『さてさて、滞りなく進んで参りました、闘茶王座決定戦ですが――次は優勝候補と名高い本大会の主催者カク家の執事である、ウイキョウ・バランタイン・シャン氏の登場となります!』
司会者の掛け声を合図に、会場の後方で待機していた二本のヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの四者による弦楽四重奏がはじまった。
――ちょっと、なんで急に盛り上げてるの? ズルくない⁉
ナディアが立ち上がりそうな勢いで、腰を浮かせた。
――主催側の特権というものでしょう。紛れもなく、これはウイキョウ氏を目立たせるための大会だったのかと……。
マリーがナディアを落ち着くように促しながら、冷静にそう呟いた。
――出来レースってこと? ホントに卑怯な女ね!
――出来レースもなにも……実際ウイキョウ氏に敵うような執事なぞ、おりませんでしたわ。少々嗜んでいる風情の者がせいぜい……。
――結局、わたしを
――分かりませんが……それもラウルさんが現れれば、の話ですわ……。
――どういう意味?
――彼が来なければ嗤われるもなにもありませんから。ただ、屈辱的な言葉を浴びせられる可能性はあるかと。ですからナディアさま……気分が優れないなどとおっしゃって、退出されたほうがよろしいかもしれません……。
出番のひとり前になっても、ラウルは現れない。
普段のナディアなら、腹を立てて帰っていたかもしれないが……今回は様子が違っていた。
――何を言ってるの? わたしの話を聞いていなかった?
――ナディアさま……?
ナディアの言葉に、怪訝そうな表情をするマリー。
――わたしはラウルを信じると言ったわ。だから、この局面で退出するなんてことはあり得ない。
――……そうですが……数分以内に現れなければ失格の可能性が……。
しばらくすると、弦楽四重奏の奏でる『貴婦人の乗馬』に合わせるかのように、ビロードの布に包まれた『背の高い何か』に跨るウイキョウが登場した。
「なに、あれ……?」
思わず、ハッキリとした呟きとなって、ナディアの口から言葉が漏れた。
――なんでしょう? あれは……。
いかにも高品質の
加えて微かに聞こえる、カシャ、カシャンという金属音が、心地よくリズムを刻んでいる。
決して耳障りなものではなく、極力音を立てないよう、細心の注意を払っての移動に思えた。
――脚立、ですわ……。
マリーが息を呑んだ。
――え?
「脚立だ」
「脚立に乗ってる……!」
「そんな……バカな……なぜ、脚立で乗馬のように……あそこまで気品をあふれさせることができる⁉ あれは只者じゃない!」
会場が騒然とする中、乗馬を思わせる動きでウイキョウはステージ中央まで移動していた。
「ブラボー。ここまででもう勝負はついたようなものね。あんな優雅な乗馬――いえ、
発言を求められなければ特に喋ることがなかったマダム・タンが表情をやわらげ、手を叩いた。
おお、と皆が彼女に注目する。
『タン先生がここまで賞賛されるとは、珍しいっ……これはすごい演技が見られそうです!』
ウイキョウがゆるりと前進するのを眺めながら、司会者が続ける。
『……改めましてナッツイート式闘茶について、簡単なルールを説明させていただきます。茶を茶碗に注ぐさいの茶壷の高さと、茶碗が受け止めた量が主な得点を判断する基準となり、さらには優雅な振舞、技の難易度など総合して採点されることになります。――それでは優勝候補と名高いウイキョウ氏の演技をご覧ください――』
まるで脚立と一体化したかのような自然な動きで一例すると、ふわっとシルクの布を取り出し、それを揺さぶった直後には煌びやかでかつ上等なティーポットを出現させていた。
「しかも、あのような技を……奇術すら麗しいわ。まさに神の領域……」
恭しく審査員に頭を下げると、ウイキョウはさっそく美麗な弧を描くようにティーボットをステージの台の上に置かれた茶碗へと注ぎ始めた。
二メートルという高さから注がれる茶は、多少の