい」
なんか、怒っているんだよなと思うながら俺と高坂は飛行機でフランス、リヨンに飛んだ。