翌日。
昨日の出来事から私は、どう河上君と接すればいいのか分からなかった。昨日は帰った後もリビングに出てこなかったし、それで悩んでいたら高坂さんが言った。
「心太様には普段通りに接してあげてください、何も聞かずに。多分お話するのなら自分から話すと思われますので、どうか普段通りに」
そう言われては、もう普段通りに接するしかないのだがやっぱりあの時の瞬間が脳裏にちらつく。
そんな、葛藤がありながらも階段の方を見ると河上君が二階から降りてきた。
「おう、安藤」
「おはよう」
「じゃあ行くか」
「行くって何処に?」
「小鳥遊に見てもらうんだろ?」
「行くの?」
「勿論、元々俺は会う予定だったし」
「じゃあ、舞達に連絡するね」
「よろしく」
それから舞に連絡して颯太君も来られるとなり、学校の最寄り駅を集合場所にして高坂さんの運転で家を出た。
それから、駅の前に舞と颯太君が立っていた。
「舞」
「え?車で来たの?」
「取り敢えず乗って」
「はい」
河上君は助手席に座って、あとの私たちは後ろにいるのだが四人乗りの車に後部座席三人は狭かった。
「あの?運転してくれている人は誰?」
舞が小声で聞いてきた。
「河上君の執事の高坂さん」
「執事!!」
過剰に反応したのは、颯太君だった。
「初めまして、心太様の執事をしております。高坂です」
「あ、どうも、斉藤颯太です」
「私は高倉舞です」
「よろしくお願いいたします」
「心太お前に執事なんていつ付いたんだ?」
「執事って言うか、お手伝いさんみたいな感じだからそんな大層なもんじゃねえよ」
「金持ちになったんだな」
「俺じゃなくて、親がな」
颯太君も舞も普段通りで良かった。それが一番気になっていたことだったから。
それから都心に車は向かい、東京駅付近に着いた所で車が止まった。
「着きました」
「此処から歩いて行くんですか?」
「はい、寄りたいお店があるので」
それから数分歩いて、着いたのは如何に高級なケーキ屋だった。
「私は隣りのお店ですので、皆さんはケーキ屋に」
「分かった」
それから一度解散して、私達はケーキ屋さんに入った。
「いらっしゃいませ、おや河上様でしたか」
「どうも、高田さん」
「今日はお友達も一緒なんですね」
「はい、今日のオススメは?」
「今日はモンブランですね、良くできた傑作なんですよ」
「そうですか、ではショートケーキとモンブランを三つで」
「かしこまりました」
私達は河上君とは一歩後ろにいた。それは此処のケーキ屋さんの値段が高すぎるのだ。
私の家でもこんなものは、誕生日やご褒美の時しか食べられない
「お前ら何やってんの?」
「え?」
「え?じゃなくて何買うの?」
「いや、私はいいかな」
「俺も」
「私も」
三人とも同じ考えてだったようだ。
「いいのか?せっかくだし、一緒に買おうと思っていたのに」
「奢ってくれるの?」
「舞は奢られると直ぐに、飛びつくもんな」
「なによ、颯太だって自分では買えないから良いって言ったんでしょ?」
「まあな、そう言うわけでゴチになります」
「分かったから早く選べ」
それから私達はそれぞれ、何を選ぶか考えて一周回って店主オススメのモンブランにした。
お店を出ると、高坂さんが待っていた。
「では、行きましょうか」
「おう、それで茶葉はあったのか?」
「はい」
「これで透子さんも喜ぶな」
「そうですね」
それだけの会話だったがなんだか、高坂さんがルンルンな気分じゃないかと思った。
それで私は河上君に耳打ちをして小声で話しかけた。
「ねえ河上君?」
「どうした?」
「なんだか高坂さん楽しそうじゃない?」
「良く気付いたな。高坂は小鳥遊の助手をしている、透子さんて人と一緒にいると笑顔が増えるんだ」
「え~、それって」
「ああ、そう言うことだな」
「ふふ、いいね」
「ねー、さっきからなんだかお二人で楽しそうね」
舞がそれを見ていたらしい。
「いや、何でもないよ~」
「なにそれ~」
私と舞はじゃれ合って歩いた。
そんな中、河上と颯太は二人で話をしていた。
「なあ、心太?」
「ん?」
「JKのじゃれ合っている姿はいいものだな」
「変体」
「変体じゃねえよ」
「それよりお前は一生、高倉さんの尻に敷かれるな」
「なんだよそれ」
「なんだかんだ言って、二人は結婚まで行くかもなってこと」
「結婚か~」
それから、都心のマンションに行き。インターフォンを押して中には入り、最上階までエレベーターで行き部屋の前まで来た。
「なんだか、普通の家だな」
「颯太、失礼なこと言わないの」
「でも、人気霊媒師で予約がとれない場所って言うから期待するだろ」
「まあそれはそうだけど」
「良いから入るぞ」
「はーい」
高坂さんがドアを開けると、中は広々としていて物が丁寧に配置されていて。でも、居心地は不思議と悪くなかった。
「ようこそお越しくださいました」
「透子さん、久しぶり」
「お久しぶりです、河上様。高坂さん」
「お元気でしたか?透子さん」
「はい、私は」
「こちら、いつものです」
「いつもありがとうございます」
「後ろいらっしゃるのが河上様のお友達ですね」
「はい、今日は無理言ってすいません」
「いえいえ、河上様のお友達と会えるのも小鳥遊は楽しみにしておりましたよ」
「そう言っていただけると助かります」
「ええ、立ち話もなんですからこちらにお座りください」
そう言われて、私達は椅子に座ったが小声で河上君と透子さんと言う助手さんの会話が聞こえた。
「透子さん」
「はい?」
「さっき私はって言っていたけど、もしかしてタイミング悪かったりします?」
「そうですね、少し荒れています」
「やっぱりか~。まあなんとかします」
「よろしくお願いいたします」
小声で話していたが私が一番近かったので、聞こえてしまったが皆は聞こえてないみたいで談笑していた。
「俺って何か憑いているのかな?」
「颯太はなんか凄そう」
「凄いって守護霊とか?」
「いや、悪霊」
「おい」
こちらはこちらで、楽しそうだ。
それから、少し経って奥の部屋のドアが開いた。
「皆さん、お待たせしました」
そこには、淡いラベンダーグレー色でフワフワに巻いた髪で、深いグレーに薄紫が混じった瞳を持っていた。
「美人~」
颯太君がそう言った瞬間、舞が鋭い視線を向けた。
「いや、悪かった」
「では、皆さんお入りください」
私達は椅子から立ち上がり、部屋に向かうと河上君と高坂さんはそのまま座っていた。
「河上君と高坂さんは?」
「俺は小鳥遊と長話だし、高坂は透子さんと話すから気にしないで視てもらえ」
「え?心太様?」
「ふふ」
高坂さんはタジタジしていたが透子は笑っていて楽しそうだった。
「分かった」
私と舞と颯太君は奥の部屋に入った。
中は薄暗く一つ椅子が置いてあった。
「ではお一人ずつ座ってください」
「じゃあ、俺からで」
「では、お名前を教えてください」
「斉藤颯太です」
「では、斉藤さん。霊視を始めます」
小鳥遊さんは颯太君の胸の前に手をかざして、目を閉じる。
周囲が静まり空気の密度が変わった気がした。
「視えました」
私達は小鳥遊さんの雰囲気に飲まれて黙って、小鳥遊さんの口が開くのを待った。
「……あなたはいつも笑っているけど、少しだけ無理しているわね。
誰かを明るくするために、自分を“明るい役”にしている。
でも、その光は本物よ。嘘じゃない。
ただ、たまには“黙ってそばにいてくれる誰か”が、必要になる時が来るわ」
「ありがとうございます」
颯太君は嬉しそうに満足気だった。
「じゃあ、次は私で。名前は高倉舞です」
「では、始めます。」
舞も同様に空気感が変わる。
「視えました。あなたの言葉は、刀みたい。よく切れるけど、鍔がついていて人を守る。
強く見えるけど、本当は誰よりも“誰かの弱さ”に気づける人ね。
だからこそ、誰かに甘えたり頼ったりするのが……少しだけ下手。
……心の鎧、少しは脱いであげてもいいと思うわ」
「当たっているわ、凄い」
舞は少し興奮気味になっていた。
「さくらはどうなるかな」
「じゃあ、最後の方」
「はい、安藤さくらです」
「はい、では始めます」
私は黙って待つが、他の二人とは違い少しだけ時間がかかった。
「お待たせしました。視えました。
あなたの心の奥に、鍵のかかった部屋がある。
そこに“昔のあなた”が座っているの。
……たぶん、誰かに『ここから出して』って言いたいんじゃないかしら。
でも大丈夫。あなたは、もう少しでその扉を開けられる。
自分で開けるんじゃなくて、“開けてくれる誰か”がいるから」
なんだか、私の心の中を見透かされた気がした。
家族のことが視えたのだろうか?それなら当たっている気がした。
「ありがとうございまします」
「はい、では河上を呼んできてもらってもいいでしょうか?」
「はい」
そして、私達は部屋を出た。
「あれ?心太は?」
リビングに、河上君は居なかった。
「あ、終わりましたか」
透子さんと言う方がベランダの方に行ったと思ったら、河上君はベランダで煙草を吸っていた。
「あいつ、煙草吸ってんのか?」
「なんか意外」
二人は河上君が煙草を吸っていることは、知らなかったようでびっくりしていた。
そうして、透子さんがベランダで声をかけた。
「河上様、小鳥遊がお呼びです」
「ああ、今行きます」
河上君はベランダから出てきて、奥の部屋に入って行った。
「なんか、かっこよかった」
「え?」
「河上君のこと?」
「うん、なんか良いわ」
「あんなの自分が煙草吸っている、自分に酔っているだけだろ」
明らかに颯太君は嫉妬していた。
「河上君はかっこつけて、煙草を吸っているわけじゃないと思う」
「そうなの?」
「うん、前に大切な人のことを忘れない為に吸っているって言っていた」
「なんか、さくら詳しくない?」
「え?」
「そうですね、心太様のそんな事情を知っている人がいるとは意外でした」
透子さんが追撃してきた。
「え?いや、前にふらっと聞いただけだよ」
「本当に~」
「本当、本当」
「なんか今日も車で一緒に来ていた気がしたし」
やばい、一緒に住んでいることがばれてしまう。私は高坂さんに助けを求める為に見たら何も言わない感じだった。
「えーっと、家が近いだけだよ」
「そうなんだ、へ~」
これ以上話すのは、危険だと思った瞬間、透子さんがお茶を持って来てくれた。
「高坂さんにもらった、茶葉で作った紅茶です。」
「いい香り」
「いただきます」
上手く舞の攻撃を交わせた。
「あの?透子さん?」
「はい?」
「河上君と小鳥遊さんってどう言う関係なんですか?」
「俺も不思議だわ」
それは、私も気になっていた。
「お二人の関係ですか、なんと言えば良いのでしょう」
透子さんは難しそうに考え始めた。
「多分ビジネスパートナーと言うのが近しいかと。高坂さんはどう思いますか?」
「私も同意見です」
「ビジネスパートナーですか」
「はい、あれは、数か月前のことですかね。海外で仕事を一緒にしたことがきっかけだったと思います」
「仕事?心太って何やっているんだ?」
「小鳥遊様の霊媒のお仕事を心太様が、手伝ったことがきっかけです」
多分インターポールの仕事だろうけど、それを上手く逸らして話す所はやっぱり凄いなと思った。
そんな他愛もない会話がリビングで行われている中、河上と小鳥遊は二人しかない密室で会話をしていた。
「で、何の用だ?小鳥遊」
「ちょっと、約束覚えてないの?」
「約束?」
「二人でいる時は名前で呼んでって」
「ああ、あれか」
「やっぱり、忘れてる」
「分かったよ、で急に連絡してきて何の用だ?澄玲」
「うん、最近サマエルの幹部が日本に来ているのは知っているよね?」
「ああ、京野さんからも随一連絡は来ている」
「やっぱり、私も京野さんから聞いているけどさ、止められないのかな?」
「日本に入国しているのは、ただの幹部じゃない。訓練を受けていて変装や偽造は朝飯前なんだろ」
「まあ、分かっているけどさ」
「そろそろ、本題を話してくれ」
「また、夢を見た」
「予知夢か?」
小鳥遊は予知夢を見ることができる、存在でインターポールや主に警察に捜査協力をしていた。そもそもが、捜査能力が高いので霊媒や予知夢を使わなくても京野さんから、意見を聞かれることが多かった。
「それでね、赤い月の下で、血だらけで立っていたの」
「それはどう言う意味を持っているんだ?」
「血が出てくる夢は大体重大な事件の暗示なの、神鹿狼奈と心太の最後の事件の時も見た夢なの」
「そうだったのか」
「うん、それで気になって京野さんに聞いたら。血だらけの男に近い人がこの人だったの」
小鳥遊が河上に渡したのは、一枚の写真だった。
「こいつは」
「知っているの?」
「ああ、マモンと言われている今のサマエルを動かしている人間だ」
「気を付けて、血だらけの人間が出てくる時はそいつが大体、大事件を起こす」
「分かった」
「それから一つ朗報」
「なに?」
「……昨夜、私は夢を見たの。
海の底で、燃えるような花が咲いていたわ。
忘れられた想いが、再び浮かび上がる……そんな夢だった」
「恋愛系か?」
「うん」
「そうか」
河上は切ない顔を一瞬見せて、部屋を出た。
「終わったぞ」
河上君と小鳥遊さんが出てきた。
「では、ケーキを食べましょう」
「ケーキ?!」
「はい、皆さんが持って来てきて下さったので」
それから、全員分のケーキと紅茶を出してくれて皆で食べた。
「疲れている時は甘い物に限るわね」
「そうですね、お疲れ様です」
「あの?」
「はい?」
「小鳥遊さんって彼氏いるんですか?」
颯太君がいきなりぶっこんできた。
「颯太、失礼でしょ!!」
「えー、良いじゃん有名でテレビに出ているし」
「大丈夫ですよ、いませんよ」
「テレビってやっぱりかっこいい人とか可愛い人とかっています?」
「ええ、ビジュアルが良い方は多いですよ」
「まあ、それで売っている奴が多い世界だから当たり前だろ」
「そう言う心太はテレビ出てないじゃん」
「俺はテレビはニュースしか見ないから知らん」
「やっぱり」
「すいません、こいつ面食いなんで」
舞が申し訳なさそうに言うが、それは自分が顔が良いって言っているようなものだが、誰もそれを言わなかった。
そんな会話でケーキと紅茶を飲んで、私達は小鳥遊さんの家から出た。
「ありがとうございました」
「はい、良ければまたいらっしゃってください」
「はい、お願いします」
「予約が取れればいつでも行きますよ」
そんなことを言うので、颯太君がチャラく感じた。
「皆さんことは、河上様のお友達なのでご贔屓にしますよ」
「よっしゃー!」
「颯太もう恥ずかしいから、話さないで」
「はーい」
「では、ありがとうございました」
ドアを閉めて、車に乗り二人を家まで送って、私達も家に帰った。
一方、小鳥遊は嘆きながら暴れていた。
「ああーもう!!」
「澄玲ちゃん、もうクッションで暴れるのはやめてください。埃が舞う」
「だってー、心太に恋愛の夢を見ちゃったんだもん」
「それで、最近荒れているんですか?」
「だって~」
「もう、その様子だと部屋も荒れているだろうから掃除するよ」
「あー、だめ!!」
小鳥遊は部屋に走って行き、ドアに鍵をかけてしまった。
「ちょっとー、澄玲!!」
「もう、今日は寝る!!」
「はー、もう奥の手使うしかないか」
透子は椅子に置いてあった、紙袋を持ち小鳥遊の部屋の前に立った。
「寝る前にこれ受け取って」
「なに?!」
「河上様が置いて行かれました」
「へ!!本当?」
「本当なので出てきて」
小鳥遊はドアから顔と右手だけ出して、紙袋を受け取った。
「なにこれ?」
「さあ?じゃあ私は仕事部屋の掃除するから」
小鳥遊は部屋に戻ると、紙袋から物を出した。
「あ、これ」
中身はアロマサシェだった。これは小鳥遊が欲しがっていたものだった。
そして、携帯に河上から連絡が入った。
〈紙袋の中見たなら、それでリラックスして落ち着け〉
それを見た、小鳥遊はアロマサシェを見つめながら、一言言った。
「なんで、荒れていること気づいているんだよ。まあ、有難く受け取るけど。」