絵の具の材料採取で入った山の中、開けた場所で出会ったのは黒い毛並みに白く長い髪からは黒い耳と白い短い角。ばちりとあった視線のもとは金色の瞳をした牛族の女性。それは前に冒険者ギルドで視線を交わしたもののすぐに人並みに消えたあの女性であった。
『あ。』
まさにデジャブ。オニゴロシの花をまたいで互いに見合わせていたがどちらともなく近づいていく。
敵対するような雰囲気はない。吸い寄せられるような不可思議な感じに戸惑いつつも不快感はなく、むしろ同じ何かを感じる。
あぁ、そうか同じなのだ。
「おなじだよね?」
囁くように溢れていたこ言葉に女性の方も歩み寄ってきてじっと天結を探るように見ながらも頷く。
「たぶん。でも、私はあなたのような存在を知らない。」
手を伸ばせば届く位置。それが2人の距離だった。
「あー。それは当然だと思う。小柴は新しく作った一族だから。厳密に守り手とは言えないし。」
「小柴……。もしかして山幸に随行した小犬氏族?」
「そう。いろいろあって駿河まで流れたけど、私はここに辿り着いた。」
「それは……今代で約束の日が来るってこと?」
「それは私にはわから……ない。」
「ではなにをしに殺魔にやってきた?」
「血の帰還と役割の守り手として。」
「三巫女では役不足だと?」
「それを判断したから犬が300年かけて新たな血を紡いだ。」
「だから帰還したと?」
「来たるべき日に備えるは殺魔の総意にして悲願と小柴は考える。」
「たしかに。備えは必要か……。」
「封印はいつかは破れるもの。備えよ。」
「委細承知した。……おかえり犬族の。」
「小犬族、小柴天結。」
「なるほど。大した力だね。私は大牛族、牛牟田椿。……疲れは?」
「ない。……椿さんは温泉都市に住んでるの?」
「椿でいいよ。……そうだよ。普段は紙漉きをしてる。」
「あ、じゃぁ私のことも天結って呼び捨てにして。じゃぁ、紙を作る場所があるよね。」
「もちろん。紙漉きに興味があるの?」
「私は画家なんだけど自分で使う道具は全部自分で用意するようにしてるの。殺魔には来たばかりだから紙を作れる場所探してて。」
これが天結が家を決めれなかった理由である。紙漉きをするならそれなりの広さが必要になる。植物を採取してきてから10の工程を踏むし最後は広げて干さねばならないので単純に広さが必要なのだ。
それがなければここに住みたいという候補がいくつかあるので住居探しも捗る。
「あー。それならうちを使うといいよ。ここからも近いから今から見にくる?」
「いいの!?助かる!オニゴロシの処理もしたいからさせてもらえると嬉しいんだけど。」
「いいよ。私もオニゴロシの処理はしちゃいたいから一緒にやっちゃおうよ。」
「ありがとう!私は絵の具にしたいから花だけ欲しいの。椿はどこの部分使うの?」
「絵の具?紙じゃないの?茎の繊維使うと何故か色に艶と白さがましていい紙が作れるんだよ。」
「そうなの?知らなかった!それならさぁ⸺⸺。」
ほぼ初対面にもかかわらず2人は意気投合した2人は仲良くオニゴロシを採取して山を降りることにした。
「ところで肩のその毛玉は何?」
「あびぃちゃん。」
「なにそれ。」
「絵画生物っていう私が絵を描いて神通力で召喚してる生き物じゃない生き物?」
「はぁ?え、それ……はぁ!?」
その日賑やかな少女たちの声が山に響いていた。