ピカン・シティの夜は眠れる地域と、そうでない場所の差が激しい。
アルテミスのアジトがある場末の地区は静かなものだが、繁華街はネオンが煌々としており、夜の店がにぎわっている。
「ヤツのうちは街中だな。別に夜だからといって、静かなわけでもない」
足早に直前の下調べとして現地へ向かいながら、ラウルが呟いた。
「まあ、今回はたいした仕事じゃねえだろ。ただ、目的のブツの数がなのかハッキリ分からないのが難点だけど……」
「それが分からないから困ってるんだ」
「まあ、サンタさんもびっくりな巨大袋を持ってんだし、大丈夫だろ」
折りたたまれた袋の入ったリュックをポンポンと叩き、ジオットが言った。
「運び出すとき、目立って仕方ないがな……」
「ボスには目立ってナンボって考えもあるらしいけど、まあ、オレがついてりゃなんとかなる」
「……以前のような失敗作を持ち込んでいなければな。ところで……」
ラウルが話題を変えるよう、咳払いをした。
「ん?」
「さっき、妙な事を言っていたが、あれはどういう意味だ?」
「妙な事?」
「だから、お嬢様とどうとか……何故そんな発想になったのかをだな――誤解が生まれるような発言は慎めと」
ジオットが余計なことを言った所為で、ローザに絡まれることになった。
時計塔への一件を知らないなら、いったいどこを切り取ってそう思ったというのか――
「ああ。おまえさあ、一昨日だったか、例の苦手なモノを食わされたことあったろ? その日の夜に――」
「―――」
ラウルの表情が驚愕のそれで固まった。
「どっ……?」
――どうしてそれを……?
「おまえのことなんか丸ごとズバッとお見通しなんだよ」
不敵な笑みを浮かべるジオットを不気味に感じながら、ラウルは『あのとき』のことを思い出していた。