「――で? 結局、どうなった?」
バーが地下に位置していることから、日の光は差し込んでこないため、夜が明けたことは分かりづらいが、ローザの声掛けによってハッとしたラウルが時計を確認すると午前八時を回っていた。
「依頼人は?」
「さきほど、地上までお送りした」
気兼ねなく好きに語っていいぞ、と続けた。
「……いまのところ、ターゲットは所在不明との話です」
瞼に目を描いて乗り切ったラウルは、それを布で拭いながら答えた。
仕事によっては短時間で情報を記憶しなくてはならないことが多く、睡眠時間を確保するため、彼には睡眠学習の特技があった。
ゆえに直に話を聞かず、意識が夢の中にあったとしても内容を把握することが可能だったのだ。
「ひとつ、いいことを教えてやろう」
「?」
「ハン会長絡みだ、これは」
「ハン会長? ドンですか?」
ピカン・シティを牛耳っている、大富豪の名前に息を呑んだ。
「一時期、ジャクリーという画家がもてはやされたことがあった。それは会長が推したからだという話がある」
「ドンのおかげで成功を収めたということでしょうか?」
「まあ、いくらドンの力が強いとはいっても、それだけじゃないだろうがな。そこに至るまでにはいろんな要因が絡み合っていたはず。ある意味、会長の目に留まったというのも運。知られなければ推されるもなにもないだろう」
「では、その『絵』はドンの屋敷にでも収まっているということですか?」
ローザは苦笑した。
「さすがにこの件で魔王の城に攻め入るのは無謀というものだろう。『ミスター・ハンの推し★絵画展』というものが開催されるのは知っているか?」
「え……? あ、ああ、小耳にはさんだことは……」
「ハン会長主催の絵画展だ。ピカン・セントラル・ホテル白虎の間を貸し切ってな……ちょうど、明日から十日間だということだ」
「随分、いいタイミングですね」
「『仕事』にも好機というものがある。さすがにその期間に被らない限り、こんな依頼は受けられないからな」
「計算ずく、ということですか?」
まあな、と言い、ローザは不敵な笑みを浮かべた。
「しかし、その……今回の依頼人のいう絵が、ドンの主催のイベントに展示されているとも限らないのでは?」
「あの
「それは……確かなのですか?」
「――ああ。しかも、ジャクリーはハン会長の推しの画伯でもあるらしい。わたしはなにも『依頼人に受けたとおりの仕事をこなす』ということが正解だとは思わない。この件の解決方法はいくつもあるだろう。……どうするのかは、おまえに任せる」
「つまり……丸投げするってことですか?」
ラウルが渋面になり、ローザは笑みを浮かべた。
「まあ、そういうな。今回の仕事はさほど、難しいことじゃない。おまえが最善を尽くすのなら、どんな結果になったとしても、失敗したとはならないだろう」
「………」