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第49話

――ところで、どの辺だ? ここは……?


 波の揺れ、風の向き等の影響があり、思ったようには進めなかったものの、少しずつ島には近づいているはずである。

 水平線に光が差し、日が昇りはじめているのが分かった。

 双眼鏡から覗ける距離の最大が十キロ程度であることを考えると、客船を降りた時点でそう離れていなかったわけで――もう着いていてもいいのではないかと思った……のだが。


――あちらが東だということを考えると、大きく外れてはいないはずだが――


 太陽の眩さに目を細めながら、おおよそ北北東の方向を見る。


――向こうに、何かあるはずだ――


 逆光のために何があるのかよく見えないのだと言い聞かせながら、そちらの方向に向かってオールを漕いだ。

 風も弱まり、波が穏やかだったために、ようやく自分の意図するよう、進むことができた。


 そんな調子で進むこと、一時間――


「あった……!」


 海に浮かぶ、大きな影。

 霧がかって見えるため、輪郭はハッキリしないが、例の小島であることは間違いないだろう。


――あれが、バンプフ島……。


 徐々に近づいていくなかで、妙な違和感を覚える。


――……ずいぶん、霧掛かガスって見えるな……天候が悪いわけでもないのに。

 どこか停泊しやすそうな場所を探して……と、考えながら、島の周囲を回りはじめたが、断崖絶壁に囲まれていて、上陸は難しそうに見える。


――とすると……


 ワイヤーアンカーを太い幹の木にでも引っかけて、一気に昇ってしまうのがベターだろうか……。


――そうするにしても、ボートを固定できる場所を探すのが先決だな。


 退路を塞ぐわけにはいかない。

 手持ちのロープで頑丈そうな大木にでも結び付けようと、周囲を見回した――そのとき……。


「あんた、この島に来たのか⁉」


 頭上――絶壁の上から声がして、ラウルは顔を上げた。

 デニム地の作業着姿が焦ったような表情をしている。


「島の方ですか?」

「いや、鉱物資源を取りに来たんだが、残念ながら、いまそれどころじゃない」

「それどころじゃないって……どういう――」

「見てみろ、ガスが発生してるだろ」

「これ、ガスなんですか? 霧じゃなく……? もう、危ないってことですか?」


 ラウルは防御するよう、口元を押さえた。


「いや、これを『吸って』も。たぶんしばらくはどうってことはない」

「しばらくは……? どういう毒ガスなんですか? どれくらいで影響が……」

「人体の影響ってより――こいつの最も厄介なところは」


 うしろを振り返り、男は険しい顔を造った。


「――些細なことで引火しちまって大爆発を引き起こすことだ! だからおれは島から出る! 早く逃げるぞ!」

「え? しかし、私はこの島に用が」

「急げ! 以前も危機感なく呑気にしてて、爆発に巻き込まれたヤツが結構いるんだよ。早く離れるぞ」


 そう男が発した瞬間、耳をつんざくような轟音が響き渡っていた。


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