「さあ!やってまいりましたぁ!大っ討っ伐っ!!」
まだまだ朝もやが立ち込めて辛うじて朝日がし始めて早朝。
テルクニの通りに集合した騎士が整然と居並ぶ最前列で急遽立てましたと言わんばかりのお立ち台の上で朝の空気はなんのその。我らの麗は今日も明るき元気である。爽やかさがあるかはわからんが。
「今年もこの時期がやってまいりました〜!じょ〜きゅう魔物の素材がほしぃかぁ〜〜!?」
『お〜!』
麗のソプラノコールに返る野太くも低いレスポンス。街に近い第一師団だけではなく周辺の第三師団の犬隊・鳥隊に龍隊までいるので壮観である。
その犬隊の先頭にいるのは大柄の狛犬統合藤右衛門。普段から騎士服ではある。が、こうしてみるとあれは普段用でくたびれたりしているようで、今日は皆パリッとカチッとした騎士服を着こなしていている。
(騎士副補正かかりまくってていつもの三割増しでかっこいい気がする。制服萌えとはこれか。)
「冒険者諸君!一攫千金狙いたいかぁ〜!!」
『お〜!』
オーディエンス席からも慣れた様子でレスポンス。
「それじゃ、細かい規則説明するからぁ〜お耳をよぉ〜くかっぽじって話を聞くようにぃ!」
『お〜!』
君たちノリいいね。と、言いたくなるくらいこの日の殺魔は時間も気にせず元気にアドレナリンが上がっている。
本当に今から上級魔物の大討伐ですか?と言いたくなるほどの緊張感のなさ。
討伐を始めるために戦士を鼓舞する。と、意気込んでいた麗である。もっと厳かなものかと思いきやただの祭り騒ぎになっている。
冒険者にとっては他国からも、珍しいものが何か手に入るのではないかと近隣諸國から人が集まっているのでまぁ、そういう側面があるのも否めない。
麗は一度お立ち台から降りると担当騎士と交代して騎士の並ぶ列の横に設置された白いテーブルクロスがかけられた長机のいかにもな来賓特別席まで下がる。
その特別席には順に統治王たるイサハヤ、大牛氏族の長、小兎氏族の長、大犬氏族の長、小犬氏族の長ときて椿が座っている。その横にいそいそと座る麗。
(わざわざ役職プレート立ててる……。なんで?)
御偉方様の後ろには側近や護衛が立っている。
(あれ?あそこにいるのは蓮犬さん?護衛役かな?)
もうすっかり見慣れたウェスタンハットが見える。
椿と麗は騎士でもないので揃いの隊服みたいなものはない。かといって山に入りこれから戦うので巫女装束というわけにもいかないのでそれぞれ動きやすい服装をしている。
長々と討伐の諸注意を述べているのは騎士団を束ねる総団長である龍の獣人である。
古来から龍の顔は狼に似ている。と言われるほどなので他種族に比べれば、犬氏族の天結にとって龍氏族の美醜はなんとなくわかるが、この総合団長はだいぶ美形である。キラッキラである。
いや。比喩じゃなくて。物理的に。
(鱗きらっきらですなぁー。)
乳白色の鱗が朝日を反射して眩しすぎて目が潰れそうだ。反射的にあさっての方向に目をそらした天結は悪くないはずだ。
側近と思われる同じく龍氏族の男はお立ち台から散歩引いたところで目を眇めている。ちなみに色は黒だった。天結の見間違いでなければ。
そんな輝く総隊長の話の後はイサハヤによるありがたぁ~いお話である。
(どこの國でもこういうのって話長いなぁ。話何分って規則でもあるんだろうか。)
出陣式をやっている騎士団を離れた位置から囲うようにその家族や同じく討伐に参加する冒険者が野次馬のようにたむろしている。なお、この出陣式に冒険者が参加する義務はない。あくまでもこれは騎士団が行っているものである。
街の人たちは魔物がここまでやってこないというのは、長年の経験から皆わかっているようで魔物の津波が来るなんて認識は薄い。どちらかといえばお祭り騒ぎ。それもそのはず、他國から人がたくさん来るので珍しいものが入手できると思うものも多い。
おまけにそこ討伐後は狩った魔物は前線に立つ犬・鳥・龍獣人以外は解体作業に入る。これは住民も率先して参加する。なので今夜は町を挙げての焼肉祭りである。
それもあって住民たちはこの日祭り騒ぎとなる。
まぁ、農繁期前の栄養会みたいな役割もある。それがわかってるからこそのこのお祭り騒ぎである。
見慣れた通りにはいつも以上に小舟の屋台のようなものがたくさん出ている。祭りは準備が楽しいとはよく言ったもので、この街の住人はとことん他の住むつもりなのである。
船屋台の列に驚きを隠せないが食べ物の屋台の合間にちらほら雑貨も見える。並んでいるのは飾り紐のようなものが多いが、何か意味があるのだと麗と椿言っていた。が、あまり自分には関係ないだろうと話半分で聞いていたので内容は覚えていない。
そんな街の変化を横目に観察しながら野次馬に混ざって出陣式を見守る。出発前には声がかかるだろう。
出陣式が始まる前、指定席に向かおうとする二人が「一緒に」といったがあんな見世物パンダ席はごめんだったので辞退した。
前文明の神殿前大通りテルクニは今日も温泉に満たされ蓮の花が流れてくる。そんな通りの真ん中で再びお立ち台にぴょんぴょんと飛び乗った麗が乗ると独特の間延びしたソプラノで天にこぶしを突き出す。
「では諸君っ!出発っ!!」
春の討伐ここに開幕である。