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第18話:勇者の恋人

 蓮斗が勇者の情報に嫌な汗を浮かべていると、周囲から向けられるじっとりとした視線に気がつき顔をあげた。


「レント? その前に、わたくし達に言うべき事があるのではないですか?」


「そうだよ! 阿久津くんが》持っているなら、最初から——って、うわぁ! 文字読めるっ!? てか、ボクにも《鑑定》あったの!?」


 額に青筋を浮かべて静かに怖い笑顔を浮かべるベルの横で一緒に物申そうとした柚月が意外な事実に至るという騒動が起きているが、蓮斗は構わずもう一枚の紙に視線を移した。


 ◇藤原ふじわら舞香まいか 種族:人間 年齢:17歳


 レベル(存在格):10


 称号:勇者の恋人


 魔法適性:聖光魔法 暗黒魔法


 魔力値:D


 固有スキル:恋慕


 スキル:魔法耐久増加(C) 物理耐久増加(C) 謀略(B) 独占欲(S) 


 ——固有スキル《恋慕》発動条件:勇者と恋人関係にあり視界の範囲にいる事。

 効果:勇者の身体能力上昇、勇者の魔法・物理耐性上昇、勇者のダメージを肩代わり。


「こいつはこいつで、偏った女だな……」


 恐らく苦手なタイプだ、とスキルや称号の内容から推察した蓮斗は藤原舞香の紙をスッと裏返し、柚月の視界に入らないよう隠した。


「ふぉお! すごい! 色々な情報が見えるよ!?  ベルさんの情報も見られるのかな」


「いえ、レベル——この世界では生物としての存在に〝格付け〟があるのですが、そのレベルが離れ過ぎていると《鑑定眼》のスキルは阻害されると言われています。

 ですが、わたくしが鑑定を受け入れた場合は可能なはずです」


 はしゃぐ柚月に柔らかい笑みを湛えたベルが応え、蓮斗へと向き直る。


「強者になるほど、《鑑定》など自分を対象として発動されるスキルの〝感覚〟には敏感になります。安易に鑑定を使用するとそれだけで〝攻撃〟とみなされる場合もあるので気を付けてくださいね? 特に、レント? 絶対ですよ?」


「ハッ! 上等じゃねぇかっ! 面倒な前口上すっ飛ばして《鑑定》すりゃイイんだな」


 ベルの苦言に反省どころか、むしろ盛大に邪悪な笑みで応えた蓮斗に頬を膨らませて抗議の声を上げるベルをじっと見据えながら、ぽつりと蓮斗が呟く。


「……《鑑定》」


「やんっ、そんないきなり……なんか、恥ずかしいじゃないですか」


 なぜか顔を赤らめて身をくねらせるベル。


 瞬間、その背後から子犬と戯れるおっさんの様相を呈していたヴァルルスから狂気じみた殺気迸る真顔を向けられ、「ぐ——」っと思わず息を漏らす蓮斗。


 一先ずベルの情報を見ることに専念した。


 ◇マリィベル・セアリアス・グレントール 種族:人間 年齢18歳


 レベル(存在格):62


 称号:竜国の守護姫 女神の巫女 苦露魔流クロマルの飼い主


 魔法適性:聖光魔法 天空魔法 


 魔力値:A


 固有スキル:竜の守護結界 異界召喚(使用不可) 苦露魔流クロマル召喚


 スキル:杖術(B) 詠唱加速(A) 魔力操作(A) 身体強化(C) 威圧(A)

 王族の血(S) 魔法防御耐性(A) 天啓(S)


 加護:白煌竜の加護 


 ベルの情報を確認した蓮斗は思わず低く唸った。


 強い、それはわかる。


 いや、蓮斗にして見れば感覚的であってもベルが強者である事は理解できていた事であるからして、結果にもそこまでの驚きはない。


 何点か気になるスキルもあるが——効果まで見る事はできなかった——そんな事よりも、納得できない一文が蓮斗の意識を釘付けにする。


「……なんでお前が、飼い主なんだ」


「はい? 何のことです?」


 当人は気がついていない様子だが、それも当然で《鑑定眼》を持たない者は鑑定の魔道具を利用する事でしか自身の持つスキルや魔法適性、称号などの確認は出来ない。


 蓮斗は解せなかった。なぜ自分が〝契約者〟でなのか。


 この事をまだベルに伝えるのは、やめておこう——蓮斗が静かに意思を固めていると。


「へ? ベルさんがクロマルの〝飼い主〟になってるよ? なんでだろう?」


「——っち!」


「え? クロちゃんの飼い主がわたくしに!? どういうことですかユズキ!?」


 柚月に《鑑定眼》があった事を失念していた蓮斗が舌を打つも時既に遅し。


「んっと、称号? に載ってるよ? 《召喚》出来るっぽい」


「く、クロちゃんを召喚!?  なにそれ最高じゃないですかッ!! ふふふ、レント!

 もうクロちゃんは名実共にわたくしのクロちゃんですッ!!」


 声高に宣言するベルとひたすらにガンを飛ばし続ける蓮斗だが、その背後でヴァルルスを懐柔し、新たな称号を生み出そうとしている従魔がいる事を知る由はない。


「まあ、まあ二人ともっ! それより阿久津くん、クロマルにも一応鑑定してみたら? 召喚できるくらいだから戦えるかもよ?」


「ユズキ!? クロちゃんを戦わせるなんて、とんでもないですっ! あのモフモフに泥の一つでもついたらと思うとっ」


 感極まってヴァルルスと共にクロマルを愛で始めたベルを何とも言えない表情で見つめながら、柚月に促されたのは尺だが、蓮斗は一応鑑定をクロマルに発動する。


 ◇苦露魔流クロマル 種族:魔犬 年齢0歳


 レベル(存在格):25(従魔補正+20)


 称号:破壊者の従魔 守護姫のペット 松浦柚月の兄貴分 国王の愛犬


 魔法適性:炎雷魔法


 魔力値:B


 固有スキル:忠犬 転移(飼い主・契約者) 舎弟召喚 国王召喚


 スキル:牙強化(B) 身体強化(B) 魔獣魔法(C) 精神安定(S) 威圧(D)


 契約者:阿久津蓮斗


 ——固有スキル《忠犬》発動条件:常時 

 効果:契約者との意思疎通、視界共有、魔力共有。


 ——固有スキル《転移》飼い主・契約者の元へ転移する。


 ——固有スキル《舎弟召喚》個体名:松浦柚月を召喚できる。


 ——固有スキル《国王召喚》個体名:ヴァルルス・セアリアス・グレントールを召喚できる。


 蓮斗は複雑な心境になった。同じく《鑑定》を行っていたのか、柚月も複雑な表情をしていた。


「え? 国王召喚ってなに? てか、なんでボクも召喚されちゃうわけ?」


「……いや、すまん、知らん」


 何と言えばよいのか本当にわからなかった蓮斗はつい普段は滅多に口にしない「すまん」という言葉も思わず溢れてしまう程には、何も言えなかった。


「ぇと……どうしよう。自分の鑑定するのがめっちゃ怖い。

 ねぇ、阿久津くん? 一緒に見てくれないかな? 一人で現実を受け止め切れる自信がない」


「あ? まぁ……いいけどよ」


 微妙な空気感が漂う中、二人は静かに呟いた。


「「……《鑑定》……」」


 ◇松浦まつうら柚月ゆづき 種族:人間 年齢17歳


 状態:精神的外傷(重度) 効果:全能力及びスキル効果半減 称号効果半減


 レベル(存在格):5


 称号:破壊者の舎弟 魔犬の舎弟


 魔法適性:天空魔法 大地魔法


 魔力値:E


 固有スキル:パシリの矜恃


 スキル:戦斧術(D) 投擲術(E) 鎌術(E) 身体強化(E) 逃げ足(C)

 鑑定眼(C) 万能紋(A) 魔法防御耐性(D) 空間収納(C) 地図作成(D)

 意識共有(C) 


 ——固有スキル《パシリの矜恃》発動条件:常時

 効果:破壊者からの命令時のみ身体能力上昇、幸運状態付与。

 副次効果:絡まれやすい。


「「……」」


「……いや、なんか言ってよ阿久津くん」

「……クソザコだな」


「まあ、うん。わかってたけどね? ていうかスキル適当に取得しすぎじゃ無い? 使える武器系技能のラインナップが、びっくりするぐらい微妙なんだけど」


「……そりゃ、おまえが寝て——いや、すまん」


「クロマル以下って……流石に泣いちゃうよね」


 鎮痛な面持ちで互いの視界に映る情報を見つめる二人は、それ以上何かを口にする事はなかった。


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