――ところで、どの辺だ? ここは……?
波の揺れ、風の向き等の影響があり、思ったようには進めなかったものの、少しずつ島には近づいているはずである。
水平線に光が差し、日が昇りはじめているのが分かった。
双眼鏡から覗ける距離の最大が十キロ程度であることを考えると、客船を降りた時点でそう離れていなかったわけで――もう着いていてもいいのではないかと思った……のだが。
――あちらが東だということを考えると、大きく外れてはいないはずだが――
太陽の眩さに目を細めながら、おおよそ北北東の方向を見る。
――向こうに、何かあるはずだ――
逆光のために何があるのかよく見えないのだと言い聞かせながら、そちらの方向に向かってオールを漕いだ。
風も弱まり、波が穏やかだったために、ようやく自分の意図するよう、進むことができた。
そんな調子で進むこと、一時間――
「あった……!」
海に浮かぶ、大きな影。
霧がかって見えるため、輪郭はハッキリしないが、例の小島であることは間違いないだろう。
――あれが、バンプフ島……。
徐々に近づいていくなかで、妙な違和感を覚える。
――……ずいぶん、
どこか停泊しやすそうな場所を探して……と、考えながら、島の周囲を回りはじめたが、断崖絶壁に囲まれていて、上陸は難しそうに見える。
――とすると……
ワイヤーアンカーを太い幹の木にでも引っかけて、一気に昇ってしまうのがベターだろうか……。
――そうするにしても、ボートを固定できる場所を探すのが先決だな。
退路を塞ぐわけにはいかない。
手持ちのロープで頑丈そうな大木にでも結び付けようと、周囲を見回した――そのとき……。
「あんた、この島に来たのか⁉」
頭上――絶壁の上から声がして、ラウルは顔を上げた。
デニム地の作業着姿が焦ったような表情をしている。
「島の方ですか?」
「いや、鉱物資源を取りに来たんだが、残念ながら、いまそれどころじゃない」
「それどころじゃないって……どういう――」
「見てみろ、ガスが発生してるだろ」
「これ、ガスなんですか? 霧じゃなく……? もう、危ないってことですか?」
ラウルは防御するよう、口元を押さえた。
「いや、これを『吸って』も。たぶんしばらくはどうってことはない」
「しばらくは……? どういう毒ガスなんですか? どれくらいで影響が……」
「人体の影響ってより――こいつの最も厄介なところは」
うしろを振り返り、男は険しい顔を造った。
「――些細なことで引火しちまって大爆発を引き起こすことだ! だからおれは島から出る! 早く逃げるぞ!」
「え? しかし、私はこの島に用が」
「急げ! 以前も危機感なく呑気にしてて、爆発に巻き込まれたヤツが結構いるんだよ。早く離れるぞ」
そう男が発した瞬間、耳をつんざくような轟音が響き渡っていた。